作品タイトル不明
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第24話 選ぶ
今は会えない。
だが、記憶は消えない。
それでも――
この世界で共に戦い、共に築いてきた彼女たちの存在は、確かに温かかった。
「社長は、誰を選ぶおつもりですか?」
経理課長ケイトの言葉は、いつもの報告よりもずっと重かった。
「……選ばれなくても、支えます。」
協会長の娘――ヒラリーが、小さな声で続ける。
その声音は静かだが、逃げ場を与えない強さを秘めていた。
重い。
帳簿の数字よりも。
新発明の成否よりも。
ずっと重い。
ヤマタニは息を吐き、視線を落とす。
そして、ゆっくりと言った。
「まずは会社を守る。それが最優先だ。」
二人は一瞬だけ視線を交わし――
「それは当然です。」
声が重なる。
だが、その一致は“答え”ではない。
問題の先送りに過ぎないことを、三人とも理解していた。
……当分、安眠はできそうにないな。
数日後。
ヤマタニは屋敷でパーティーを開いた。
協会関係者、取引先、孤児院の互助会、贔屓の貴族たち――
日頃の縁をすべて繋ぎ直すための場だ。
本音を言えば、苦手だ。
だが、商売を広げるなら避けられない。
スローライフを掲げるなら、まず地盤を固める必要がある。
広間には料理が並ぶ。
元宮廷料理人による前菜、魚料理、肉料理、そしてデザート。
一皿ごとに歓声が上がる完成度だ。
庭園では灯りに照らされた薔薇が揺れ、甘い香りが夜に溶ける。
壁には風景画。中央には木工職人の女神像。
「ほう、これは見事だ。」
「噂以上ですな。」
来客の声が広がる。
さらに新発明の実演。
そして土産として配られる石鹸とアロマキャンドル。
結果は明白だった。
取引希望は増え、販売網は拡大。
孤児院への援助も増額が決まる。
……やるべきことをやれば、結果は出る。
そう確信した、その時だった。
「お疲れ様です、社長♡」
振り向くと、ケイトがいた。
艶やかなドレス。大胆に開いた胸元。
仕事中の冷徹な経理の顔はなく、完全に“女”の微笑みだった。
「本日も見事な采配でした。」
反対側から、ヒラリーが寄り添う。
控えめな色合いのドレス。
派手さはないが、柔らかく落ち着いた気配。
対照的な二人。
だが、どちらも視線は――ヤマタニを逃がさない。
宴が終わり、客が去る。
静寂が戻った瞬間。
「社長、少しお時間を……。」
「今日は私が先です。」
同時だった。
気づけば、左右から腕を絡め取られている。
柔らかい感触が、逃げ場を奪う。
視線と視線がぶつかる。
火花が散る。
……なぜこうなった。
「待て、俺は――。」
既婚者だぞ。
言葉にする前に、二人の力が強まる。
今日は酔っているのか。
普段以上に距離が近い。
好かれるのは悪くない。
だが――
「……やめろ。喧嘩するな。」
それだけは、見たくない。
しかし二人は離れない。
譲らない。
引かない。
ヤマタニの腕を挟んだまま、静かに戦っている。
逃げ場はない。
華やかな成功の裏で。
自宅が戦場になるとは、思いもしなかった。
――静かなスローライフを夢見ていたはずなのに。
(……気ままな生活は、どこへ消えた。)
その問いに答える者は、誰もいなかった。