作品タイトル不明
その砦は落ちた。
第33話 その砦は落ちた。
アルバートは、先日の敗北に腹を立てていた。
兵が逃げる蛮族よりも速く落ち着いていれば、きっと勝利していたはずだ――そう思っている。
部下たちは不甲斐ない。突撃速度は遅く、動きも鈍い。
レオナルドも、もっと早く来てくれれば、あのような事態にはならなかったはずだ。
逆に自分が餌となり、レオナルドに功績を与えてしまった。
「次は絶対に勝ってみせる!」
アルバートには、根拠のない自信が満ちていた。
◆
数日後、再び蛮族が出現した。
「絶好の機会到来だ。出撃する。」
アルバートは、再び出撃する。
この日はまだ日が高く、砦には立ち寄らず、直接敵陣へ向かった。
すでに蛮族は布陣して待ち構えている。
しかし、炊事支度のためか、あちこちで焚き火の煙が上がっていた。
「見ろ!蛮族は飯の支度で油断している。今が絶好の機会だ。」
一方、アルバート軍は進軍で疲れながらも陣形を整える。
両脇に騎兵、中央に歩兵の横列。
ドラが鳴り響いた。
敵歩兵が進軍してくる。
アルバートは歩兵を前進させた。
両軍は中間地点で激突する。
アルバート軍は勢いがあり、初戦では敵前線を押し込んだ。
しかし、先日の損耗と長距離行軍の疲労により、次第に押し戻されていく。
「どうした!蛮族など討ち取って手柄にせよ!」
アルバートは鼓舞するが、劣勢は覆らない。
やむなく両翼の騎兵を投入。
敵も騎馬隊を差し向け、戦いは消耗戦へと移行した。
◆
その頃、砦ではレオナルドが策を説明していた。
「敵は南西の山脈登山口から現れる。ならば、この登山口を封じればよい。」
「では敵本隊は?」と副官リチャード。
「本隊を叩く部隊と、登山口を叩く部隊に分ける。登山口はリチャード、お前に任せたい。」
「はっ。」
そのとき、伝令が作戦室に飛び込んできた。
「大変です!アルバート様が単独で戦端を開き、苦戦中です!」
「なに!?」
◆
戦場では、アルバート軍は元の位置まで押し戻され、崩壊寸前だった。
「押せ!押し返せ!」
その声は戦場の喧騒にかき消される。
「副官、何か手はないか?」
「ございません。予備兵力がありません。」
もはやこれまでか――
そう思った矢先。
レオナルド軍が敵左側面に現れた。
蛮族は予備兵を向けるが、数も足りず対応も遅れる。
側面からの打撃により、敵陣は崩れた。
乱戦の末、蛮族は撤退する。
辛くもアルバートは生き延び、砦へ戻った。
しかし、その戦いでレオナルドは重傷を負い、本城へ後送される。
後を引き継いだのは、副官リチャードだった。
リチャードは有能だったが、怒りを抑えきれない。
「アルバート様。なぜ単独で戦端を開いたのですか?」
「絶好の好機だったからだ。」
根拠はない。
「それにしても、兵がほとんど残っておりません。」
「ならばレオナルドの軍を借りればよい。」
「何を勝手なことを!」
「この軍はレオナルド様の兵ですぞ!」
議論は平行線のまま終わった。
その夜、蛮族が襲来する。
指揮系統は乱れ、野戦は断念。籠城へと移行した。
「どちらの命令に従えばいい!」
「アルバート様か!?リチャード様か!?」
「砦はレオナルド様のものだ、リチャード様だ!」
現場は混乱していた。
アルバートは攻撃を主張し、リチャードは防戦を主張する。
そして――
アルバートは少数の兵を率い、勝手に出撃した。
当然、敵に包囲される。
やむなくリチャードは救出へ向かう。
辛うじて救出には成功した。
だが。
砦へ戻ったとき、すでに遅かった。
煙が立ち込め、蛮族が内部へ侵入している。
「……何かがおかしい。」
蛮族の中に、動きの違う者がいる。
統制された動き。無駄のない足取り。
「鎧が……違う?」
粗末な装備の中に、異質な兵が混じっていた。
「どこの軍だ……?」
分からない。
だが明らかに、蛮族ではない。
誰かが裏で手を引いている――。
司令官不在の隙を突かれ、砦は一夜にして陥落した。
リチャードとアルバートは、本城へ撤退するしかなかった。
「……あの二代目がいなければ。」
レオナルドは負傷せず、砦も守れた。
「……しかも。」
唇を噛む。血の味が広がる。
「レオナルド様の策が実行されていれば、蛮族は封じられたはずだ……。」
怒りは、ただ一人へ向けられる。
アルバート。
砦には、勝利の太鼓が鳴り響く。
蛮族の旗が、風にはためいていた。