軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

88話

翌朝、俺の隣でメルモが寝ていた。

セスの逆襲にあった。メルモをそのままにして、顔や口の中をクリーナップでキレイにする。

寝癖を梳かしながらトイレにいくと、途中の廊下でセスにあった。

「昨日、メルモと何もしなかったのか?」

「何もしてませんよ! おかげであんまり寝てないんですよ」

「そうか。これからずっと一緒に働いていくんだからな」

誰でも御札で眠っているような女子を相手したくはないか。起こして告白して事を成すには迷いが多すぎる。むしろ何かあったら俺が助けないといけなかった。セスは普通の恋愛をしたいのだろうが、何かきっかけを作ってやれないだろうか。

用を足して部屋に戻ると、メルモが消えていた。セスが起こして、女部屋に帰したそうだ。

ロメオ牧師の葬儀に出る準備をする。

そうは言っても喪服なんて持ってないので、黒い布を腕に結び、腕章にして出席することに。

「何ですか、それ?」

セスが聞いてきた。

「ロメオ牧師に対する礼儀だ。喪服がないからな」

そう答えたらセスも真似していた。

会社の制服と化しているツナギに黒い腕章をつけた男連中を見た女性陣も、真似をするという。

黒い布が足りないのでメルモが布を切り、ツナギの腕部に縫い付けていく。

恥ずかしいのか、昨日の何かを取り戻そうとしているのか、メルモの仕事は早かった。

アイルに、髪を梳かすために、生活魔法でコップ一杯分の水を出してくれと言われた。

水を出している途中で、井戸掘ってないで、水魔法の魔法陣を描けばいいんじゃないか、と気づいた。

早速ベルサに提案してみたが、首を横に振っていた。

「魔法陣が消えたら終わりじゃないか? それに魔力が多くない人もいる」

メンテナンスもできないし、魔力切れを起こしても困る。

確かに魔法陣がいくら省エネと言っても、魔力を使うことに変わりはない。

差が生まれて争いの種になるよりは、地下水を汲み上げたほうが良さそうだ。

軽い朝食を済ませて、教会へ向かう。早いかと思ったが、すでに村人は集まっていた。

祭壇には棺の中に入ったロメオ牧師。昨日、治療して別館で眠り続けていた人もいて、お礼を言われた。

しばらくすると、ガルシアさんも奥さんと子どもたちと一緒にやってきた。ロメオ牧師に止めを刺した本人だが、誰一人責める人はいない。

ただ、ガルシアさんはずっと下を向いて、顔をあげようとはしなかった。ロメオ牧師の葬儀は、親友だったという牧師やシスターがやってきて始まった。

弔辞が読まれ、献花をし、神への祈りを捧げる。式は滞り無く進み、棺の蓋を閉め、そのままお墓へと埋葬するという。

すすり泣く声が聞こえる。シスターたちや村人たちだ。共に生活していたのだから、当たり前だろう。

うちの会社ではメルモだけが泣いていた。

「……天に向かう我らが友を、安住の地へとお導きください……」

祈りとともに、棺は墓に降ろされ、参列者が順番に土をかけていくようだ。

俺は早々に土をかけて黙礼し、アイルに「ちょっと神に会ってくる」と教会へ戻った。

全員、墓地にいるので、神も出てきてくれるだろう。

教会の扉を開くと、先程までなかった神を模した白い石像が無理したポーズで祭壇の前にいた。よく見ると、小麦粉を塗っているようだ。

相変わらず、ふざけた神だ。まぁ、人の死など神にとっては日常か。

神は、固まったまま動く気はないようだ。

「あー神様に会いたいけど、いないなぁ」

そう言いながら、俺は神の額に人差し指を向ける。

「…………」

決して触らず、額の数センチ先で止める。

「……………ぬあぉっ! モヤモヤする! やめろぉ!」

俺の手を払い、神が動き出した。

「お、神様。ここにおられましたか」

「なんだ、その技は! モヤモヤする!」

「人の葬式でふざけないでくださいよ」

「ああ、悪い悪い。暇だったもので、つい、な」

神は悪びれる様子もなく、長椅子に座った。

俺も隣りに座る。

「ロメオ牧師はちゃんと安住の地へと向かいましたか?」

「ん? ああ、いい魂だった。もう次の世界に着いている頃かもしれないな」

「次の世界?」

「コムロ氏と同じだよ。どこかの世界に転生してるさ。本人の希望だ。この世界ではなくて、違う世界に行きたいんだそうだ。まぁ、赤ん坊からやり直すらしいけどね」

そうか……、あれ?

「そういえば、なんで俺は赤ん坊からやり直せなかったんですかね?」

「あ~途中で邪神に……、ゲフンゲフン! 神の御業である。感謝して祈ってもいいよ」

絶対、祈らないでおこう。

「ところで、神様。土の勇者駆除と土の精霊をクビにする案件ですけど、依頼完了ということでいいですよね」

「うん、いいよ。勇者は勇者じゃなくなったし、土の精霊はちゃんと悪魔になって邪神と一緒に世界樹育ててるからね」

「じゃあ、報酬貰いたいんですけど」

「おお、何にする?」

「『雨』で、お願いします」

昨日、会社で決めたことをお願いする。

「『雨』か。そんなんでいいの?」

「ええ、アデル湖周辺と、この荒れ地に、水害が発生しない程度の雨をお願いします」

「金貨とか魔道具とか、スキルとかも与えられるけど、『雨』でいいのね?」

「ええ、『雨』で」

「娼館とかもいいのね?」

娼館まるごと、いいのか?

それは、悩むなぁ……。

「……いや、ここは『雨』で」

「だいぶ悩んだな」

『雨』にしなかった場合を考えると社員に何を言われるか。

「わかった。数日後に『雨』を降らせるよ。人間らしくないというか、個性的といえば個性的なのかな? 精霊よりも精霊らしいというか……」

神がブツブツと言い始めた。

「なんですか? ダメですか?」

「いや、ダメじゃないけど。コムロ氏は色欲以外に、あんまり欲はないの?」

「ありますよ! 良い物食べたいし、楽して生きていたいです」

「権力とか、強くなりたいとかは?」

「あー、そういうのはないっすね~。偉くなったらめんどくさそうじゃないですか。強さとかにもあんまり興味ないですねぇ」

「だけど、今回精霊に殺されかけたでしょ」

「ああ、本当だ! ちょっと危険手当ください! 聞いてないですよ! 精霊があんなに強いなんて!」

俺は手の平を出して、危険手当を要求した。

「まぁまぁ、危険手当は何かしら考えているよ。戦闘系スキルとかいらない?」

「あー……、いらないっすね」

「な、なんで?」

神が眉毛をハの字にして聞いてきた。

「戦闘スキルがあると人生豊かになりますかね? いや、マルケスさんて人に人生が豊かになるスキルを取得したほうがいいって言われたんでね。今のところ、豊かになる戦闘スキルが思いつかないんで、遠慮しておきます。まぁ、あとは人質取られたら、戦闘スキルとかあっても、意味ないんじゃないかって思ってるんですよね。それより交渉スキルとかのほうが役に立つんじゃないかと」

前の世界で見た映画やドラマなんかでは、悪役がヒロインを人質に取るシーンをよく見た。スキルが強ければ、必ず勝つとは、なかなか思えない。

「俺としては、勝負に負けてもいいんで死なないように戦いたいです。自分も周りも」

「なるほど。不老不死っていうスキルもあるけど……」

「あ、それいらないっす。それで失敗した人を知ってるんで」

マルケスさんを思い出した。

「そうかぁ。わかったぁ……」

「あ、耐性スキルとかは欲しいかもです」

「え!? そんなんでいいの!?」

神が「マジか、こいつ」と言う顔をしている。

もしかして、耐性スキルって取りやすいのかな?

だとしたら、ちょっと待ってほしい。

「いや、やっぱ止めます。ちょっと考えておきます」

「人間のそういうところいいよなぁ……、ハハハ」

神はしみじみと言って笑っている。

「なんですか、急に」

俺を見て一括りで『人間』と言われてもなぁ。

「急に意見を変えたのはコムロ氏じゃないか」

「まぁ、そうですけど……」

「いや、そういうところがいいんだよ」

「何がですか?」

「人間は、すぐに意見を変えるだろ? すぐに矛盾した行動をとったりする。そういう矛盾やねじれに力は惹かれるんだなぁっと思ってね」

何を言っているんだろう。

「何言ってるんですか?」

「いやぁ、精霊ってのはさ、要は『力』なわけよ。土の力、風の力、光の力そのものなわけ。それに僕が『言葉』を与えただけなのね」

「『言葉』?」

「そう。『言葉』を与えると考えるようになるわけだ。個々に考えるようになって、それぞれのキャラクターが出てくる。それが精霊だ。精霊たちは自分たちの周りにある現象や状況、物、こと、に名前をつけていく。そうやって世界を理解していったんだけど、意味不明なことをしたり、存在としてわけがわからない連中がいたんだ」

「それが人間だって言うんですか?」

「そうだね。わかっちゃいるけどやめられないことってあるだろ? いけないことだとわかっていてもやってしまうこととか? もしくは、できるけどやらないこととか?」

「まぁ、ありますね」

確かに金がないとわかっていても娼館通いをしてしまうという気持ちはわからなくもない。業やカルマなんて言ったりする人もいるが、どうしてもやめられないことはある。

「精霊達はそういう人間の行いを見続けて、どうにか理解したいと思うようになる。見すぎて愛おしいと思うものさえいる。加護を与えたいと思うものもね」

「え? それが勇者だっていうんですか?」

「まぁ、そうだね。勇者ってのはきっとどこかしら矛盾しているはずだ」

ガルシアさんはどうだろうか。過去は知らないが、綿畑が何かしら悪い影響を与えていることを薄々感じていたとしたら、気づいていながら止められないという矛盾を抱えていることになるわけか。

「そういった意味で、土の精霊はもっとも人間に近づいた精霊だったね。コムロ氏を殴る時、わけわからないこと言ってたし」

「む~確かに、めちゃくちゃな世界の法則を言ってましたね」

『善き人間の努力こそ認められなければ……』とかなんとか言っていたなぁ。

「まぁ、ああでも言わないと存在が消えちゃうから、しょうがないんだけどね」

「存在が消えちゃうんですか?」

「うん、クビにしたら『言葉』を失って、ただの『力』に戻る。それまで溜め込んだ魔力が解放されちゃって、大爆発か、大地震か起きていただろうね」

なんだそれ! 身体が崩れるだけじゃないの?

「めちゃくちゃ危ないじゃないですか!」

「土の精霊はその前に、圧倒的な個性というものを手に入れて、神に抗う『言葉』を口にしたのさ。そして感情に身を任せて、自ら進んで悪魔になったんだ。ある意味で、勇者や勇者の家族、村人を守ったと言えるね」

「言えるね、じゃないですよ! すげーヤバかったんじゃないですか!」

「だから、コムロ氏は良くやってくれたよ」

「これから先、どうやって精霊をクビにしていけばいいんですか!?」

「さすがに、これからは精霊をクビにする時、なるべく現場に行くようにするよ。危険だってことがわかったから」

「なんですか? 初めてのことだったんですか?」

「そうだね。試験的にやってみたって感じかな」

マジかよ!

「なんか、もうこれからやっていく自信ないっすけど」

ふてくされたように言う。

「でも、ちゃんと魔石化してたろ?」

魔石化? もしかして……。

俺はアイテム袋の中から、黄色い光を放つキューブ状の水晶のようなものを取り出した。

「これですか?」

「そうそう、それそれー! 途中で悪魔化しちゃったから、それはそんなに大きくないけど、位置がわかれば、そういうことも可能だ。だから、クビにする時は位置だけ正確に教えといてね。まぁ、通信袋で連絡していれば位置は掴めるさ」

「もし、位置を教えてなかったら、大爆発するんですか?」

「そうだね」

「なんて神様だ! じゃ、もし急に精霊に遭っちゃって、殺されそうになっても、突発的にクビには出来ないわけですね」

「うん。だからコムロ氏は気をつけてね。きっと精霊達の間で噂になってると思うから」

ヤバイ! どうしよう! 死んじゃう!

「酷い、酷いよ! 神様!」

「大丈夫だよ。あんまり目立たなければ、わからないって。称号もないしね。まさか、駆除業者が精霊をクビにしたとは思わないよ。もっと強くてカッコいい冒険者に目をつけるはずだ」

「な、なんか……、戦闘系スキルで、防御できたり回避できたりするようなものってないですか?」

「さっき言ったように、精霊って『力』そのものなんだよね。防ぐ方法といっても、物理的な『力』も魔法的な『力』も、精霊の一部だからなぁ。回避する方法っていうのも、どこにでも『力』は存在しているしねぇ。ま、今のところ見つかってないんだ。コムロ氏が独自にユニークスキル作ってよ。連絡してくれれば採用するよ」

カラーーン! カラーン! カラーン!

鐘の音が鳴り響いた。

「あ、葬儀も終わりだね。それじゃ」

神は柱にぶつかったかと思うと、ポーズを取った。

「それじゃって…! 神様! ちょっと!」

叩いても蹴っても、まったく反応はしなくなり、そのまま石像になってしまった。

『その石像、その教会に寄進しておいてね』

胸ポケットの通信袋から神の声がした。

「これからなるべく目立たないように行動しよう」

教会に戻ってきたうちの社員たちに言った。

メルモはすぐに皆の黒い腕章の糸を解いている。

「どうしたんだ? うまく神と話せなかったのか?」

アイルが俺に聞いた。

「いや、報酬の件は大丈夫なんだけど、俺が他の精霊に狙われそうなんだ」

「なんだ、そんなことか。頑張れ」

ベルサに励まされても、状況は変わらない。

「頑張ってください」

「大丈夫ですよ。死んだら骨を拾いますから」

新人たちに肩を叩かれた。

「ま、会社には迷惑かけるなよ。さ、今日の作業を始めよう!」

アイルに背中を叩かれた。俺はその後、セスに「社長、変ですよ」と注意されるまで、忍び足で歩いた。