軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14話

日が暮れて夜になり、受付の机にLED提灯を乗せながら、満景は来る客の相手を続けていた。

この日は、あの神罰を受けていた女性のように深刻な客はいなかったが、それでも何人か霊障に悩まされている人物がやってきた。

ホスト風の男性には女性の生霊を多量に憑いて、小金持ちそうな衣服の老婆は呪われていて、苦労性っぽい顔つきの男性には住居の悪霊に影響を受けている痕跡があり、オカルト好きそうな雑談をしていた女子高生たちに動物霊が憑いていたり、胡散臭い雰囲気の男性に先祖霊が怒鳴って苦言を言う姿があったりした。

そうした客たちを、的確な占い師へと案内し、時には黒塗りの箱の中にあるお守りや札などを与えたりして、これ以上の霊障に悩まされないよう手助けもした。

そんな風に働き続けて、あと少しで閉館時間という時間帯になった。

満景は、ちょうど訪れる客の姿がなくなったこともあり、受付机の上に『本日の業務は終了しました』の札を立てることにした。

札を立てた机はその場に残しながら、満景は閉めの作業に入る。

黒塗りの箱と椅子は階下収納へ納め、竹箒と塵取りを手に表へ戻る。

客から落ちたゴミや埃を箒で掃き、塵取りで集めていく。それが終われば、周囲の店の前も掃除していく。

駅近くの立地だけあり、占いの館の周囲にある店々は、これからが書き入れ時のようだ。客引き行為は禁止になっているが、店の近くで大声で宣伝することは目こぼしされているようで、店員が声を張り上げて店のウリを宣伝している。

満景は、その店員の声をBGM代わりに、掃除を続けていった。

掃除が終わり、時間を確認して占いの館の閉業時間が来たのを確認してから、出していた机も階下収納の中へ。

占いの館の占い師も、営業時間を的確に把握しているようで、エレベーターからは次々に占いを終えた客たちが出てきて外へと去っていく。

客たちを見送り終わってからしばらくすると、業務を終えた占い師たちもエレベーターの扉から出てきた。

部屋を借りて営業していた外様の占い師たちは、儲かったようで、ホクホク顔で夜の街の中へと去っていく。

そして、占いの館に住んでいない、浅葱とデビル大杉殿下が二人話をしながら出てきた。浅葱は疲れ顔で、デビル大杉殿下は顔に化粧水を塗った際の特有の艶やかさがあった。

「いやぁ、土地神に呪われた子が来て、仲裁するのが難儀でしたよ。最後には脅して、どうにかなりましたけど」

「神道の神は、序列が曖昧なのがいかんのだ。悪魔なら、爵位の上の者の言葉には素直に従うから、楽なのだ」

「でも逆に、爵位が上の者が相手だと、どうにもならないじゃないですか。神道なら、貢物を工面すれば、聞き入れて貰えることが多いですし」

「こっちは魔界の王子だぞ。公爵や伯爵が出張って来ない限り、どうにかなる。それに、エクソシストのシスターが、ここには常駐しているではないか。厄介な相手なら、あやつに任せる」

「魔界の王子がエクソシスト頼りって、それはそれで恥ずかしくはありません?」

二人は、作業中の満景に一礼しながらも、言葉のやり取りを続けつつ外へと出ていった。

二人の次に、ソコノ住職がエレベーターから出てきた。

前の二人と同じように去っていくかと思いきや、ソコノ住職は満景に話しかけてきた。

「満景に聞いておかねばならんことがある」

「なにかありましたっけ?」

「給与体系をどうするかを話さねばならんのだよ」

給与と聞いて、満景は首を傾げる。

「僕はお手伝いで、御駄賃を貰っているんじゃ?」

「それはお主が中学生で、本来は働いてはいけない年齢だったからこその、働きに対する報酬に対する詭弁だった。しかし高校生となるからには、そのような詭弁は必要なくなる。アルバイトで働ける年齢なのだから」

説明を受けてなるほどと納得しながらも、満景は疑問を抱いた。

「特に変える必要、ないんじゃないですか?」

「大いにあるわ、馬鹿たれ。御駄賃は、いわば贈与。ある一定の金額以上を渡すと、贈与税が発生する。しかし給与ならば、その金額以上を稼ぐことができる。もっとも、所得税やらなんやらは払う必要がでつるがの。それに、満景をアルバイトとして雇うと、こちら側の節税にも繋がる」

「……つまりソコノ住職が資金をやりくりするためには、僕がアルバイトでいる方が都合がいいと?」

「そのとおり。アルバイト扱いで、構わぬよな?」

「こっちはお金を受け取る側ですし、やることが変わらないなら、別にどちらでも」

「快諾してくれて嬉しい。では、こちらが雇用契約書だ」

僧衣の内側から一枚の紙が出され、満景に差し出される。

ちゃんと文面が整った雇用契約書で、満景が名前を書き入れる部分が赤色で囲われていて分かり易くなっていた。

満景は、書面を受け取り、頭から最後まで文章の内容を確認してから、自分の名前を書き入れた。

その一部始終を見ていて、ソコノ住職は感心したように頷く。

「契約書をちゃんと確認できて偉い。ときに、文面に記載していた通り、月末締めの翌月十五日に給与を銀行振り込みで本当に構わんのか? こちらとしては、専属の占い師と同じ雇用形態になるので、作業が楽に住んで良いのだが。お主が金に困っているようなら、しばらくは週払いにしても良いぞ?」

「敷金礼金と家賃が安くなって引っ越し代もかからなかったですし、引っ越し祝いで家電とかが充実したため、資金には余裕がありますから」

満景が契約書を返すと、ソコノ住職はそれなら良いと契約書を懐に仕舞った。

「ちなみにだが、アルバイトになると給与も上がるぞ。贈与税が発生しないよう、与える金を抑える必要がなくなるからな」

「上がる分には、有難く貰いますよ」

二人は互いに笑い合うと、ソコノ住職はスクーターに乗って外へ。

満景は、エレベーターで最上階まで上ると、一階まで階段を下りながら各階に客や占いの館の住民じゃない占い師が残っていないかを確認していった。

問題ないと確認できたところで、占いの館の正面の扉を施錠して、満景も帰路につくことにした。

満景が、スーパーで見切り品の弁当と総菜を手に一人暮らしをするマンションへの帰路の途中、道の先に誰かがいるのが見えた。

付近に住む一般人でないことは、その人物を見て感じる感覚でわかる。呪術を得意とする者と出会ったとき特融の、身体が近寄ることを拒否する、あの感覚。

そしてなにより、街灯の光に照らされて浮かび上がっている、その人物の姿は満景にはよく見知った相手だった。

満景を待ち受けるように立っているのは、満景の兄である英孝だった。