作品タイトル不明
孤児狩り襲撃、ヤマタニの罠が炸裂
閑話:孤児狩り襲撃、ヤマタニの罠が炸裂
ある日、孤児の少年が半べそをかいて、何かを探しているのを見つけた。
「どうした? 探しものか?」
「うぅ……弟がいないんだ。」
その声は震えていた。泣きそう、ではなく、すでに泣いている。
「どこでだ?」
「あそこの門を曲がった先……。」
少年が指した方向を見ても、そこにはただの石畳が続くばかりだった。人の気配も薄い。だが、空気だけが妙に重い。
「炊き出しの列に並んだとき、弟がなかなか追いついてこなかったんだ。」
「だから探したのか?」
「でも……片方の靴しか見つからなかった……。」
その一言で、ヤマタニの表情がわずかに変わった。
片方だけ残された靴。
まるで“そこにいた証拠だけを残して消された”ような違和感。
ただの迷子ではない。
(……やられたな。孤児狩りか。)
だが今回は軽い連中ではないと直感した。
痕跡が薄すぎる。手慣れすぎている。
人を“消すこと”に慣れている組織だ。
◆
ヤマタニはすぐに動いた。
まず、灰と乾燥唐辛子粉を混ぜる。さらに少量の油を加え、空気中に広がりやすく調整する。
それを布に包み、試しに壁へ叩きつけた。
破裂音。
乾いた衝撃。
そして遅れて広がる刺激臭。
「……これでいける。」
だがそれだけではない。
これはただの防犯道具ではない。
“戦術装備”だ。
孤児院の子供たちには訓練を行った。
・合図の理解
・複数同時投擲
・風上・風下の判断
・逃走経路の封鎖
遊びではない。実戦の準備だ。
「怖いなら投げなくていい。」
ヤマタニはそうは言わなかった。
代わりに言った。
「兄妹を、仲間を守りたいなら、覚えろ!」
子供たちは黙って頷いた。
その目に、迷いはもうなかった。
◆
そして炊き出しの日。
街はいつも通りに見える。だがヤマタニだけは違和感を感じていた。
どことなく視線を感じる。
怪しげな空気を感じる。
人の流れが“監視の形”をしている。
(最低でも六……いや、八か。連携してる。)
単独犯ではない。訓練された狩りだ。
やがて孤児の列に影が落ちる。
その瞬間だった。
門の裏側から、子供の腕が掴まれた。
「今だ!!」
ヤマタニの声と同時に、孤児たちが一斉に動いた。
布袋が投げられる。
破裂。
白煙。
刺激臭。
「ぐああああッ!!」
「目が……開かねぇ!!」
隠れていた“狩人”たちが一気に姿を現す。
だがその顔にあったのは怒りではない。
“理解”だった。
(……待ち伏せだと?)
次の瞬間、さらに二発目。
三発目。
風上から連続して叩き込まれる粉末。
逃げ道が消えていく。
路地裏、屋根上、退路すべてが“計算されている”。
「撤退だ! このガキ共め――。」
叫びは途中で潰れた。
足場の先にも仕掛けがあった。
先回りされている。
逃げる方向すら読まれている。
一人、また一人と姿を消すように退いていく。
戦いではなく、崩壊だった。
◆
数分後。
静寂。
残っているのは風と、散った布袋だけ。
孤児たちは震えていた。
だが誰一人として倒れてはいない。
掴まれていた子供が解放される。
泥だらけの手で、地面に立つ。
その瞬間だった。
小さな笑い声がひとつ。
次にもうひとつ。
そして、連鎖するように笑いが広がった。
恐怖の中で初めて、“勝った”という実感が生まれていた。
◆
その報告を聞いたヤマタニは、静かに息を吐いた。
そして短く言う。
「……想定より数が上だったな。」
孤児たちが駆け寄る。
「勝ったのか?」
「どうやってやったの?」
「また来る?」
矢継ぎ早の声に、ヤマタニは一瞬だけ黙る。
そして言った。
「来るかもしれない。」
その言葉に一瞬だけ空気が冷える。
だが続けて、こう言った。
「だから次も勝つ準備をする。」
その瞬間、子供たちの表情が変わる。
不安ではない。覚悟だ。
◆
その夜。
街のどこかで、誰かが報告を受けていた。
「……失敗だと?」
低い声。
孤児狩りは終わっていない。
むしろ、今のは“始まり”に過ぎない。
だがその街にはもう一つだけ変化があった。
守られる側ではなく、守る側が存在し始めたということ。
そしてその中心にいるのが、ヤマタニという男だった。
まさに知恵と準備と連携の勝利。
だがそれは同時に、新たな戦いの幕開けでもあった。