作品タイトル不明
辺境伯からの使者
第42話 辺境伯からの使者
蛮族南西軍の本隊を叩いてから何日か経ったある日、辺境伯から使者がやって来た。
「ヤマタニ子爵様、辺境伯様からの言葉を持って参りました。」
あー。また厄介事だと、ため息をつくヤマタニ。
使者の装束は泥と血で汚れていた。
長距離をほぼ休まず駆けてきたのだろう。肩で息をしながらも、その目だけは焦りと使命感で強く光っていた。
戦況は、想像以上に切迫している。
「蛮族北西討伐に他国の軍勢が参戦、苦戦中。ヤマタニ子爵殿に応援を要請する。」
来たよ。やっぱり来たよ。これ、来るとは思ったけど、早すぎだ。
使者は一歩踏み込み、声を低くした。
「すでに三度、防衛線が押し込まれております。このままでは街道が断たれ、周辺諸都市も孤立します。」
空気がわずかに重くなる。
だがヤマタニの表情は変わらない。
「現在はまだ動けない。装甲車を改良中につき、しばらくは出れない。」
ヤマタニは即答した。
実際に装甲車は追加の装備がされ、さらに巨大化していた。
「いつ頃なら来れますか?」
「そうだなー、少なくとも一ヶ月くらいかな。」
ヤマタニは天井を見ながら答えた。
「一ヶ月では遅いです。一週間くらいにはならないですか?」
使者の声に、わずかな焦りが混じる。
後がないのだ。
「いや、こっちに来て見てくれ。」
ヤマタニは仕事部屋から、作業部屋に使者を連れていき現状を見せた。
バラバラにされた装甲車フレーム、車体、座席やステアリング、機関砲、ロケットランチャー発射装置。
みんなバラバラにされていた。
床には巨大な部品が無造作に並び、金属の匂いと油の匂いが充満している。
未完成の巨獣が、内臓をさらけ出しているかのような光景だった。
「これは…。」
使者は言葉を失った。
「肝心な乗り物が、この有様だからな。すぐには行けない。」
「では、なるべく早く来ていただけますか?」
「組み立て完了したら行けるが、あてにしないでくれ。」
ヤマタニはこたえた。
「救援に来ていただけて、勝利したあかつきには、かなりの額の報奨金を出します。」
「そして辺境伯の姫も差し出すと申しておりました。」
「報奨金は嬉しいが、結婚しているから、姫は不要だ。」
即答だった。
使者は一瞬だけ言葉を失う。
だがそれほどまでに、辺境伯は追い詰められているという証でもあった。
「なるだけ早くに行けるよう、努力しましょう。」
ヤマタニは何処か曖昧な返事をして、使者を帰らせた。
娘まで差し出すなんて、親の…。いやかなりそれくらい苦しい立場なのかもしれない。
ヤマタニはしばらく無言で作業場を見渡した。
巨大な部品の山。その一つ一つが、これから戦場を変える力になる。
急ぐ気は全くなかったが、関係者や作業員の増員をして作業を急がした。
ヤマタニは騎士団全員集めた。
そして騎士団員に銃器を配った。
見慣れぬ武器に、騎士たちの視線が集まる。
それは剣でも槍でもない、“未知の力”だった。
「これからは君たちはただの騎士ではない。」
「これからは銃騎士となった。だから銃騎士団だ。」
「銃器は危険だが、敵のプレートアーマーも貫通する威力がある。持ち帰って説明書を読み、理解したら射撃訓練してくれ。」
一瞬の静寂。
その直後――
「おおーーー!」
騎士団の士気が異常に上がった。
誰もが理解した。
この武器があれば、戦いの常識が変わると。
一般兵には槍を改造して、先端にロケット弾が取り付けられる槍を配る。
パンツァーファウストみたいな感じの武器だった。
これで少ない兵力でも、敵装甲兵でも一撃だ。
密集した敵陣に撃ち込めば、一瞬で隊列を吹き飛ばす威力を持つ。
装甲車は1号車、2号車、3号車と合体分離式にした。
連結した電車やトラックみたいな物だ。
1号車は機関砲と30mm2連式大砲を屋根に装備した。
その砲は、簡易な城壁ならば正面から撃ち抜く威力を持つ。
2号車は機関砲と16連ロケットランチャー装備。
面制圧においては、まさに圧倒的だった。
一斉発射すれば、広範囲が火と爆風に包まれる。
3号車は機関砲と屋根に旋回式20mm機銃をつけた。
3号には兵員や荷物が乗せられる。
また合体連結したときは自由に行き来し、離れた運転席にもトランシーバーで会話できた。
また、スピーカーやサーチライト、ウィンチなども装備。座席を畳めばベッドになる。
折りたたみ電動バイクも搭載。
ヤマタニの夢が詰まった、装甲車がこれである。
それぞれモーターと大容量バッテリーが搭載されている。
バッテリーは大型化したが、武装の重さで航続距離はあまり伸びなかったが、80kmくらいは走れるように設計した。
3号に予備バッテリーや弾薬を積み込みすれば、蒸気トラックは不要ですぐ発進して行ける。
今ままでの装甲車の不便さを払拭した設計だ。
これが完成すれば、数万の敵も城も叩けそうだ。
まさに“移動する砦”。戦場そのものを塗り替える存在になる。
ヤマタニは蛮族戦で不便さを味わっていたからか、また強大な力を手に入れる事になる。
新型ヤマタニ装甲車の組み立て作業は、連日の昼夜
続けて作業を行い、10日目に完成した。
最後の固定具が締められる。
静寂。
次の瞬間――低く重い駆動音が響いた。
装甲車が、ゆっくりと前進する。
作業員たちが息を呑む。
巨大な車体が軋みもなく動き、金属の塊が“兵器”として目覚める瞬間だった。
サーチライトが点灯し、まばゆい光が闇を切り裂く。
機関砲が旋回し、砲口が静かに正面を捉える。
誰もが理解した。
これが戦場に出れば、戦いは変わる。
ヤマタニは腕を組み、その姿を見つめた。
「これでいい。」
短い一言だったが、その中には確信があった。
新たな力が、完成した。