作品タイトル不明
13話
占いの館の開店時間となった。
満景は椅子に座り、受付の業務を始めることにした。
「最初の方。こちらまで」
満景が呼びかけると、話題作りのためにやってきたという雰囲気を醸し出している、中高生ぐらいの女性二人が受付の前に立った。
満景は二人にビジネススマイルを向けながら、喋りかける。
「本日、お目当ての占い師がございますか? もしくは、どんなことを占いたいかのご要望はおありですか?」
満景は声をかけつつ、霊能者の感覚を働かせて、二人の様子を探る。
何かしらの霊障を受けている形跡はない。
占いを楽しむために来た客だと判断を下した。
一方で客二人は、満景から投げかけられた質問に対して、二人で話し合って結論を出したようだ。
「あのー。恋愛運とかを占って欲しくて」
「この子。好きな人がいてー」
「あー! そっちだって好きな人いるくせにー」
姦しい様子を見せる二人を、今日占いの館にいる占い師の誰に向かわせるかを、満景は考えて結論を出した。
「では、占い師の浅葱信念をお勧めいたします。男性の占い師ですが、良縁占いに定評のある方です。その気になる方との縁を結んでくださることでしょう」
満景のセールストークに、二人は納得できたようで、浅葱のいる場所に向かうことにしたようだ。
この女性二人を相手したときのように、満景の役割は占いの館の占い師に顧客を割り振ること。
用向きを尋ね、客の目的にあった占い師を斡旋していく。
深刻そうな悩みの持ち主なら、それをちゃんと解決してくれる占い師へ。
エンターテイメントを求める客なら、占いの結果よりも占いの過程を楽しめる占い師へ。
その他、一見様や観光客などのリピートが狙えなさそうな客は、今日占いの館に部屋を借りた外様の占い師へ。外様の占い師に数を熟させて稼がせるには、こういった客がいいからだ。
そして客の中には、占いの結果を求めてやってくるものばかりではなく、冷やかしや理不尽なクレームをつけにくる客もいる。
そういう手合いは、ソコノ住職に任せることになっている。
オーナーであるからには、占いの館と所属する占い師を守るのが役目だとは、ソコノ住職の談。
その実、冷やかしやクレーマーや跳ね返りを、ソコノ住職が説法で改心させるのが好きなだけだろうにと、満景は思っている。
ともあれ、そういう感じで、満景はやってくる客を次々と各々の占い師へと振り分けていく。
そうやって十人ほど裁いた後に、今までの客とは色の違う人物が来た。
春色のワンビースにカーディガンを着て、ボブカットの髪も整っていて、顔にメイクをきちんと行っている。
そういった見た目自体は、特に問題はない。
ただ、晴天の下であるのに、まるでその女性にだけ日が差していないかのように、薄暗い雰囲気があるのだ。
女性の顔つきや態度が陰キャっぽくて、それが暗い雰囲気になっている、というわけではない。
満景が感じる限り、この女性は霊障の被害にあっていて、その霊障の影響によって暗い雰囲気を纏う結果になっている。
(かなり危ない、かな?)
満景が、女性の霊障を『危ない』と評したのには理由がある。
先ほどまで、占いの館にやってくる客は引っ切り無しだった。
しかし、霊障を受けていると思われる女性が現れた瞬間、占いの客どころか通行人すら居なくなっている。
その原因は、女性が受けている霊障の悪影響を避けるべく、他の人たちが近づくことを避けているから。
そして霊能者でない普通の人ですら避けているということは、それだけ霊障の規模が危険域に入っているということの証明である。
満景は、女性の霊障の正体を見るべきかと、自分の左目に片手を当てる。
猫目の印さえ描けば、その左目で女性を害する霊を見ることが出来るだろう。
しかし満景は、近づいてきた女性が発する臭いを嗅いで、猫目の印を描くことを思いとどまった。
(深い土と水が滴るコケの臭い……)
古い霊ないしは土地神に類する者が発する臭いに、満景は自分の手に負える相手ではないと悟る。そして不用意に見てしまえば、彼女の霊障がこちらにまで及ぶ可能性があることを直感で理解した。
満景は、左目に当てていた手を下ろすと、先ほどまでの客に対する態度と同じように、ビジネススマイルでその女性を迎えた。
「おはようございます。本日は、どんな占いをご希望ですか?」
満景の問いかけに、女性は迷う素振りを見せてから返答する。
「あの。こちらに来れば助けてもらえると言われて」
「助け、ですか? 占いによって困りごとが解決して助かる方はいらっしゃいますが」
「そうではなく。その、変な現象が身近で起こっているのを助けてほしくて」
女性がそう口にした瞬間、ぱしんっと空中に音が発生した。
なるで発言を咎めるような音に、女性が怯えた顔になる。
一方で満景は、どうしたものかと思案顔に。
(この人に害を与えている存在が、古い霊ならまだしも、土地神関係だったら、祓う行為自体が逆鱗に触れる行為だし)
神は、縁も所縁もない人を、何の理由もなく呪ったりしない。
神が呪うからには、その当人ないしは親族が、なにかしらやらかしたに違いない。
つまるところ、咎人に対する神罰だ。
その咎人への神罰を、霊能者が逸らしたり防いだりすることは、咎人に味方することに繋がってしまう。
そして咎人の味方と認識されてしまうと、神罰を与える先だという判断が下されてしまい、咎人が罰を受け終わるまで延々と霊能者も神罰に悩まされることに繋がる。
神罰に巻き込まれずに女性を救う方法もなくはないが、満景ができるのは大がかりな方法だけだ。
どうしたものかと悩んでいると、満景のスマホに着信が来た。そっと画面を確認してみると、浅葱信念の文字があった。
「少しお待ちください」
断りを入れてから満景がスマホで通話すると、浅葱の声がスピーカーを通してやってきた。
『その方を、こちらに通していいよ』
「……ということは、やっぱり」
『その方のご親族が、土地の祠を大切にしなかった罰が来ているみたいだよ。ちょっと神様に仲介してもらって、その方は直接関係ないからって罰から外してもらう交渉をするから』
そういうことならと、満景はスマホの通話を止めると、女性に向き直った。
「浅葱信念という占い師が、用件を承るそうです。それと、こちらは気休めですが」
満景は、黒塗りの箱を開けると、中にある小袋を一つ女性に手渡した。
女性が小袋を受け取ると、周囲を暗くしていた霊障が薄らいだ。その証拠に、寄りつこうとしなかった新たな客が占いの館に近づいてき始めていた。
女性の方も霊障が弱まったことが分かるのだろう、驚いた顔を満景に向ける。
「あの、これは?」
「ちょっとした身代わり石です。相談が終わるぐらいまでしか効果が続かないので、さっき言った通りに気休めです」
満景が占いの館に入るよう手で示すと、女性は満景に一礼してからビルのエレベーターに乗り込んでいった。
満景はどうにかなりそうだと安堵しつつ、次の客の対応に戻ることにした。