軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

石鹸とロウソクの試作と販売

第7話 石鹸とロウソクの試作と販売

石鹸はあるが、高い。

庶民が気軽に使えるものではない。

使い古された石鹸でも、店によっては意外と良い値段で買い取ってくれるらしい。

それだけ需要があるということだ。

ロウソクは手間がかかる。

油はロウソクより安く、主流は油灯だ。

だが、明るさや手軽さではロウソクに軍配が上がるだろう。

持ち運びもでき、風さえなければ安定した光を得られる。

赤リン、黄リン、硫黄、松脂――もし揃えば、マッチも作れるかもしれない。

そこまでいけば、一気に生活を変えられる。

だが今は、目の前の一つずつだ。

研究と試作を重ね、ヤマタニはついに第一号の石鹸と第一号のロウソクを完成させた。

手は油と灰で黒ずみ、爪の間には汚れがこびりついている。

それでも、その出来栄えを前に胸が高鳴った。

「……よし。」

さっそく自宅で試してみる。

石鹸を水に濡らし、手をこする。

ぬるりとした感触。泡立ちは悪くない。

だが――

「っ……!」

ヒリ、とした痛みが走った。

まるで細かい針で刺されるような刺激が、じわじわと広がる。

手の皮膚が突っ張る。乾くと、白く粉を吹いたようになった。

「手が荒れる……アルカリが強すぎるのか。」

思わず顔をしかめる。

次にロウソクに火を灯す。

小さな炎が揺れ、部屋を淡く照らした。

「おお……。」

一瞬、期待が膨らむ。

だが次の瞬間、その期待はあっけなく崩れた。

ロウがみるみるうちに溶け、炎が不安定に揺れる。

ぽたり、と溶けたロウが落ち、すぐに形が崩れた。

数分もしないうちに、火は頼りなく消えた。

「……は?」

言葉が出ない。

「駄目だ、駄目だ、駄目だ……!」

思わず頭を抱える。

焦りが胸の奥でじわじわと膨らんでいく。

材料も時間も、無限にあるわけじゃない。

だが、ここで止まるわけにはいかない。

自作のロウソクを市販品と比べてみる。

他のロウソクは形を保ち、長く燃え続ける。

炎は安定し、商品としての価値がはっきりとある。

対して自分のものは――ただの塊だ。

すぐに溶け、光にもならない。

石鹸は調整すればいい。

アルカリの量、水分量、配合比――改善の道筋は見える。

問題はロウソクだ。

ヤマタニは、市販品の溶け残りを集めてきた。

同じロウを使えば、差は消えるはずだ。

自分の紐を使い、慎重に成形する。

火を灯す。

……しかし。

結果は同じだった。

溶ける。崩れる。持たない。

「……違う。」

何かが違う。

ロウは同じ。

形も大きくは変わらない。

それでも結果が違う。

「おや……。」

ヤマタニは、市販品のロウソクを手に取り、じっと見つめた。

そして指先でほぐす。

中から現れたのは、細い芯。

「違うのはロウじゃない……芯か!」

胸の奥で、何かがはまる感覚があった。

市販品の芯を取り出し、自作のロウを使ってロウソクを作る。

手が震える。

火を灯す。

炎が、静かに立ち上がる。

揺れない。暴れない。

ゆっくりと、一定の速度でロウが溶けていく。

「……いける。」

時間が経っても、炎は消えない。

思わず、息を吐いた。

「そうか……芯か……!」

原因が分かった。

それだけで、世界が一気に開けた気がした。

改良を重ねる。

芯の太さ、撚り方、長さ。

何度も失敗し、ようやく形になっていく。

石鹸も同時に調整する。

刺激を抑え、使えるレベルまで落とし込む。

そして――

ついに、満足のいくロウソクと石鹸が完成した。

「……よし。」

短く呟く。

今度は売る番だ。

さっそく、値段を少し安く設定して露天で売ってみる。

目立つように並べ、声を張る。

最初は足を止める者は少なかった。

だが、一人の客が手に取る。

光を確かめ、値段を見る。

「……安いな。」

その一言で、空気が変わった。

次々と人が集まる。

手に取り、試し、買っていく。

硬貨が手の中に積み上がる。

ずしりとした重みが、現実を伝えてくる。

「……売れた。」

思わず口元が緩む。

内心、ヤマタニは小さくガッツポーズをした。

――やった。

だが。

翌日。

同じ場所に立っても、様子が違った。

人通りはある。

だが、足を止める者がいない。

昨日あれだけ集まった客が、一人も来ない。

「……?」

声を出しても、誰も振り向かない。

一人、また一人と通り過ぎていく。

嫌な予感が、背筋を這い上がる。

ふと視線を横に向けた。

――隣の露天。

そこに並んでいたのは、見覚えのあるロウソクだった。

形も、太さも、値段も――ほとんど同じ。

「……は?」

思考が止まる。

ヤマタニは頭を抱え、露天を眺めながら思案に沈む。

材料購入で、軍資金がもうあまりない。

時間も、余裕もない。

それなのに――

「もう、真似されたのか……?」

低く呟いた声は、誰にも届かなかった。

自分にはスマホのメモリーには車や技術のデーターが満載されている。

これが活かせれば活路はある。

そう思い、ヤマタニの希望は消えなかった。