作品タイトル不明
ボールペン売却と貸家入手
第4話 ボールペン売却と貸家入手
朝、ヤマタニは昨日買った安いパンと水で簡単に朝食を済ませた。
固く、味気ない。だが今は文句を言う余裕もない。
腹を満たすと、すぐに外へ出る。
再び街を歩き、三色ボールペンを売り込むためだ。
「一本で三色、使い分けができる便利な道具だ。」
昨日練習した口上に加え、カチカチと色を切り替える音を鳴らす。
さらに宿屋で見つけたメモ用紙に実際に書いて見せると、どこでも足を止められた。
黒から赤へ、赤から青へ。
滑らかに変わる色に、人々の表情が変わる。
「これは凄い!」
そんな声が、どこでも返ってきた。
当初は銀貨三十枚くらいで売れればいいと思っていた。
だが現実は違った。
提示される金額はどんどん上がり、
一番高く提示されたのは、なんと銀貨百二十枚。
予想を大きく超える額に、ヤマタニは一瞬言葉を失った。
最終的に、ボールペン二本で合計銀貨百七十枚。
あちこち回って売り込んだ甲斐があった。
手にした銀貨の重みを感じながら歩いていると、
ふと、家の絵が描かれた看板が目に入る。
(家……か。)
売買か、貸し出しか。
詳しい文字は読めないが、意味はなんとなく分かる。
ヤマタニは立ち止まり、少し考えた。
宿暮らしでは金が減り続ける。いずれ拠点が必要になるのは明らかだった。
道具屋で買った紐付きの革袋に銀貨を入れ、首からぶら下げる。
中身はずっしりと重く、思わず周囲に目を配る。
(これは……狙われてもおかしくないな。)
露天で買った外套で袋を隠しながら、店へ向かう。
その途中だった。
誰かとぶつかった瞬間、胸元の袋が強く引かれる。
「っ!」
反射的に身を引く。
袋は首の紐で固定されており、奪われることはなかった。
相手は舌打ちし、そのまま人混みに紛れて消えていく。
「……危なかった。」
鼓動が速くなる。
用意していなければ、今ので全てを失っていたかもしれない。
気を引き締め、ヤマタニは店へ入った。
中には誰もいない。
お香の香りだけが静かに漂っている。
「誰かいますか?」
声をかけると、奥から主人が現れた。
ヤマタニが日本語とこの国の言葉を混ぜて話すと、主人は一瞬戸惑う。
だがすぐに、カウンターからカードを取り出した。
一枚目は、金と家を交換する絵。
二枚目は、家を売って金を得る絵。
三枚目は、金を払い家に住む絵。
(貸家……か。)
ヤマタニは三枚目を指差す。
主人は笑い、資料を三枚差し出してきた。
貸家の間取りと、町の地図。
それぞれに印がついており、場所が一目で分かる。
(言葉が通じなくても商売になる……やり手だな。)
ヤマタニはその中から、一番小さな家を選んだ。
町の外側、西にある家で、家賃も安い。
こうしてヤマタニは、十日で銀貨一枚、月に銀貨三枚という貸家を借りることに成功した。
若い店員に案内され、家へ向かう。
鍵を受け取り、差し出された手に銀貨を渡す。
だが店員はさらに手を出してくる。
少し考え、銅貨二枚を渡すと、店員は満足そうに笑い帰っていった。
貸家の中は、想像以上に埃だらけだった。
「……これは、掃除が必要だな。」
ヤマタニはしぶしぶと掃除を始める。
だが、手を動かしながら思う。
ここはもう、ただの空き家ではない。
(ここが拠点になる。)
異世界での生活の第一歩。
未来を作る場所になるのだと、静かに決意した。