作品タイトル不明
敵要塞攻略
第46話 敵要塞攻略
敵蛮族軍の猛攻撃に合い、崩壊寸前だった辺境伯軍陣地。
幾重にも築かれた防壁の向こうから、投石器の巨大な岩が雨のように降り注ぎ、バリスタの巨矢が兵士達を貫いていた。
すでに何度も突撃を試みたが、そのたびに辺境伯軍は撃退され、多くの兵士達が三重壁の前で命を落としていた。
敵要塞の周囲には、砕けた梯子や破壊された攻城兵器、そして無数の死体が転がっている。
兵士達の間では、既にこう囁かれていた。
――あの要塞は落ちない。
――難攻不落だ、と。
そんな絶望的な戦場へ、ヤマタニ軍の装甲車が突如現れたのだった。
「救援感謝する。ヤマタニ卿。」
ガリック司令官はヤマタニに感謝し、互いに握手した。
「突然だったのですが、状況が危なそうでしたので、加勢しました。」
「ヤマタニ子爵です。宜しく。」
「突然ですが、辺境伯様から依頼されたのでやって来たのですが、戦況がよろしくないと?」
ヤマタニは挨拶も早々に戦況を尋ねた。
「お恥ずかしい話ですが、おっしゃる通りです。」
「敵に帝国の重装騎兵がいましてな。矢がほとんど効きません。」
ガリックは頭をかきながら話した。
「帝国兵と、あの要塞に苦戦しているのでしょうか?」
ヤマタニは三重壁の向こうを見ながら聞いた。
「はい。その通りです。」
「あの三重の水堀と壁に近づけば、投石器やバリスタの集中攻撃です。」
「しかも城壁は帝国工兵が築いたらしく、通常の攻城兵器では歯が立ちません。」
ガリックは簡単な要塞周辺地図を広げ、ヤマタニへ説明した。
「撃退しても撃退しても、蛮族はやってきますからな。やはり拠点を潰すしかありません。」
「そうですが、何か策はありますか?」
ガリックは真剣な表情で聞いた。
「ありますが、すぐ終わってしまい、司令官方の功績を奪ってしまいますよ?」
ヤマタニは少し考えるような素振りを見せて答えた。
「待って下さい。ヤマタニ殿。」
ガリックの隣にいた副官が、二人の会話に割って入る。
「いくら軍神と言われるヤマタニ殿でも、あの難攻不落の要塞をどうにか出来ると言うのですか?」
副官は熱くなって言い寄った。
「あれを落とす為に、何百もの兵士が死んだのですぞ!」
「出来ますよ。」
ヤマタニは即答した。
あまりにも迷いのない返答に、副官は一瞬言葉を失った。
「流石ヤマタニ殿。気にせずやって下さい。」
「実は孫にも、しばらく会っていませんからな。出来ればすぐにでも、この戦いを終わらせたい。」
ガリックは苦笑しながら言った。
「しかし司令官。ヤマタニ殿の大言壮語にもほどがありますぞ?」
副官はなおも食い下がる。
「いいではないか。」
「ヤマタニ殿が出来るというなら、やってもらおうではないか。」
「しかし……。」
副官は渋々引き下がった。
だがその目には、まだ疑いが残っている。
「まー、あの城壁と投石器やバリスタを破壊しますので、後は司令官殿の軍が攻め込んで制圧して下さい。」
ヤマタニはそう言うと、要塞地図をスマホで撮影した。
「カシャ」
「それは何ですか?」
「気にしないで下さい。」
そう言うとヤマタニは装甲車へ戻って行った。
「いいんですか? 本当にヤマタニ殿に委ねて?」
副官は不安そうに聞いた。
「いいさ。」
「ヤマタニ殿の実力、とくと見させてもらおうではないか。」
ガリックは腕を組みながら、去っていく装甲車を見つめた。
◆
「まずはロケット弾で、敵城壁上の投石器とバリスタを破壊する。」
「城壁に当てれば落下して壊れるか、使用不能になるだろう。」
「その次は城門を破壊し、二枚目、三枚目の城壁を突破する。」
「城門や城壁を破壊するだけだ。無駄撃ちはするな。」
ヤマタニは各車両を見回した。
「ロケット弾の装填が重要だ。装填員は3号車から速やかに弾帯を降ろして装填してくれ。」
「1号車とカミル率いる兵は、2号車と3号車の援護だ。敵を近づけさせるなよ。」
「はい!」
「トミー、落ち着いて撃てよ。」
「了解。」
「タクトは20mm回転機銃だ。頼んだぞ。」
「はい!」
「ではロケット弾のカウンターマスの巻き添えに注意しろ!」
「はっ!」
全員が緊張した表情で頷いた。
そして装甲車が前進を開始する。
ゴゴゴゴゴ……。
重い駆動音を響かせながら、装甲車が要塞へ向かって進んだ。
すると敵要塞上の投石器やバリスタが、一斉に装甲車へ狙いを定めた。
「トミー! タクト! もっと離れろ! 攻撃されるぞ!」
慌てて移動する2号車と3号車。
次の瞬間。
巨大な岩とバリスタの巨矢が、先程まで車両がいた場所へ叩き込まれた。
「ドカッドカッ!!」
地面が揺れ、土埃が激しく舞い上がる。
辺境伯軍兵士達が息を呑んだ。
「なんという威力だ……。」
「近づけば、あれを浴びるのか……。」
「ロケット弾の命中精度は落ちるが、投石器の射程圏外まで離れるんだ。」
「了解!」
タクトとトミーは攻撃目標を左側城壁に定め、さらに距離を取った。
敵の投石器やバリスタが再び発射される。
しかし今度は届かない。
岩や矢は装甲車の遥か手前へ落下し、虚しく土煙を上げた。
「トミー、初弾発射!」
「3、2、1――!」
「ロケット弾発射!」
「シュッ!!」
「シュルルルル!!」
ロケット弾は白煙を引きながら空を裂き、城壁を越えた。
「ドッカーーーン!!」
惜しくも弾は壁を越え、二枚目の壁へ命中して炸裂した。
ヤマタニは自作双眼鏡で弾着地点を確認する。
「下方一度修正。次弾発射!」
「シュッ!!」
「シュルルルル!!」
「ドッカーーーン!!」
今度は城壁へ直撃。
しかしバリスタは辛うじて残っていた。
だが城壁の一部が砕け、巨大なバリスタが危うく傾く。
敵兵達が慌てて支え始めた。
「よし、次の目標だ!」
ヤマタニは即座に指示した。
こうして次々と敵要塞の投石器やバリスタが破壊、あるいは使用不能になっていく。
最初は余裕を見せていた敵兵達も、次第に顔色を変えていった。
「な、なんだあの攻撃は!?」
「壁の外から攻撃してきているぞ!」
「投石器の射程外だと!?」
やがて敵も堪りかね、城門を開いて騎兵を出撃させた。
約二百騎。
重装騎兵が土煙を上げながら装甲車へ突撃する。
「撃て!!」
カミル隊が叫んだ。
「バッバッバッバッ!!」
「シュルルルルル!!」
二十名の槍先端から放たれたロケットランチャーが、一斉に敵騎兵へ降り注ぐ。
「ドバッドバッドバッドッカーーーン!!」
騎兵達は爆炎に呑み込まれ、馬ごと吹き飛んだ。
辺境伯軍から大歓声が上がる。
「オオオオオーーーーーッ!!」
「す、凄い……!」
「たったあれだけの兵で、重装騎兵を……!」
断続的に敵騎兵が突撃して来る。
しかし装甲車の機関砲や機銃が火を噴くたび、敵は次々となぎ倒されていった。
「バババババババッ!!」
「ドカッドカッドカッ!!」
銃弾が鎧を貫き、馬ごと騎兵を吹き飛ばす。
突撃して来た敵騎兵達は、装甲車へ近づく事すら出来ない。
「凄いぞ……ヤマタニ軍!」
「たったあれだけの手勢で、敵を翻弄している!」
「わああっ! 軍神ヤマタニだ!」
辺境伯軍の兵士達から歓声が次々に上がった。
それまで沈んでいた士気が、一気に燃え上がっていく。
2号車は敵城壁上の投石器とバリスタを、次々と破壊もしくは使用不能にしていった。
城壁上では敵兵達が逃げ惑っている。
「投石器を守れ!」
「駄目だ! 壁ごと崩れる!」
「ぎゃあああっ!」
崩れた石壁と共に、敵兵が悲鳴を上げながら落下していった。
ヤマタニは1号車の大砲を連続発射する。
「バォーーーン!!」
「バヒューーーーン!!」
砲弾が轟音と共に飛翔し、城門へ直撃した。
「バォーーーン!!」
「バヒューーーーン!!」
分厚い城門が激しく軋む。
「バォーーーン!!」
「バヒューーーーン!!」
ついに城門が耐え切れず、轟音を立てて崩壊した。
「城門が破られたぞ!!」
敵要塞内部に動揺が広がる。
ヤマタニ1号車が砲撃している間に、2号車では急速にロケット弾が再装填されていた。
装填員達は汗だくになりながら弾帯を運ぶ。
「急げ!」
「次弾装填完了!」
「トミー、全弾一斉発射だ!」
「了解!」
「3、2、1――!」
「シュシュシュシュシュ!!」
「シュルルルルルルルル!!」
無数のロケット弾が白煙を引きながら一斉に飛翔した。
直後――。
「ドッカーンドッカーンドッカーーーン!!」
一枚目の城壁付近が巨大な爆炎に包まれた。
石壁が砕け散り、城壁上の敵兵達が吹き飛ばされる。
轟音と衝撃で大地が震えた。
風が土埃を払う。
そこにあったのは――。
無残に崩壊した敵要塞の外壁だった。
「ワアアアアアーーーーッ!!」
辺境伯軍から再び歓声が轟いた。
「あれだけの城壁が……!」
「一瞬で瓦礫になったぞ!」
「なんて火力だ……!」
ガリック司令官ですら、呆然と城壁跡を見つめていた。
副官は完全に言葉を失っている。
「次は二枚目の外壁だ!」
ヤマタニの指示で再装填が行われる。
敵要塞では鐘が鳴り響き、兵士達が慌てて動き回っていた。
だがもう遅い。
「発射!!」
「シュルルルルルル!!」
「ドッカーンドッカーンドッカーーーン!!」
再び城壁が爆炎に呑み込まれた。
分厚かった二枚目の城壁も、脆く崩れ落ちる。
ついに敵兵達の顔から余裕が消え去った。
「ば、化け物だ……!」
「こんなの聞いてないぞ!」
「逃げろ!」
しかし敵もまだ諦めてはいなかった。
最後の三枚目の城門が開かれる。
その奥から、数千の蛮族兵が怒号を上げながら一斉突撃して来た。
敵残存兵約三千。
凄まじい土煙が戦場を覆う。
「2号車と3号車を守れ!」
「全火力、敵前衛部隊へ集中攻撃!」
ヤマタニの号令で全車両が火を噴いた。
「ドカッドカッドカッ!!」
「バォーーーン!!」
「バババババババッ!!」
「バッバッバッバッ!!」
銃弾、砲弾、ロケット弾が容赦なく敵集団へ叩き込まれる。
敵前衛は次々と吹き飛び、突撃隊形が崩壊していった。
しかし後続部隊が怒号を上げながらさらに押し寄せて来る。
「押し込めぇぇぇ!!」
「ヤマタニ軍を止めろ!!」
だが前進するたびに兵士達は撃ち倒され、死体が積み上がっていく。
辺境伯軍兵士達は、その光景を半ば呆然と見つめていた。
「敵が……近づけない……。」
「まるで地獄だ……。」
第二波の突撃も崩壊。
勢いを失った敵軍は徐々に後退を始める。
そこへ。
「ロケット弾、再装填完了!」
「三枚目の城壁を破壊する!」
「発射!!」
「シュルルルルルルルル!!」
「ドッカーンドッカーンドッカーーーン!!」
最後の三枚目の城壁が爆炎と共に吹き飛んだ。
巨大な石壁が崩落し、敵要塞内部が剥き出しになる。
その瞬間。
敵軍は完全に瓦解した。
「に、逃げろぉぉぉ!!」
「もう駄目だ!!」
「城壁が全部やられた!」
敵兵達は我先に逃げ始める。
ヤマタニ軍は容赦なく射撃を続行した。
「ババババババ!!」
「バシュンバシュンバシュン!!」
「バォーーーーーン!!」
「ドカッドカッドカッドカッ!!」
逃げ惑う敵兵達が次々と倒れていく。
そしてついに――。
「全軍総反撃だぁぁぁ!!」
辺境伯軍から突撃ラッパが鳴り響いた。
それまで押し込まれていた騎兵や歩兵達が、一斉に要塞へ突撃する。
兵士達の鬱憤は限界だった。
「うおおおおおっ!!」
「敵を逃がすなぁぁ!!」
今まで散々苦しめられていた怒りが爆発したかのように、辺境伯軍は蛮族兵達を次々と斬り伏せていく。
もはや戦争ではない。
潰走(かいそう) だった。
優勢だった蛮族軍本隊も、この光景を見て慌てて撤退を開始する。
辺境伯軍はそのまま敵要塞へ雪崩れ込んだ。
夕刻。
辺境伯軍の旗が、破壊された要塞の上に翻る。
残されたのは、崩れた三重壁。
砕けた投石器。
そして無数の死体の山だけだった…。