作品タイトル不明
こっちこっち
天使を連れて遺跡を探索していると、T字路に出くわした。
右と左。道はどっちにも伸びていて、その先は色濃い闇に包まれている。ドローンのライトを向けても、道の先までは見通せない。
「んー……」
少し考えて、道の左右に風を放ってみた。
遺跡の塵を巻き上げながら、風が遠く抜けていく。なんとなくだけど、左の方が風の抜けがいいように見えた。
「……たぶん、こっち?」
:風占い?
:上層に繋がる方向を探知したってこと?
:へー、風魔法ってそんなことできるんだ
:いやできないけど
:風魔法にそんな魔法はない
:ないんかい
私だって確信があって言ってるわけじゃない。こんなの、ただのおまじないに毛が生えたようなものだ。
一方、天使は突き当りの壁をじっと見ていた。
天使はおもむろに壁に近づき、表面に積もった塵を手で払う。
塵の下から出てきたのは、壁に刻みつけられた象形文字のようななにかだ。
:え、文字?
:ついに文字が出るか
:うおおおおおおおお情報の塊だああああああああああ
:お嬢、もうちょっとカメラ寄せてもらっていい?
言われた通り、ドローンカメラに文字を映す。
刻まれていたのは、未知の言語で書かれた簡素な横文字の一文だ。もちろん私には読むことはできない。
「これは……。面白くなってきたな」
インカムから通信が入る。真堂さんの声だ。
「真堂さん。なんて、書いてあるか、わかりますか?」
「無理を言うな。わかるわけないだろう」
:それはそう
:ごめんお嬢、俺もがんばったんだけどわからなかった
:せめて俺等に、未知の言語を初見で解読するスキルがあれば……!
:そんなスキルあってたまるか
:天使のボディランゲージを解読できるだけすげえよお前ら自信もて
リスナーたち、なんか悔しそうにしていた。楽しそうでいいなって思う。
「内容はわからんが、読み解けることはある。白石くん。その文字だが、正規の手段で刻まれたものだと思うか?」
「え、と。正規の手段、とは?」
「この遺跡を作った人間が、最初から意図してその場所に刻んだ文字か、という意味だ」
ああ、その。そういう意味で言うと。
もう一度文字をよく見てみる。字体は荒々しく、石かなにかで無理やり刻んだように見える。
「違うと、思います。後から、即席で、刻んだ文字では、ないでしょうか」
「同感だ。おそらくこれは、この遺跡を訪れた何者かが刻んだものだろう」
「えっと……。誰が、ですか?」
「少なくとも、探索者ではない」
もしも私たちの誰かが刻んだのであれば、その記録は配信に残る。だけどその痕跡はない。
となると、誰がここに来たのだろう。砂に埋れた遺跡の、こんな奥まで。
「*******……」
天使は複雑な面持ちでその文字を指でなぞる。
きゅっと口を結んで、顔をうつむかせる。その指先は少しだけ震えていた。
ややあって、天使は顔を上げる。そして、二本の指と片翼で道の先を示した。
「***。******。********」
天使が指さした方向はT字路の右側。私の風占いでは、風が吹き溜まっている方向だ。
試しに反対の通路に目を向ける。風の抜けがいい方だ。
すると天使はぶんぶんと首を振り、もう一度二本の指と片翼で右側の通路を示し直した。
:こっちに行きたい、ってさ
:なんか確信ありそうな感じだ
:もしかして、天使にはあの文字読めたのか?
「えっと……。真堂さん、どうします?」
「……今の君は遭難者だ。自身の安全を第一に考えろ、と言いたいところだが」
天使の顔はかたくなだ。たぶん、放っておいたら一人でも進むし、無理についてこさせようとしたら抵抗する。
リスナーの翻訳がなくてもわかる。彼女はそういう目をしていた。
「要救助者を放っておくわけにもいかない。任務更新だ、白石くん。彼女とともに進みつつ、帰路を探せ」
「了解、です」
まあ、それしかないよね。
それに右側の道が行き止まりと決まったわけじゃない。探してみたら、案外出口があるのかも。
「真堂さん。今の、特殊任務ぽくて、いいですね」
「いいから。さっさと地上に戻ってこい」
:相変わらず余裕ですね
:もしかしたら出口を教えてくれてるのかも
:森で迷ったら猫なり狐なりが案内してくれるやつだ
:せめて言葉がわかればなぁ
了承の意を込めて、天使に頷く。それから右側の道を進み始めると、天使はぱっと顔をほころばせた。
「****」
そう言って、天使は両手を組んでお腹の前に置く。
この仕草はさっきも見た。
たぶん、ありがとうって言ったんだ。