作品タイトル不明
異世界での工場とアルバイト雇用
第11話 異世界での工場とアルバイト雇用
北西に、新たな工場を借りた。
自室では、もう量産に限界がある。
石鹸もロウソクも、売れ始めれば一気に数が必要になる。
だが一人でできることには限界があった。
――なら、人を使うしかない。
ヤマタニは街を歩いた。
視線の先にいるのは、働き口もなく彷徨う少年少女たち――浮浪者だ。
痩せ細った体。
汚れた服。
警戒と諦めが混ざった目。
かつての自分を見ているようで、目を逸らしたくなる。
それでも、足は止めなかった。
まずは声をかける。
パンを渡す。
水を差し出す。
最初は無視される。
逃げられる。
睨まれる。
それでも、やめなかった。
何日も、何日も繰り返した。
やがて――
「……なんでくれるの?」
そんな言葉が返ってくるようになる。
「余ってるからだ」
嘘ではないが、本当でもない。
それ以上は言わなかった。
距離が少し縮まった頃、ヤマタニは切り出した。
「工場で働かないか?」
沈黙。
互いに顔を見合わせる子供たち。
疑い、戸惑い、そして――わずかな期待。
「金は出るのか?」
少年の一人が、低い声で言った。
「出る。ただし、全部じゃない」
ヤマタニは条件を説明する。
食事、服、靴、住居――
生活に必要なものを差し引いたうえで、残りを給料として渡す。
「……騙してねえだろうな」
「嫌なら来なくていい」
突き放すように言う。
だが内心では、選ばれない可能性も覚悟していた。
しばらくの沈黙のあと――
「やる」
短い一言だった。
そうして、三人を雇うことになった。
ケンとロミオ、そしてウテナ。
工場の隣に下宿を借り、三人を住まわせる。
粗末ではあるが、屋根があり、寝床があり、温かい食事がある。
それだけで、彼らにとっては十分すぎる環境だった。
最初の夜、三人はほとんど眠らなかった。
安心していいのか分からなかったのだろう。
物音にびくつき、何度も目を覚ましていた。
その様子を見て、ヤマタニは何も言わなかった。
時間が解決するしかない。
工場の脇には、使われていない小屋がある。
ある日、そこに小さな子供が震えていた。
まだ働ける年齢ではない。
それでも、放っておくことはできなかった。
ヤマタニは迷った末、その子を小屋に住まわせた。
孤児院と呼べるほど立派なものではない。
ただの空き小屋だ。
それでも――雨風は防げる。
野菜屑で作ったスープを差し出すと、子供は夢中でかき込んだ。
手を震わせながら、こぼしながら、それでも止まらない。
「ゆっくり食え」
思わず声が出た。
だが、子供は止まらない。
器は、あっという間に空になった。
それでも――
子供の腹は、満たされていない。
「すまない。今日はこれが精一杯だ……」
「うう……」
声にならない声。
ヤマタニは、思わず顔を背けた。
視線を向け続けることが、できなかった。
すると――
「大丈夫。ごめんなさい」
気を遣ったのは、子供の方だった。
胸の奥が、鈍く痛む。
――違うだろ。
謝るのは、自分の方だ。
だが言葉は出てこなかった。
食料も、金も、まだ足りない。
助けると言いながら、救いきれていない。
その現実が、重くのしかかる。
ヤマタニは水をがぶ飲みして、空腹をごまかした。
腹は満たされない。
だが、それでいいと思った。
少なくとも、あの子よりはマシだ。
――まだ、足りない。
もっと稼がなければならない。
もっと回さなければならない。
工場に戻り、仕事に意識を切り替える。
ケンとロミオには、石鹸とロウソクの作り方を付きっきりで教える。
最初は手つきもぎこちなく、失敗も多い。
だが、覚えは早かった。
「違う、そこはこうだ」
手を取り、動きを教える。
何度も繰り返すうちに、少しずつ形になっていく。
ロミオは無口だが、作業は丁寧だった。
ケンは口が悪いが、要領がいい。
性格は違うが、どちらも使える。
ウテナには、売り子を任せる予定だ。
人当たりがよく、笑顔が自然に出る。
客の目を見て話せるのは、大きな強みだった。
とはいえ、最初から一人で任せるつもりはない。
当面はヤマタニが付き添う。
金を扱う以上、大人の目は必要だ。
そして同時に――
信頼を築く時間でもある。
今回の雇用は、あくまで期間アルバイトという形にする。
見込みがあれば継続。
やがては見習い、そして正式な社員へ。
段階的に育てていく。
焦る必要はない。
だが、止まるわけにもいかない。
浮浪者の中から、人材を慎重に見極める。
――なぜ、浮浪者を雇うのか。
理由は単純だ。
彼らは、生活に困っている。
だからこそ、必死に働く。
暴力や圧力で従わせることもできる。
だが、それでは長く続かない。
いずれ反発し、壊れる。
恩や感謝で繋がった関係の方が、強い。
そして何より――
裏切られにくい。
もちろん、絶対ではない。
それでも、何もない関係よりはずっといい。
ヤマタニは、そう信じている。
いや――
信じるしかなかった。