作品タイトル不明
異世界での創意工夫と初めての金貨
第10話 異世界での創意工夫と始めての金貨
異世界に来て、やっと安定した暮らしの目処が立った。
ヤマタニは元の世界よりも、この新しい世界に期待を巡らせる。
開発→販売→金→スローライフ――
順序は明確だ。
ある程度稼いだら、誰かに生産や販売を任せればいい。
自分は決定と管理だけを担う。
だが――
「問題は、人か。」
能力、不正、裏切り。
前の会社が潰れた原因が、脳裏に蘇る。
帳簿の改ざん、横流し、責任逃れ。
結局、最後に崩れるのは「人」だった。
「見張っているから、不正は起きない。」
そう信じていた時期もある。
だが、それは“見えている範囲だけ”の話だ。
スローライフを望むなら、人に任せるしかない。
だが、人に任せれば、必ず歪みが生まれる。
(……今はまだいい。)
まずは、一人で稼ぐ。
土台を作る。それからだ。
そう結論づけると、ヤマタニは市場を歩き回った。
「お!鍛冶屋か。」
いずれ世話になる。だが今欲しいのは、もっと雑多な工具だ。
ホームセンターの記憶が頭をよぎる。
やがて金物屋を見つけ、中へ入った。
鍋、燭台、フライパン、ナイフ、スプーン、フォーク、包丁――
そして。
ハリガネ、銅線。
「……銅線!?」
思わず声が漏れる。
これがあれば、できる。
一気に選択肢が広がる。
店員に拙い言葉で確認し、手に取る。
重み、光沢――間違いない。
銅線だ。
「いける……!」
銅板、亜鉛板、鉄棒。
必要なものをまとめて買い込む。
――そして家に戻ると、すぐに作業に取り掛かった。
果汁を絞る。
木枠に流し込む。
銅と亜鉛を差し込み、接続する。
「これで……。」
電池ができる。
次に鉄の棒に銅線を巻きつけ、接続する。
――ピタリ。
砂鉄が吸い寄せられた。
「……できた。」
磁石。
さらに試行錯誤を重ねる。
火花、発熱、失敗。
煙が上がる。
「くそっ、ショートか……!」
だが手は止めない。
原因を探り、組み直す。
何度も。何度も。
そして――
小さな回転が、生まれた。
「回った……!」
モーター。
その応用で、風車と水車の模型を作る。
スイッチを入れる。
カタカタ、と音を立てながら――
羽が、回る。
「よし……!」
完成だ。
翌日。
石鹸とロウソクの露天の横に、それを置いた。
結果は、予想以上だった。
「なんだこれ!?」 「勝手に回ってるぞ!」 「どうなってる!?」
人だかりができる。
ヤマタニは覚えた言葉を総動員して説明する。
回る理由。仕組み。力の流れ。
拙いが、伝わる。
客の目が変わる。
ただの露天商を見る目ではない。
“価値あるものを作る者”を見る目だ。
そして――
一人の裕福そうな男が、前に出た。
模型をじっと見つめ、言う。
「これ、全部いくらだ。」
ヤマタニは一瞬迷い、答えた。
「……金貨三枚。」
周囲がざわつく。
高い。
だが男は――
「いいだろう。」
即答だった。
袋から取り出されたそれは、銀ではない。
重く、鈍く光る――
金。
「……っ。」
手の上に乗せられる。
ずしり、とした重み。
初めて触れる、本物の金貨。
(これが……。)
喉が鳴る。
胸の奥が熱くなる。
(俺が、稼いだ金……!)
会社を失い、全てを失い――
ゼロから積み上げた結果が、ここにある。
「……ありがとう、ございます。」
言葉が少しだけ、はっきりと出た。
男は頷き、品を持って去っていく。
残されたのは――
三枚の金貨。
ヤマタニはそれを握りしめた。
強く。強く。
「……いける。」
確信だった。
この世界で、自分はやっていける。
いや――
やってやる。
異世界での商売は、ここからが本番だ。