作品タイトル不明
マルペン商会に二周年記念祭
第32話 マルペン商会 二周年記念祭
マルペン商会の二周年記念祭は、静かに幕を開けた。
飾りつけも質素。
手作りの旗が風に揺れている。
最初の出し物は、孤児院の子供たちによる合唱だった。
声は揃っていない。
高い音は裏返り、低い音は震えている。
それでも――誰一人、笑わなかった。
社長は腕を組み、じっと聴いている。
歌い終わった瞬間、彼は大きく頷いた。
「よくやった。」
たったそれだけの言葉で、子供たちの顔がぱっと明るくなる。
次は劇。
台詞を忘れて固まる子。
舞台袖から小声で教える仲間。
会場は、温かい笑いに包まれた。
塀の外から、ひょいと顔を出す近所の人影。
「なんだい今日は?」
「マルペン商会の二周年記念祭です。よろしければ中へ。」
遠慮がちだった足が、やがて中へと踏み入る。
ピザを一切れ。
サンドイッチをひとつ。
「……あら、美味しいじゃない。」
その一言で空気が変わった。
料理は次々と追加され、酒樽も運ばれ、また空になる。
酒や料理目あてにどんどん人が増えてくる。
ヤマタニが作った、もどき料理も出された。
ハンバーガー
ホットドック
ハンバーグ
スパゲッティ
フライドチキン
ポテトフライ
etc
誰かが楽器を持ち出す。
太鼓の音。笛の音。手拍子。
職人も孤児も、近所の人も、肩を並べて踊っていた。
夕焼けが夜に変わっても、祭りは終わらない。
やがて子供たちはその場で眠り、
酔った大人たちは壁にもたれかかる。
静まり返った工場の前に、社長はひとり立っていた。
提灯の灯りが揺れる。
笑い声の残響が、まだ空気に残っている。
彼は胸の奥に広がる熱を感じた。
研究の成功でもない。
売上の数字でもない。
人の笑顔が、これほどまでに満ちる光景。
「……今が、一番だな。」
小さく呟く。
翌朝。
店の前には見慣れぬ客が列を作っていた。
昨日の祭りの噂は、北地区じゅうに広がっていたのだ。
ロウソクや石鹸が飛ぶように売れた。
今まで知らなかった街の人達と仲良くなれた。
小さな店だったが、お客さんでごった返した。
さらに店の外にも行列ができている。
よくみると昨日飲んだくれていた老人や、子供連れの奥さんまでやって来て、何か買ってくれた。
「昨日散々食べたり飲んだりしたからねぇ。何か買わないとお返しできないから。」
とかいってわざわざ買い物していく。
皆さん買いに来てくれて、本当にありがたかった。
人の優しさ、心が暖かかった。
社長は帽子を被り直す。
また忙しくなる。
それでも、その足取りは軽かった。