軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

クレーム

第19話 クレーム

孤児院を開設して間もなく――思わぬクレームが入った。

「お前のところのガキが盗みを働いた。」

商人の男は怒りを隠そうともせず、ヤマタニに詰め寄った。

「証拠はあるのか?」

「似たようなガキだったんだよ! 汚ねえ服でな!」

その言葉に、周囲の空気がわずかに変わる。

――やはり孤児は盗む。

そんな無言の視線が突き刺さる。

ヤマタニは一歩も引かなかった。

「確認させてくれ。」

孤児院に戻り、全員の所在を洗い出す。

その日は畑仕事と清掃で、子供たちはほぼ全員が院内にいた。

さらに聞き込みを重ねる。

そして判明した。

犯人は、風貌の似た別の浮浪児だった。

「……違ったのか。」

商人は気まずそうに目を逸らした。

だが、ヤマタニは責めなかった。

疑われるのは当然だ。

孤児とはそういう存在だと、この街では認識されている。

(だからこそ、変える。)

そう心に刻む。

それからしばらくして――

ルミナス教のシスターが視察に訪れた。

「虐待の有無、収支、労働内容……すべて確認させていただきます。」

柔らかな口調とは裏腹に、目は鋭い。

食事の量。

寝床の状態。

子供たちの表情。

一つ一つを丁寧に見ていく。

子供の一人が、少し怯えた様子を見せた瞬間、シスターの視線がヤマタニに向いた。

「……恐れているように見えますが?」

「慣れていないだけだ。殴ったことは一度もない。」

静かに言い切る。

しばらくの沈黙の後――

シスターは小さく頷いた。

「……確かに、よく管理されています。」

帰り際、彼女にお布施をわたした。

「この規模でこれほど整っている施設は珍しい。どうか続けてください。」

さらに後日、衛兵がやってきた。

「人さらいの噂がある。子供の扱いには特に注意しろ。」

周囲では、孤児を狙った人身売買や闇商人の暗躍が増えているらしい。

ヤマタニはすぐに対策を講じた。

年長の子供たちを警備に回す。

出入りの管理を徹底する。

完全ではない。だが、何もしないよりはいい。

そして――

商人協会の協会長が直々に視察に訪れた。

浮浪者を雇っていると聞き、問題視されるかと思われたが――

「面白いことをするな。」

協会長はそう言って笑った。

「普通は切り捨てる。だが、お前は使っている。」

その視線は、どこか楽しげだった。

「盗みを働く連中もいるが……扱い次第か。」

ヤマタニは答えなかった。

代わりに、子供たちに配られるパンを自分の分から割いた。

それを見た協会長は、ふっと息を吐いた。

「……なるほどな。」

その一言で、評価は決まった。

やがて孤児院の評判は広がっていく。

貴族夫人が寄付に訪れ、

近隣住民は口々に感謝を述べた。

「最近、町がきれいになった。」

その理由を、ヤマタニはよく知っている。

落書きやゴミは、連鎖する。

一つあれば、「これくらいなら」と増えていく。

逆もまた然りだ。

だからこそ――

休みの日には、子供たちと共に町を清掃した。

「孤児=悪」という認識を、少しずつ壊すために。

だが。

問題はまだ残っている。

――人さらいだ。

見えない脅威は、常に近くにある。

警備を強化しながらも、ヤマタニは焦っていた。

(資金がいる。)

守るにも、拡大するにも、金が必要だ。

そのために――再び、発明に手をつけた。

炭に銅線を巻き、抵抗を作る。

竹炭、鉛筆の芯――試行錯誤を重ねる。

何度も失敗し、焦げ、壊れ、それでも繰り返す。

そして――

ついに、光が灯った。

小さく、しかし確かな光。

(……いける。)

改良を重ね、商品化に踏み切る。

完成した電球は、驚異的な持続時間を誇った。

専用ソケットとコードを組み合わせ、販売を開始する。

正直、ランプで十分だと思っていた。

だが――

予想は裏切られた。

「なんだこの明るさは!」

「煙が出ないぞ!」

「夜でも作業ができる!」

評判は瞬く間に広がり、注文が殺到した。

工場はフル稼働。

昼も夜もなく、生産は続く。

孤児院の資金は安定し、拡張の目処も立つ。

だがその裏で――

ヤマタニの体は、確実に削られていた。

食事の時間も惜しみ、

睡眠を削り、

指示を出し続ける。

「まだだ……まだ足りない……。」

守るために。

広げるために。

止まるわけにはいかない。

そして、ある日――

視界が揺れた。

足元が崩れる。

「……あ?」

次の瞬間、ヤマタニの意識は暗転した。