軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

86話

宿には誰もいなかったので、勝手に厨房を借りる。

材料まで勝手に使うわけにもいかないので、一先ず宿の裏に出て、俺とアイルは荒れ地にいた速く走る鳥の魔物の羽を毟り始めることにした。中型犬くらいあるので、大変だった。

その内、メルモが来たので、アイテム袋に入っていた野菜を調理してもらう。

野菜はアイルがフロウラで買っていたものだ。

ベルサとセスが来る頃には、羽を毟るのも終わり、全員でメルモを手伝うことになった。

料理に関してはメルモとセスが率先してやってくれるので助かる。アイルは魔物を解体し、俺とベルサは汚れた調理器具を洗っていた。あまり役に立っていない俺とベルサはダウジングについて話していた。

「針金ハンガーなんてないよな?」

「なにそれ。パワーストーンさえあればね」

「なにそれ。力が湧くの?」

「わかない。お金が湧く」

「いいな。それ」

出来たのは濃厚なスープと甘辛い味付けの肉野菜炒め、大きな蒸鶏。それに、いつもの固いパンがつく。

朝飯とは思えないボリュームだ。

食堂で食べながら、依頼と今後について話す。

「食べながらでいいから聞いてくれ。依頼については達成した。土の精霊はクビになったし、ガルシアさんはもう勇者じゃない。勇者じゃなくなったことを明かすかどうか、いつ明かすのかについてはガルシアさんに任せるとして、今後の俺たちの仕事なんだけど」

話し始めたものの、全員、黙々と食べている。

「聞いてる?」

「ん? なに?」

アイルだけは返事をしてくれたが、他の三人は食事に夢中だ。

「ま、飯食った後でいいか」

実際、料理はうまい。

「うまいな!」

全員、頷いた。

「後で、もっと狩ってくるか?」

アイルの言葉に全員頷いた。

荒れ地の鳥の魔物の肉が噛めば噛むほど旨味が出てきて、ずっと噛んでられる。だから、黙々と食べてしまう。

「これ魔物なんだ?」

「エミョウかな。ただ、こんなに肉がうまいとは聞いたことがなかった」

ベルサは、そう答えて、肉を噛み続けた。

エミョウ料理を堪能した後、お茶を飲みながら、午前中に死にかけたことなどウソのように、まったりとしていた。

「あ、ナオキのお守り切れてるよ」

アイルが手首を指差しながら言った。

「へ?」

「ほら、マリナポートでくれたミサンガ」

アイルは自分の手首に巻かれている復活のミサンガを見せてきた。

そういえば、ずっとつけててあまり気にしていなかったから、気付かなかったが、復活のミサンガが切れている。復活のミサンガは、前にベルサと出会った港町・マリナポートで、闘技大会に出るというアイルに作った魔道具だ。死ぬほどの攻撃を受けると一度だけ全回復する魔道具だが、完全に忘れていた。

ミサンガが切れているということは、やはり土の精霊の一撃は死ぬほどの攻撃だったということか。

「でも、切れたら全回復する予定だったんだけど、バッキバキに両腕骨折していたよね?」

俺がアイルに確認する。

「え! あのお守りにはそんな効果があったのか? まぁ、でも汚れたりほつれたりしてたんじゃないか?」

「確かに。でも精霊とはもう戦いたくないなぁ。今度、精霊とか勇者に会う時は、復活のミサンガを大量に作ろう」

「ちょっと待て。それは正確にはどういう効果のある魔道具なんだ?」

ベルサが会話に割って入ってくる。

「いや、だから死ぬほどの攻撃を受けると体力が全回復するんだ。あ、体力は回復するけど、怪我は治らないのか? いや、治るよなぁ? あ、骨折だったからか?骨が違う方向を向いていたから、治るのも遅かったのかな?」

俺は自分の思考を垂れ流した。

「いや、そんなことより、そのミサンガを売りに出したら、とんでもない儲けが出るんじゃないか?」

ベルサが核心をついてきた。

「相変わらず、社長は無茶苦茶ですね」

メルモが無くなったお茶を入れながら、呆れた。

「ただ、こんな魔道具が大量に売りに出されたら、戦争になりかねないんじゃないか?」

アイルが自分の手首に巻いたミサンガを見ながら言う。

「ん~それは……、そうだなぁ」

ベルサが難しい顔をした。

確かに、大量生産をして市場に出回り、どこかの国が買い上げたら、リアルに死なない軍隊が出来そうだ。

「よし! これは対精霊、勇者用の魔道具にして、あまり作らないようにしよう」

危険な香りしかしない。

「僕は時々、どういう会社に就職してしまったんだろう、と思い悩むのですが…」

「それが正常だ。ナオキの側にいるとそういうことも思わなくなってくる。慣れるな危険!だ」

セスの言葉に、アイルが返す。

「逆に慣れてしまったほうが、思考停止に陥らずに済むけどな」

ベルサは新人二人に言う。

「結局どうすればいいんですか?」

メルモが悲しそうな表情で聞いた。

「どうせ慣れてしまうから、諦めろ。ただ、一般常識を忘れるなってことだよ。慣れるな危険!くらいに思っとかないと、大変な目に遭う。たった今、戦争になりかねないようなことを口走ったりな」

ベルサが自分の言葉を反省するように苦笑いした。

俺は会話を聞きながら「俺の扱いっていったい」と思っていた。

「儲けの話が出たから思い出したけど、そういえば神の依頼の報酬ってどういうものなんだ?」

ベルサが俺に聞いてきた。

「ああ、そうだ。それも考えないとね。ちょっと今後について話そう」

飯も食べて、落ち着いたようなので話し始める。

「まずは、水路を止めに行こう。それは俺とセスでやろうか?」

「はい、了解っす」

「それから、井戸掘りだね。村人や行商人たちがこの村を捨てるにせよ、時間がかかると思うんだ。それに道路公団の話がうまく行けば、重要な拠点になる可能性が高いしね」

「お、その話はどうだったんだ?」

ベルサが聞いてきた。マーガレットさんの話をしておいた方がいい。

「うん、ほら、フロウラの町でアイルが仕事取ってきたことがあったろ?」

「金持ちのばあさん家の倉庫を掃除した依頼か?」

アイルが思い出すように聞いた。

「そうそう。実はその金持ちのばあさんが、ルージニア連合国の中央政府の指南役みたいな人だったんだよ」

「「へ~!」」

ベルサとアイルがアホみたいに声を出した。

「意外な縁があるもんだ」

「うん、それでリドルさんに紹介してもらって、計画案を話した。たぶん、中央政府から役人だか、役員だかがガルシアさんに会いに来ると思うんだよね。で、その道路公団の話がまとまれば、俺たちの役目は終わりだね」

「え? 私たちは道作りに参加しないんですか?」

メルモは参加すると思っていたのか。

「しないよ。俺たちは駆除業者だからね。アフターサービスはガルシアさん一家が普通に暮らしていけるようにするだけで良いと思うんだ。なんでもかんでもやってあげて、頼られても、そんなにかまってあげられないよ。世界にはまだまだ勇者がいるようだし。それに、たぶん自分たちで自活していくでしょ?大人だからね。ガルシアさんは冒険者で稼げると思うし」

「それで、ガルシアさんたちが普通に生活するまでの間に起こる問題は予測ついてるのか?」

アイルが聞く。

「北の国からヒルレイクが攻撃されるかもしれないね。それについては、国境線へ竜たちに行ってもらおうかと思ってる。軽く焼いてもらって、人化の魔法で帰ってくれば、向こうの国も手を出しづらいと思うんだよね。あとは商人たちが混乱すると思うけど、そのへんは道が出来るとわかれば、利に聡い商人ならいろいろ商売を思いつくだろ?あとは弱肉強食ということで。一応、中央政府の指南役の人にも幾つか商売とか、利権に関しては伝えておいた。そんなことより、ガルシアさん一家の生活の方をサポートしたい」

「それで、私たちは井戸掘りをやればいいんだね?」

アイルが納得したように頷きながら言った。

「うん、さすがに水なくなると死ぬかなぁ、と思うんで」

「りょーかーい」

ベルサはお茶を飲みながら返事をした。

「それで……、神の依頼の報酬なんだけど、何が欲しい? 結構無理言えると思うんだよなぁ」

「ん~新しいスキルか」

「金もいいなぁ」

「レベルとか」

皆、自分が欲しい物を口にし、想像してほくそ笑んだ。

ある一人を除いて。

「僕は……雨ですかね」

セスの言葉に、「何言ってんだ?こいつ」と思った。

ただ、雨が降れば、湖の水位は上がるし、荒れ地にも植物が生えてくるのではなかろうか。そうすれば、湖の塩分濃度は下がるし、荒れ地に畑を作ることも可能になるかもしれない。

まさに恵みの雨だ。

結局、俺たちはセスの優しさに負けた。

自分の欲望ばかりに目を向け、他者を気遣うということを見失っていたのかもしれない。

「俺は、大人として恥ずかしいよ! 食事も皆で食べるから美味しいんだ。それをなんだ? スキルだぁ? 金? レベル? 娼館の優待券? そんなものは自分で手に入れればいいんだよなぁ」

俺も、アイルも、ベルサも、メルモも、がっくりと項垂れている。

「いや、別にそんなつもりで言ったわけじゃないんですが……、大丈夫ですよ、皆さん優しいですし」

セスは狼狽していた。

「やめろ! 惨めになるだけだ」

「それ以上言うと、泣くぞ!」

アイルとベルサが叫ぶ。

「片付けは私がやっておきます」

しんみりとした雰囲気の中、メルモが言う。

「じゃあ、行こう」

しんみりとした俺が言うと、全員立ち上がった。

「あの……、皆さん大丈夫ですか?」

セスだけ、慌てている。

「大丈夫だ。大事なものを思い出しただけだ。ロメオ牧師の葬儀は全員参加しような」

「「うん」」

「はい」

「OKっす!」

額に汗を浮かばせて、明るく振る舞うセスの姿が、輝いていた。