軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お茶石鹸とお茶ロウソクの成功

第9話 お茶石鹸とお茶ロウソクの成功

仕方なく、型に入れて作った「お茶石鹸」。

家で使ってみると、なかなか良い。

泡立ちは少し粗いが、汚れはしっかり落ちる。

そして何より――お茶の香りがふわりと広がり、手を洗うたびに爽やかな気分になる。

思わず何度も手を洗ってしまうほどだった。

「……悪くないな。」

ヤマタニは自分の手を見つめ、小さく呟く。

だが同時に、現実も理解していた。

「ああ、ブランド力のない露天じゃ、なかなか目立たないよな。」

街には既に石鹸もロウソクもある。

しかも長年使われてきた、信頼のある品だ。

見知らぬ露天の商品など、そう簡単に手に取ってもらえるはずがない。

品質が同じなら、いや少し劣るなら――

人は“知っている方”を選ぶ。

それでも――

「……なら、違いを見せるしかないか。」

ヤマタニは、お茶石鹸をもう一度手に取った。

この香り。

この“少し特別な感じ”。

もしかすると――

「お茶石鹸やお茶ロウソク……案外いけるかもしれないな。」

ただ並べるだけでは売れない。

ならば、体験させればいい。

そう考えたヤマタニは、意を決した。

――やるしかない。

その日から、ひたすら手を動かした。

お茶を煮出し、油と混ぜ、型に流し込む。

乾かし、固め、削り、整える。

単純だが、地味で終わりの見えない作業。

それでも手を止めなかった。

失敗すれば、もう後がない。

その思いが、疲れた腕を動かし続けた。

やがて――

お茶石鹸を100個。

そして、お茶ロウソクも100個。

並べられたそれらを見て、ヤマタニは息を吐いた。

「……ここまでやったんだ。」

引き返せない。

翌日。

露天に並べられたのは、いつもとは違う光景だった。

淡い色をした石鹸。

ほのかに茶の香りを漂わせるロウソク。

そして――実演。

ロウソクには火を灯す。

柔らかな灯りと共に、ほんのりとした香りが広がる。

石鹸では、ハンカチをその場で洗う。

泡立て、水で流し、絞る。

「おお……。」

通りすがりの人が足を止めた。

目で見て、香りを感じる。

それだけで、これまでとは反応が違った。

「いい香りだな。」

「普通の石鹸と違うのか?」

興味を持った人が、一人、また一人と増えていく。

ヤマタニは必死に説明した。

言葉は完璧ではない。

だが、身振り手振りで伝える。

“特別であること”を。

やがて――

最初の一つが売れた。

それを皮切りに、流れが変わる。

一人が買えば、周りも続く。

「じゃあ、私も。」

「試してみようか。」

気付けば、手は休む暇もなかった。

石鹸を渡し、代金を受け取り、また次へ。

ロウソクの灯りは途切れることなく揺れ続ける。

そして――

気付いたときには、何も残っていなかった。

「……え?」

目の前の机には、商品が一つもない。

売れ残りが当たり前だった露天に、初めて訪れた光景。

「全部……売れたのか……?」

信じられず、何度も見渡す。

だが、事実だった。

全て売り切れ――完売だ。

「嬉しい……!」

胸の奥から、込み上げてくるものがある。

「凄く嬉しい!!」

声には出さず、心の中で叫ぶ。

思わず、ぐっと拳を握りしめた。

試行錯誤と失敗を重ねた日々。

売れずに落ち込んだ夜。

それら全てが――

この瞬間に繋がっていた。

「……やっと、報われた。」

ぽつりと呟く。

だが同時に、別の感情も生まれる。

――もし、失敗していたら?

材料も、時間も、すべて無駄になっていた。

次はなかったかもしれない。

成功はした。

だが、それは綱渡りの結果でもある。

「……気を抜くな。」

ヤマタニは小さく自分に言い聞かせた。

それでも――

今だけは、この喜びを受け入れてもいい。

握りしめた金を見つめる。

これで――

「パンが買える……。」

これで空腹を満たせる。

当たり前のことが、こんなにも嬉しい。

夕暮れの中、ヤマタニはゆっくりと歩き出した。

その足取りは、これまでよりも少しだけ軽かった。