軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87話

セスと二人、水路の上流へと向かう。

すでに、水路を流れる水は前よりも減っている。セスが言うには、大きな岩でせき止めているという。

村の近くには木々があったが、すぐに荒れ地へと変わった。

進んでいくうちに途中で丘にぶつかった。

丘には人が通れるほどのトンネルがあり、水路はそこを通っている。水量も減っているので、トンネルを抜けることにした。

「ガルシアさんが魔法で作ったのかな?」

火魔法の灯を壁や天井に向けながら、俺が言った。声が多少反響する。それほど壁も天井も固いようだ。

「そうじゃないですかね」

土魔法を使っているとはいえ、このトンネル一つだけでも結構大変な仕事だ。

上流へと進めば進むほど丘はいくつもあり、その度に水路はトンネルを通っていた。

「トンネル多いんですよね」

「なるべく水が蒸発しないようにしてるんじゃないか?」

実際、トンネルの中の湿度は高い気がする。

「なるほど」

トンネルを抜けると砂が積まれてある場所もあった。

「丘が先か、水路が先か」

ガルシアさんは水路を魔物に荒らされる度に、岩でトンネルを作り、上に砂で覆ったのかもしれない。

「なんで、そんなことするんですかね?」

「荒らされにくくしてるんじゃないかな。魔物の通り道に水路があったら、魔物も壊そうとしたり、中で糞をしたりするかもしれないけど、丘なら上って下りればいいだけだからな」

「社長はなんでも知ってるんですね」

「いや、予想だよ。俺がガルシアさんなら、そうするかなぁっていうね」

そんな適当な会話をしながら、上流へ向かった。

数回、魔物にも遭遇したが、セスが対処していた。セスはあまり魔物を殺したくないようだ。小石を投げて、追い返している。

「殺しは嫌か?」

「僕、解体ヘタなんで、時間かかるし血だらけになっちゃうんですよね。それに肉とか今持って行っても邪魔になるだけだし」

「俺がクリーナップかけてやるよ。肉もカバンがあるし問題ないよ」

「そうっすか? なら社長と一緒の時は、なるべく殺していきます」

「いや、別に無理に殺さなくてもいいけど」

「アイルさんとメルモと一緒の時は、解体の時に怒られたり、血だらけになった俺を見る目がおかしかったりするから、ちょっと避けてたんですよね」

アイルは解体で怒りそうだし、メルモは血が噴き出しているのを見て興奮するタイプだからな。

「お前も苦労してるんだな。お! あれか?」

うちの社員特有の愚痴を聞いていると、水路に大きな岩が並んでいるのが見えた。

岩の隙間から水が溢れている。

「そうです。大きめの岩で止めようと思ったんですが、隙間ができちゃって」

岩の上に上り、川の分岐を確かめる。川が分岐している場所の周りは雑草が多く、木々もチラホラ生えていた。

五年の間に川が水路へと向かうようにカーブしてしまっているようだ。

「あっちが湖だな?」

西へと向かう川を指した。

「そうです」

「じゃあ、向こうに水を流すように、ちょっと掘っておこう。この辺り一帯、ちょっとした池にしちゃって湖の方に流すような感じにしようか」

「それは結構大変ですね」

「そうかなぁ。まぁ、なんとかなるでしょ」

簡単な工事だと思って、とっとと作業に入った。

残念ながら、セスの予測通り、めちゃくちゃ大変だった。

アイテム袋の中で、使いみちのなかった魔物の骨などでスコップやつるはしの魔道具を作ったのだが、力の入れ具合が難しい。精霊退治をして、またレベルが上がったか。

スコップには大きな鳥の魔物、デザートイーグルのくちばしを使ったが、サイズが小さくなかなか思うように作業が進まない。力を入れ過ぎるとくちばしが割れてしまう。

セスは水路へ向かう水の流れを止めるべく、小さめの岩を運び隙間を埋めてダムを作っていた。

何度も川岸で靴が濡れ、破れたブーツの穴から中に水が入り込んでくる。ブーツも前の世界にいた頃からのものなので、すっかり傷んでいた。

「そろそろ買うか」

なかなか進まないので休憩がてらセスの様子を見に行くと、ダムの方も行き詰まっていた。

隙間を埋めようとしているのだが、石や岩が水流で流されてしまうようだ。

「どうだ?」

「厳しいっすね」

セスがそう言うと、今隙間に入れたはずの石が水流で流されてしまっていた。

「しょうがない。トンネル潰すか?」

「ああ! なるほど、そうします! あれ? でもそうすると、トンネルの前に池ができちゃうんじゃないですかね?」

「そうだなぁ。もう、どうすりゃいいんだぁ……。土魔法スキルでも取るか?」

そういえば、最近、スキルポイントとか使ってなかったから、どのくらい溜まっているのか知らない。そもそもレベルも怖くて見ていない。

「社長の魔法陣でどうにかならないですかね?」

「あ……!」

完全に忘れていたが、俺はよく船に水流を生み出す魔法陣などを描いていたじゃないか。なんだよ、それでいいじゃん。

スコップ固くして、掘りやすくしている場合じゃなかった。

「すいません、今やりまーす!」

とりあえず、ネズミ捕りの時に使うベタベタ板を隙間に貼ってみたところ、水が止まった。

「それってそんなに強力だったんですか?」

「正直、俺も驚いているところだ」

今は止まっているが、粘着力が無くなったら、落ちてしまうだろう。

ベタベタ板は2、3日保つので、結構時間がある。その間に埋めてしまえばいい。

「あ、石つぶてが出る杖とか作っちゃえばいいんだな」

魔法陣を使えばいいということを聞いたので、どんどんアイディアが出る。

「あとは川の流れの方だな。これ持って川に入っちゃえばいいか」

俺はアイテム袋から、レッドドラゴンに乗せてもらった時に使った、突風が出る木の板を取り出した。

ツナギとインナーを脱ぎ、パン一で川に飛び込む。野郎しかいないので、別に人の目を気にすることもない。

「ふぅー!」

すごく冷たかったが、我慢している内に慣れてきた。

「セス! とりあえず焚き火を用意しておいてくれ!」

「OKっす!」

川の中で突風の板に魔力を込めたところ、ふっとばされて噴水のように川の上へと飛んでしまった。

向きは大事だ。

川岸に移動し、しっかりと踏ん張って突風を起こすと、ちゃんと岸辺の土が削れた。

「よし!」

川に沈めて使えば、水流が起こる。砂を巻き上げ岸を削りながらカーブを徐々に広げていく。

冷たい水の中での作業は体温を奪う。何度も岸へと上がり、休みながら池にしていった。

セスはやることがなかったのか、荒れ地の魔物を狩ってきて、おやつ代わりに肉を焼いていた。本当に解体はヘタなようで、骨の周りの肉は少ない。皮の方にだいぶ肉が残ってしまっている。

「社長、塩持ってます?」

「あるよ」

アイテム袋から岩塩を取り出して渡した。塩くらいは常備している。こういう生活も普通になってきた。店で買い物をするより、狩猟民族のように何かないかと周囲を探してしまう。

焚き火で暖まりながら、塩を振った魔物の肉にかぶりついた。

新鮮だからかものすごくジューシーだった。何の肉か聞いたら、荒れ地にいたカエルの魔物だそうだ。

名前は俺もセスも知らない。

毒はないと思う。美味しかったし。派手なタイプのカエルじゃない。たとえ毒があっても、ちょっとお花畑が見える程度だろう。

などと思っていたら、本当に目がチカチカしてお花畑が見えちゃって気持ちよくなっちゃうから怖い。

急いで、岸辺に即席の風呂を作り、加熱の魔法陣を描いて湯を沸かす。

倒れているセスを放り込み、俺も風呂の中に入って汗を流す。

「あ、あれ? 僕、大丈夫ですかね?」

気がついたセスがお湯で顔を洗いながら、辺りを見回している。

「大丈夫だ。ちょっと魔法陣で火傷したくらいだろ。セスが解体下手で良かったよ。そんなに食べずに済んだ。荒れ地のカエルには気をつけような」

「はい」

そんなこんながありながら、池を作り、川の流れを変えていった。

日が沈んできた頃、川から上がり、パンツを突風の板で乾かしていたら、パンツが破れた。衣類や日用品を変える時期は重なるものだ。

アイテム袋から、洗濯してあったパンツを取り出して履く。ノーパンツボーイだと、直にツナギの金具を感じちゃうし、金具で切れたら大変だ。

「備えあれば憂いなし、だな」

「何ですか? そのことわざ」

「日用品や下着は多めに買っておいても損はしないってことだ」

パンツの紐を結びながら俺は言う。

こちらの世界のパンツは、ゴムがないので、大体ハーフパンツのような物が多い。

今日の作業は一旦終わりにして、宿へと帰ることにした。

ガルシアさんも目を覚ましているかもしれない。

セスが拾ってきた焚き火の枝の中から、杖に使えそうなものを拾ってアイテム袋に入れた。宿で、石つぶてが出る杖を作ろうと思う。

走って帰ったら、すぐにノームフィールドの村についた。

村人たちは家に帰っているようで、村の家々には明かりが灯っていた。

宿に入ると、うちの女性陣が泥だらけで待っていた。

「髪がゴワゴワだ。ナオキ、クリーナップかけてくれ」

アイルが髪をかき分けながら砂をぽろぽろと落としている。色気などまるで気にしない女性陣全員にクリーナップをかけてやった。

「それで、井戸は掘れたの?」

「いいや。まだだ。かなり深く掘らないといけなくてね。明日、ガルシアさんの子どもたちにも手伝ってもらうことにした」

ベルサが説明してくれる。

「シンシアって娘が、ガルシアさんの奥さんとの間に入ってくれてね。彼女がナオキの言っていた奴隷の娘なんだろ?」

そういや、バタバタしていて紹介してなかったな。

「そうだ。もう奴隷から解放しちゃったけどね」

「「え!?」」

アイルとベルサが俺を責めるような目で見た。ダメだったか。

「どうして大事な労働力を解放しちゃうんだよ!」

「ナオキはいったい何になら興味あるんだよ!」

ベルサとアイルが俺に文句を言う。俺としては前の世界の人権意識からか奴隷そのものに忌避感がある。ただ、どう説明していいか……。

「いや、だって、村人のグール病が治れば良かったから……」

「会社の金で奴隷買って、勝手に解放するなよ!」

「性奴隷にするとかいう発想もないのか!?」

「いや、ないことはないけど、そういうのは娼館行ったほうが後腐れとかないし、いいだろ。まぁ、会社の奴隷を解放しちゃったのは悪かったよ。会社の奴隷って考えはなかったからな。でも、彼女が奴隷になった理由を聞けば、きっと二人も解放したくなるって!」

「情なんか、金にならないものは捨てちまえ!」

「そうだそうだ!」

「ちょっと待てよ! もしも、シンシアが奴隷のままだったら、ガルシアさんの奥さんとの間に入ってくれていたかどうかわからないだろ?」

「なんだよ! もしもの話はずるいよ!」

「どうせ、また頭のおかしい話をする気だろ!」

「頭のおかしいってなんだ! 大体、アイルもベルサも大概だからな!」

「なんだとー!」

その後、しばらく三人で口喧嘩が続いた。

新人たちは黙って、宿の食堂で出された晩飯を食べながら、荒れ地のカエルの話なんかしている。

酒も入ってヒートアップしてきた頃、シンシアが宿にやってきたことで口喧嘩は終了した。

ガルシアさんが回復して家に戻っていること、と、ロメオ牧師の葬儀が明日の朝行われることを告げに来てくれた。

「葬儀には全員、出席します」

「わかりました。……どうかされたんですか?」

むっつりとしているアイルとベルサを見て、シンシアが聞いた。

「俺がシンシアを奴隷から解放したのが気に入らなかったみたいだ」とは本人に言えず、

「またしても、俺が間違えたみたいなんだ」

「そう、ですか」

「あ、シンシア、うちの会社に入らないか?」

「え?」

シンシアは驚いたように俺を見た。

「まぁ、今すぐ返事をくれ、とは言わないけど、俺たちがこの村から出て行く時までには決めておいてくれないか?」

「……わかりました。………愛人になれってことじゃないですよね?」

「違うよ!」

結婚もしていないのに、愛人って作れるのか。

「ハハ、そうですよね。それじゃ」

そう言うと、シンシアは宿から出て行った。

「あれじゃあ、来ないよ!」

「女心ってのがわかってないんだから!」

「「まったく! はぁ~」」

果実酒を飲んだアイルとベルサの声と溜め息がかぶる。

「なんだよ! 二人が、シンシアが欲しいって言うから、言ってみたんじゃないか!」

「女の口説き方ってのを知らないんだよ! 野暮だなぁ!」

「こんな宿の食堂で言うかね?」

「また、始める気ですか? 私たち寝ていいですか?」

メルモは付き合いきれないのか呆れている。

「おおっ! それはどういうことだ!? セスと一緒に寝るってことか?」

「まったく獣人の娘ってのは節操がないのかね?」

「違いますよ!」

酒が入ったアイルとベルサの矛先がメルモに移った。

「大体、どうやったら、そんなに胸が大きくなるんだ、このこの~!」

ベルサがメルモの胸を揉みしだいている。

「や~めてくださいっ!」

「何を食べたら、そうなるんだ! 教えろ! 上司だぞ、私は!」

アイルとベルサの絡み酒は深夜まで続いた。

俺とセスはメルモを生け贄に捧げ、早々に部屋に戻った。

セスはすぐにベッドへダイブし、俺は石つぶてが出る杖を作る。

「社長」

「なんだ?」

天井を見ているセスが話しかけてきた。

「あのシンシアって娘さんはうちの会社に入るんですかね?」

「さあ、知らん。勢いで誘っちゃったけど、この先は本人が決めることだ。なんだ? 気に入らないのか? 後輩ができるかもしれないっていうのに」

「いや、そんなことはないですけど。ただ、うちの会社に来て何やるのかなぁ、と思って……。僕は船を操縦しようと思ってますし、メルモは服作ったり、裁縫しながら魔物を倒したり、虫系の魔物を飼ったりできれば良いと思ってるみたいだけど」

言われてみれば、確かにそうだ。

シンシアがうちの会社に来て、何をするんだろう。

そもそも、どんなことが得意なのか、苦手なのか、何も知らずに会社に誘ってしまった。

やりたいこととか、夢とかあるんだろうか。

うちの会社はそれを手伝えるだろうか。もしくは見つけてあげられるだろうか。

甚だ疑問である。

「それ先に聞くべきだったなぁ。また、間違えた。間違いの多い人生だよ。まったく」

「間違えない人なんていませんよ。間違えてこそ成長するっておじさんが言ってました」

「そうだといいけどなぁ」

「雰囲気良さそうな娘さんだったから、僕はうちに入ってほしいって思いましたけどね」

本人次第だ。なるようにしかならない。

ただ、もう少し、気遣いのできる大人に俺はなりたい、と反省した。

「社長~! あの二人がいじめるんです~」

メルモが部屋に避難してきた頃、杖が出来た。

余っていた魔石をはめ込んだなかなかの一品に仕上がった。

「しゃ~ちょ~!」

「うるせー。寝ろ!」

俺は質の悪い紙に、睡眠効果のある魔法陣を手早く描き、メルモの額に貼り付けた。さながら、御札のようだ。

気絶するように眠ったメルモを、寝たふりをしているセスのベッドに乗せて、俺は部屋を出た。

食堂ではアイルとベルサが、村に留まっている行商人に絡んでいた。二人にも睡眠効果のある御札を貼り、寝かせた。初めからこうしておけばよかったんだ。薬を盛るより簡単だ。

行商人に謝ってから、二人を部屋に連れて行き、床に転がしておいた。死にはしないだろう。

俺は自室に戻り、ベッドに潜り込んだ。

明日はお葬式。喪服なんて持ってないなぁ。

「社長、僕、寝られそうにないんですけど……」

セスのか細い声が聞こえる。

「知らん。寝ろ。俺は今から寝るから、するなら静かにな」

「いや……、あの……」

夜は更けていった。