作品タイトル不明
太陽の家の孤児達
第30話 太陽の家の孤児達
ヤマタニは、行く当てのない「太陽の家」の孤児達を引き取った。
しかし一階にいた子供達を見た瞬間、彼は違和感を覚える。
マグレガーに従順なその姿は、あまりにも整いすぎていた。
まるで芝居だ。本性を隠し、誰かの台本に従って動いているように見える。
作り笑いは張り付いたままで、感情の揺らぎがない。
ヤマタニの孤児院にいる子供達と、どうしても比較してしまう。
あちらでは、ふざけて走り回り、意味もなく大声で笑い、時に奇声すら上げる。
だがここには、それがない。
「いい子すぎる。」
その違和感が、逆に不気味だった。
さらに驚かされたのは、生活の細部だった。
荷物、私物、下着やシャツまでもが、異常なほどきっちり畳まれ、整然と収納されている。
手間がかからないどころか、完璧すぎる。
それが“管理された結果”だと気づいた瞬間、背筋が冷えた。
一方で地下の子供達は正反対だった。
酷く怯え、ほとんど言葉を発しない。
常に大人の顔色をうかがい、息を潜めるように生きている。
――人ではなく、家畜のように扱われてきたのではないか。
そんな考えが浮かんだ瞬間、ヤマタニの中で何かが崩れた。
「……なんてことを。」
怒りと同時に、深い哀れみが込み上げる。
そして、その原因となった男――マグレガーへの怒りが一気に燃え上がった。
「マグレガー、絶対に許さない!」
思わず机を叩く。
乾いた音が部屋に響いた瞬間、子供達の体が一斉に跳ねた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……。」
「怒らないでください……。」
「もうしません……許してください……。」
怯え切った声が重なる。
ヤマタニはすぐに首を振った。
「違う。君たちを怒っているわけじゃない。マグレガーに対してだ。」
そう説明しても、子供達の目は変わらない。
ただ恐怖の中で、相手の機嫌を探っているだけだった。
「……どうしたものか。」
ヤマタニはドクターに相談した。
だが返ってきた答えは簡潔だった。
「それは専門外だ。精神科に回してくれ。」
確かに、心の問題は別分野だ。
翌日、精神科医の診察を受ける手配が進められた。
後日、専門医は静かに告げた。
「大人との信頼関係が、ほとんど形成されていませんね。」
虐待を受けた子供に多い症状だという。
治療には長い時間が必要になる、と。
「あの野郎……。」
ヤマタニの怒りが再び込み上げる。
その気配に反応して、また子供達が怯えた。
――悪循環だ。
ヤマタニは頭を抱えた。
その時、ある人物を思い出す。
「クレナだ。」
彼女なら、子供達の扱いができるかもしれない。
呼び出されたクレナは、状況を見て目を瞬かせた。
「……何ですかこの子達。どうしてこんなに怯えているんです?」
「マグレガーに虐待されていた。」
ヤマタニは短く答える。
「それで、大人の顔色ばかりうかがっている状態だ。」
「なるほど……。」
クレナは静かに子供達へ視線を向けた。
「大丈夫ですよ。ここは安全ですからね。」
だが、その言葉にも子供達はすぐには反応できない。
ヤマタニは深く頭を下げた。
「頼む。面倒を見てやってくれ。」
その後、精神科医の助言で子供達に絵を描かせることになった。
木の絵、数枚の自由画、そして自分の名前。
一見すると単純な課題だが、そこに心の状態が表れるという。
後日、それらは精神科医のもとへ送られた。
診断は変わらなかった。
――深いマインドコントロールと、長期的な心理的支配。
回復には、相当な時間が必要だという。
ヤマタニはその言葉を聞き終えた瞬間、言葉を失った。
気づけば、涙が頬を伝っていた。
止めようとしても止まらない。
次から次へと、涙だけが落ちていく。
ただ静かに、どうしようもなく。