軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

マクレガー登場

閑話 マクレガー登場

ヤマタニはマルペン商会の孤児院をまわる。そして子供たちの様子を見ていた。

狭いながらも整理整頓は行き届き、床には埃ひとつない。

子供たちは走り回り、笑い声が絶えない。

服も教科書も、ぎりぎりの人数分は揃っている。

(……無理させているな。)

一目で分かる“限界ギリギリの運営”。

だがそれでも崩れていない。

そこにマグレガーという者がやって来た。

「…なるほど、これが噂のマルペン商会か。」

金も人手も余裕があるわけではない。

それでも子供を“維持”している。

守るという意思だけで成り立っている場所か。

マグレガーは扉をノックした。

そして扉の向こうから軽やかな声が響いた。

「やーやー、これはマルペン商会さん。お初にお目にかかります。」

入ってきたのは、背筋の伸びた紳士然とした男だった。

身なりは整い、動作は滑らか。

だが、その“滑らかさ”が逆に不自然だった。

まるで一つ一つの動きが、事前に決められているかのように。

「自分は太陽の家孤児院の院長をしております、マクレガーと申します。」

にこやかな笑み。声も柔らかい。

だがヤマタニは一瞬、言葉にできない違和感を覚えた。

(……なんか芝居がかっているみたいだ。)

「こちらこそ、よろしく。マルペンの孤児院を視察ですか?」

「はい。自分も孤児院を経営しておりますゆえ、噂に名高い貴商会を参考にと。」

マクレガーは誇らしげに胸を張る。

その仕草すらも、どこか“見せるための角度”に感じられた。

二人は孤児院を歩きながら会話を続けた。

子供たちは活き活きしている。

その様子をマクレガーは過剰なほど褒めた。

「素晴らしい……一人でも孤児を助ける為でしょうか?実に理想的ですな。」

「いやいや、ただカツカツなだけです。」

ヤマタニがそう返すと、マクレガーは笑った。

「ご謙遜を。ここまで多くの孤児を救う姿勢、非常に参考になります。」

言葉は丁寧だ。

だが一つ一つが“評価”というより“測定”に近い。

(何をみているんだ?)

ヤマタニは気づく。

褒めているのではない。

観察している。

・人数

・管理方法

・食料配分

・動線

・子供の年齢層

すべてを、目で数えている。

まるで市場調査のように。

その瞬間、ヤマタニの背中に微かな冷気が走った。

マクレガーはさらに笑みを深めた。

「こうした施設は、街の未来そのものですからなぁ。」

その言葉に、違和感がさらに強くなる。

“未来”という単語の使い方が軽い。

人の人生に対する重みがない。

まるで商品を語るような口ぶりだった。

(子供の未来か?それとも自分の未来か?)

ヤマタニは表情を崩さないまま観察を続ける。

そのとき、マクレガーが何気なく一人の子供の頭を撫でた。

優しい動作。

だが――

その撫で方が“検品”のようだった。

軽く頭の形を確かめるような指の動き。

一瞬だけ、空気が凍った。

見学の最後、マクレガーはさりげなく招待状を差し出した。

「もしよろしければ、太陽の家にもお越しください。歓迎いたします。」

丁寧な礼儀。

完璧なタイミング。

だがそれが逆に“仕組まれた動作”に見える。

ヤマタニは微笑を返した。

「機会があれば…。」

その瞬間、マクレガーの笑みがわずかに深くなった。

ほんの一瞬。

普通なら気づかないほどの変化。

だがヤマタニは見逃さなかった。

(……今のは“獲物を見つけた目”だ。)

背筋に冷たいものが走る。

別れ際、マクレガーは最後まで丁寧だった。

礼儀正しく、完璧に、隙がない。

だがその“完璧さ”が逆に不自然だった。

人間というより、“役”を演じている。

ヤマタニは孤児院を後にしながら、静かに息を吐いた。

「……一体、何者なのだろう?」

表向きは孤児院の院長。

だが中身は別物だ。

街のどこかで、“何か”が組み上がっている気配。

そしてその中心に、今の男がいる可能性。

まだ確証はない。

だが直感だけは、はっきり告げていた。

(あれは何か普通ではない。)

そして――

(たぶん、もう一度会うことになる。)

その予感は、やがて現実になる。

この出会いが、街の裏側に潜む“計画”の歯車の一つであることを、まだ誰も知らない。