軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15話

満景は兄の英孝が道の先に居るのを見て、どうしたものかと悩む。

明らかに英孝は、満景に用がありそうにしているからだ。

満景は、実家から出た身だからと、英孝を無視して去ることもできた。

しかし兄弟の間柄だからと、用向きを尋ねることぐらいはする気になった。

「兄さん。こんなところでどうしたの? 家の仕事の手伝いで、この辺りに来たとか?」

そんなはずがないと理解しながら、満景が言葉をかける。

すると英孝は、その身体から発している嫌な雰囲気を強めながら、満景に指先を向けてきた。

「おい。お前のような落ちこぼれが、よくあの学校に入れたもんだな! どうやって面接官に取り入った。犬塚家の名前を隠して媚でも売ったのか!」

唐突な内容だったので、英孝が何を言っているのかすぐに理解できなかったものの、満景は時間をかけて理解した。

「もしかして兄さんは、僕が熊野高等専修学校に入学するのが気に食わなくて、僕に文句を言いにここで待ってたっていうの?」

「文句じゃない! お前の不正を暴きに来たんだ!」

英孝の考えが分かり、満景は呆れた。

「不正なんて、できるはずがないでしょ。僕には、裏口入学ができるような資金も方法も、得ることができる環境じゃなかったんだから。それは兄さんの方が分かっているんじゃない?」

「俺の方がって、どういうことだ」

「僕は犬塚家の落ちこぼれ。父さんも母さんも、僕のために何一つ骨折りなんてしてくれないってさ」

自身の実家での冷遇具合を言葉にすると、英孝は怯んだ様子を見せる。しかし言い分は他にあるようだ。

「両親はそうだが、お前が師事を受けている連中はどうだ。あの連中の名で、熊野高等専修学校の試験に挑めるようになったことは分かっているんだ。あの連中の名前があるから、お前如きが受かったんだろ!」

「それこそ、まさかだよ。僕の師匠たちは各方面の凄腕ばかりだからこそ、実力主義者ばかりだ。仮に僕が裏口でないと入学できないぐらいの実力無しなら、すっぱりと入学を諦めろって言ってくるよ」

満景にとっては当たり前の事実を語ったのだが、英孝の方はそうは受け取らなかったようだ。

「いいや、お前の師匠とやらが裏から手を回さなければ、お前のような落ちこぼれが受かるはずがないんだ!」

英孝は激昂するように叫ぶと、両手を合わせながらそれぞれの指同士を絡め合っているように見える手印を作った。

その印がどういう意図のものかを、満景も同じ家に生まれた者として知っていた。

「僕に狗神を嗾ける気なの?」

「あの学校に入学できる腕前があるのなら、凌いでみせろ!」

英孝の身体から呪力が強く立ち上るのを、満景は感じ取った。

その直後、濃い獣臭が満景の周りに充満した。

満景の近くに、動物の姿はない――正しくは、生きている動物の姿はだ。

満景は左目に猫目の印を施してから、改めて周囲を確認する。

すると、首の断面から腐った血液を流し続けている痩せた成犬が四匹、満景の周りを取り囲んでいるのが見えた。

この四匹の犬たちは、恨みがましい目つきで満景を見ながら、襲い掛かる隙を窺っている様子だ。

この犬たちが、英孝の手によって殺された上で使役されている犬の霊――狗神たちだ。

満景は、狗神たちの姿を見て、痛ましいものを見る目になる。

「可愛い犬を、よく四匹も殺せたもんだね」

「ふんっ。犬を世話して可愛がるのは、狗神にするためだ。殺さずに寿命まで世話をするような、お前の方が変わっているんだよ」

「世間一般では、僕の感性の方が受け入れられると思うよ。実際、動物を殺しても何も思っていないような性格だから、兄さんは熊野高等専修学校の受験に失敗したんでしょ、きっと」

「そんなわけがあるか! いけ、狗神たち!」

英孝が指示を出すと、狗神が一斉に満景に飛び掛かった。

普通の犬ならば、ここで相手の四肢に噛み付いたことだろう。

しかし狗神は犬の幽霊。噛み付くよりも良い手段を持っている。

四匹の狗神たちは、ぶつかるように飛び掛かると、満景の身体の中へと入り込んだ。

「あ、がっ」

満景は苦しそうな声を上げ、急速にその顔色が悪くなっていき、そして痩せ始める。

「はっはっは。どうだ、この俺が手塩にかけて作った狗神に憑りつかれた感覚は!」

高笑いする英孝。

一方で満景は、苦しそうに呻きながら、手に持っていたレジ袋の中身を取り出し始める。

そして総菜が入った袋を乱暴にあけると、その中身を貪り始める。

「う、うぅぅ。はぁはぁ、はぐはぐ、がつがつ」

まるで飢えた犬になったかのような有り様に、英孝の高笑いがさらに強まる。

「はっはっは! すっかり狗神に憑りつかれて、自意識すらない!」

上機嫌な英孝だが、満景が総菜をひとしきり食べ終えたところで、その機嫌の具合も止まる。

なぜなら、満景がやおら普通の調子に戻って、平然とした様子で見返してきたからだ。