作品タイトル不明
冒険者アルと、校舎裏の冒険者達③
第41話 冒険者アルと、校舎裏の冒険者達③
「なぁアル。町長ハイタと倉庫の番人は何か変な違和感を感じないか?」
ベンが違和感を感じ取った事をアルに話した。
焚き火の火が小さく爆ぜる。ブエナの街外れ、穀物倉庫の裏手は昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
積み上げられた木箱と袋の影が長く伸び、かすかに漂う穀物の匂いに混じって、どこか湿った腐臭が鼻をつく。
ネズミ魔物が住み着くには、あまりにも都合のいい環境だった。
「違和感ってなんだ?」
アルはベンに聞き返す。
「なんつーか、ハッキリとこうだって言えねーんだがよ。違和感は感覚だから説明できねぇ。」
ベンは頭を掻きながら言う。だが、その視線は焚き火ではなく暗がりを見ていた。
ただの思いつきではない。何かを見て、何かを感じ取っている目だった。
ネズミ魔物がいるのに何故放置したのか。その違和感を上手く説明出来なかった。
倉庫の番人は困っているはずだ。だが、あの男の態度には“焦り”がなかった。
罠を乱暴に扱い、壊れても気にしない。むしろ増え続けるネズミを、どこか受け入れているようにすら見えた。
「そう言えば、ヒラリー奥様が言ってたな。町長ハイタの帳簿はやたら小麦の廃棄が多いって…。」
「だから何かつかんだら、教えて欲しいと言ってたっけ。」
アルが思い出してベンに話した。
「あの奥様、帳簿を見てた時、妙に引っかかってた顔してたな……」
アルは小さく呟く。普段は冷静なヒラリーが見せた、わずかな違和感。それが今、繋がり始めていた。
「お前さぁ。そういうのは先に言うもんだぞ?」
「悪い。すっかり忘れてたよ。」
アルは苦笑いする。
「じゃーさ。ハイタや番人どちらもグルだな?」
「どーしてだ?」
アルは質問した。
「だってさ、帳簿の小麦の廃棄が多いんだろ。あの二人は廃棄だと言ってその廃棄分を懐に入れてるに違いない。」
ベンは言い切る。だがそれは確信というより、違和感に形を与えようとする仮説だった。
「証拠は?」
「だから、皆で証拠を見つけ出して、奥様に報告するのが任務なんじゃないか?」
ベンは力説したが、アルは全く考えもなしにヒラリーの言葉を鵜呑みにしていた。
「そーか。じゃー皆集めて相談しようか。」
夜間のネズミ討伐中だったが、アルは皆を集めた。
焚き火の前に休憩という感じで皆を集めた。
用意してあった黒パンと干し肉、そしてお茶が配られた。
冷えた体に染みる温もり。だが、誰もがどこか落ち着かない様子だった。
「町長ハイタと穀物倉庫の番人は小麦横領の疑いがある。」
「ヒラリー奥様から、帳簿の廃棄量が多いので、何かわかったら、知らせて欲しいと俺は頼まれた。」
「廃棄量ってどれくらいだ?」
「ヒラリー奥様がいうには、ヤマタニのおっちゃんも、ケイト奥様もすぐ気が付くほど、大量だったらしい。」
「へー。」
ハックルはあまり感情が出ない。だがわずかに視線を落とした。
「あたし見たよ。ハイタ達があたし達をじっと見て笑っていたんだ。」
「あたしもみた。後の人もニヤニヤして気持ち悪かった。」
その言葉に、焚き火の空気が一瞬だけ重くなる。
思い返せば確かに、不自然な視線だった。
「そうだとすると、あれじゃないか。」
コネリーが言った。
「俺達が沢山ネズミ魔物討伐すればするほど、帳簿の廃棄の辻褄があって、奴らが助かる寸法だな。」
「おー、その筋書きなかなか当たっているかも。」
アルは感心した。
「俺が犯人なら、帳簿を2つ用意するな。」
コネリーはいう。
「本当の帳簿と嘘の帳簿だ。だから狂った帳簿を領主には見せず、嘘のよく出来た帳簿を見せるな。」
「なるほど、確かにそうだな。」
「じゃー何で廃棄がよくわかる帳簿を出した?」
アルが質問した。
「わかんねー。」
コネリーは即答したが、その後ほんの一瞬だけ黙り込んだ。
まるで、どこかに引っかかりが残っているようだった。
「……………………。」
結局その場ではハイタ横領の疑いはあるものの、ハッキリした理由も推理もつかなかった。
ただベンは引っかかっていた。あの穀物倉庫の番人、ネズミ退治して欲しいはずなのに、何故罠を簡単に捨てた?
普通なら何とか元の状態にしようとは思わないか?
困っている側の行動ではない。むしろ——増えて困る様子がない。
しかし、なにも証拠もない。邪魔なのもまた事実だからだ。
「皆、夜食が済んだら、ネズミ魔物討伐頑張ろうか。」
アルの合図でまた巡回に行くメンバー。
何だかんだと60匹程の討伐が出来た。
ネズミ魔物を捕らえ、斬り、罠にかける。その単調な作業の中でも、誰もが頭の片隅で“違和感”を引きずっていた。
◆
「まーしかし、毎日毎日、ネズミ魔物わんさかいるもんだな。」
「稼げるからいいんだけどよ。これ何だか飽きないか?」
「飽きてるけど、仕事だからな。」
アルもコネリーも飽きてるが、汚水処理場より格段に上だった。
「ワーム退治よりはいいな。」
「それはそうだ。」
二人は笑いあった。
「アルに話がある。」
ベンがやってきてアルに言った。
その表情は軽くなかった。
「何だ?」
「俺はやっぱり町長が気になるから、奴を見張ってみたいな。」
「何を言うかと思ったら、かまわないよ。」
「おぉ。本当にいいのか?」
「あぁ。俺はかまわないよ。しかし皆はどうだろう?」
結局、休憩の時に皆に相談し、了解をもらう。
ベンはコネリーと組んで交代で町長を見張ることになった。
他の者はネズミ魔物討伐を続ける。
数日間は全く町長の動きが無かった。
冷たい夜風の中、物陰でじっと息を潜める時間だけが過ぎていく。
無駄かもしれない。そう思いながらも、ベンは目を離さなかった。
しかしある日、町長が街の外に出かける。
街の外壁に近い畑の隅にある小屋で、蛮族らしき者と接触しているのを、ベンが目撃した。
さらに倉庫の番人も見張ってみた。
深夜なのに穀物倉庫を開けて、荷車に小麦袋を積み込む番人達を目撃した。
「これは明らかに怪しい。」
ベンとコネリーはこの事実を知らせる事にした。
翌日この事実を騎士団のミランドに報告した。
ミランドは町長を詰所に連れていき白状させる。
「蛮族と取引したな?」
ミランドはハイタの家にあった帳簿や書類を突きつけハイタに詰め寄る。
「わしは悪くはない。」
「むしろ、この街を守るためにやった。」
ハイタは悪くない、自分は正義だと主張する。
「蛮族の連中は街を襲わないから、食料をよこせと言ってきたんだよ。」
「はじめは断っていたんだが、荷馬車や人を襲うようになって、段々と被害が大きくなってしまった。」
「わしは仕方なく、廃棄の小麦などの穀物を渡して許してもらった。」
「だが奴らの要求はエスカレートしてきて、要求する食料も大量になってしまったんだ。」
「なるほど、帳簿の廃棄は頭の黒いネズミだった理由か。」
ミランドは帳簿の理由をヤマタニに報告した。
当然、ハイタは処罰はされたが情状酌量の余地がある。という理由で処罰は軽るく済んだ。
ハイタにとって牢屋は安全で兵士に守られている。
食料を絶たれた蛮族は怒り、やがて街に攻撃をするようになっていった。
これが2度にわたり、大規模な蛮族襲来の理由となってしまったのだった……。
冒険者アルはギルドへ行き、討伐の印で報酬をもらった。
報酬を受け取ったアルは帰ろうでした。しかしギルド員に呼び止められた。
「ちょっとアルくん、話があるの。」
「何でしょう?」
「アルとコネリーにまた汚水処理場から、ワーム討伐の強制依頼が来てます。」
「至急向かって下さいね。」
「えっ!」
アルとコネリーはその場で固まった。
「また行くのー?」
アルとコネリーは苦悩し、目が潤む。
しかしそこにあの汚水処理場の管理人がやって来ていた。
管理人の鋭い目が輝いた。獲物を見つけた野獣の目だ。
「ギラッ」
「おお!こんな所にいたんだ。ワームがまだまだいっぱいいるんだから、早く来てもらわないと困るんだよ!」
「嫌だー。もう臭いのは嫌なんだー。」
「誰か助けてー。」
アルとコネリーは管理人に強引に引っ張られて馬車に乗せられ連れ去られていった。
「・・・。」
見守る仲間と受け付け嬢は、いきなりの出来事に、ただ成り行きを見守る事しか出来なかった…。