作品タイトル不明
葬儀
第27話 葬儀
少年の亡骸は、教会へと運ばれた。
洗い清められ、質素だが丁寧な衣に包まれる。
小さな棺に横たわる姿は――まるで眠っているだけのようだった。
……だが、もう二度と目を覚まさない。
葬儀は、静かに執り行われた。
香の煙が、ゆらゆらと揺れる。
その向こうで、ヤマタニはただ立ち尽くしていた。
参列者は多くない。
だが孤児院の子供たちも、工場の仲間たちも、誰一人として声を上げない。
泣くことすら、遠慮しているようだった。
小さな棺が、土の中へと降ろされていく。
土が落ちる音が、やけに大きく響いた。
――終わりだ。
何も、残らない。
埋葬を終えたあと、ヤマタニは司祭のもとを訪ねた。
「また子供を救えませんでした。」
声は、思っていたよりも掠れていた。
司祭は静かにうなずく。
「悲しいですね。辛いですね。」
「……はい。」
「しかし、あなたは少年を見捨てなかった。最後まで看取った。その温もりを、あの子は感じていたはずです。」
ヤマタニは俯いたまま、拳を握る。
爪が食い込む。
「あなたは良い行いをしました。」
柔らかな声だった。
だからこそ――
(……違うだろ。)
胸の奥で、低い声が響いた。
(救えなかった時点で、全部失敗だ。)
(死んだ後に何をしても、意味がない。)
喉の奥まで言葉がせり上がる。
だが、吐き出さない。
代わりに、短く答えた。
「……ありがとうございます。」
「悲しみは大切なものです。ですが、心を歪ませてはなりません」
その言葉に、わずかに顔を上げる。
歪むな、か。
(無理だろ。)
そう思ったが、やはり口には出さなかった。
「あなたに神のご加護を。」
ヤマタニは深く一礼し、御布施を手渡す。
馬車に揺られながら、工場へ戻る。
景色はいつもと同じはずなのに、妙に遠い。
「臨時休業だ。」
短く告げる。
従業員たちは何も言わず、静かに頭を下げた。
誰も、「仕方ない。」とは言わなかった。
夜。
ヤマタニはドクターと向かい合って座っていた。
酒瓶が一本、また一本と空く。
「……救えなかった。」
「ああ。」
それだけで十分だった。
沈黙の中、酒だけが減っていく。
「……金も、技術もある。」
ぽつりとヤマタニが言う。
「なのに、救えない。」
グラスを握る手に、力がこもる。
「何が足りない。」
答えはない。
ドクターも、何も言わない。
別室では、子供たちに料理や菓子、果実水が振る舞われていた。
無理に笑顔を作っているのが、遠目にも分かる。
「……ねえ。」
小さな声が聞こえた。
「あの子、あったかかったよね。」
その一言で、誰かが泣き出した。
静かに、声を殺して。
夜更け。
ヤマタニはひとり、中庭に立つ。
冷たい空気が肺に沁みる。
空を見上げる。
星は、やけに綺麗だった。
(……また一人、間に合わなかった。)
目を閉じる。
あの時、もっと早く手を打てていれば。
もっと準備していれば。
もっと――
(……違うな。)
ゆっくりと、息を吐く。
言い訳を切り捨てる。
(足りなかった。それだけだ。)
静かに、拳を握る。
(次は――絶対に救う。)
(救えなかった奴の分まで、じゃない。)
(救えなかった奴を、二度と出さない。)
目を開ける。
その視線は、もう揺れていなかった。
悲しみは消えない。
だが、それで終わらせる気もない。
静かに。
しかし確かに。
ヤマタニの中で、“何か”が形を変えた。