作品タイトル不明
夜な夜な橋で待ち受ける強者
第14話 夜な夜な橋で待ち受ける強者
最近、夜な夜な橋に立つ男がいる。
この男は、強そうな者が通りかかると決闘を申し込んでくるのだ。
しかもただの腕試しではない。徹底して相手を打ち負かし、橋の通行を実質的に封鎖してしまう。
そのため商人や旅人は足止めを食らい、不満が溜まり始めていた。
当然、その問題は騎士団の議題に上がる。
「特に悪さをしているわけではないが……橋を塞がれるのは困るな。」
「放置すれば、いずれ治安の悪化にも繋がりかねません。」
「では、騎士団で排除いたしましょう。」
こうして討伐が決定した。
最初に向かったのは、バーナードとロイド。
腕に覚えのある二人だったが――結果は惨敗。
ほとんど抵抗らしい抵抗もできず、あっさりと打ち倒されて帰還した。
「ば、化け物だ……あいつは……。」
続いて、バニムとグランドルが名乗りを上げる。
「騎士団の面子にかけて、あんな輩は放っておけん!」
しかし、その意気込みも虚しく、彼らもまた返り討ちにあった。
さらにセシル、ピケ、レイモンドが連携して挑むが――
「くっ……連携が通じない!?」
三人がかりでもまるで歯が立たず、敗北。
ここに至り、事態は看過できないレベルとなる。
「……仕方あるまい。」
ついに、団長ゴドールと副団長カミル、ミランドが出陣することとなった。
夜の橋。
松明の灯りが揺れる中、例の男はいつものように中央に立っていた。
ゴドールたちの姿を確認すると、男は口元を歪める。
「ほう……ついに団長自ら来たか。」
「いかにも。だが貴様、何者だ?」
ゴドールは油断なく間合いを測りながら問う。
「誰でもいいさ。あの方に覚えてもらえればな。」
「あの方、だと……?」
意味ありげな言葉を残し、男は静かに剣を抜いた。
その動きに一切の無駄はない。
「……ならば剣で語るしかあるまい。」
ゴドールたちも抜刀し、一斉に踏み込む。
鋭い斬撃が夜気を裂いた。
――だが。
すべて、受け流される。
紙一重で避けられ、刃は空を切る。
「速い……!」
ミランドが背後を取ろうとするが、橋の幅がそれを許さない。
男は巧みに位置を調整し、常に一対一の形を作り出していた。
「地形を利用しているのか……!」
カミルが歯噛みする。
やがて斬り合いは長引き、次第にゴドールたちの息が上がっていく。
対する男は、まだ余裕を残していた。
「どうした、その程度か?」
挑発的な声が響く。
いつの間にか周囲には見物人が集まり、戦いを囲んでいた。
娯楽に飢えた者たちが、固唾を呑んで勝敗を見守っている。
その熱気が、場の空気をさらに張り詰めさせていた。
――その時。
一台の馬車が橋のたもとに到着した。
ヤマタニである。
「なんの騒ぎだ?」
ゆっくりと馬車から降り、状況を見渡す。
騎士団と謎の男の対峙。
ただならぬ空気に、ヤマタニは眉をひそめた。
「ゴドール君、何をしているんだ!」
「あ、ヤマタニ様……これは……。」
ゴドールはわずかに安堵しつつ、しかし情けなさも滲ませながら説明する。
「この男が橋を占拠しておりまして、討伐に来たのですが……」
言葉を濁すその様子が、状況を物語っていた。
ヤマタニは静かに男へ視線を向ける。
その瞬間――
男が一気に距離を詰めてきた。
「危険です!」
ミランドとカミルが即座に前へ出て構える。
だが。
男はヤマタニの目前でぴたりと止まり――
剣を鞘に納め、膝をついた。
「ヤマタニ様。私を覚えておいででしょうか。」
「……うん?」
予想外の行動に、ヤマタニは目を瞬かせる。
どこかで見た顔ではあるが、思い出せない。
「あの時、道端で倒れていた私を助けていただいた者です。」
「ああ……そうか。」
ヤマタニはようやく思い出したように頷いた。
「気にしなくていい。困った時はお互い様だ。」
あっさりとした返答だった。
だが、その言葉に男は深く頭を下げる。
「ですが、私にとっては命の恩人です。」
その声には、はっきりとした敬意が込められていた。
ヤマタニは軽く手を振る。
「それより、騎士団が困っている。橋の占拠はやめてくれるか?」
「はい。承知しました。」
男は即答した。
あれほどの強者が、驚くほどあっさりと従う。
周囲がどよめいた。
「ありがとう。では――。」
ヤマタニが馬車へ戻ろうとした、その時。
「お待ちください。」
呼び止められる。
「何だ?」
ヤマタニは少しだけ面倒そうに振り返った。
「私は剣の腕を見込んでいただきたく、このような騒ぎを起こしました。」
「どうか、仕官させてください。」
その言葉に、場が静まり返る。
ゴドールたちでさえ苦戦した男が、頭を下げているのだ。
ヤマタニは少し考え、口を開く。
「ゴドールたちと互角以上……実力は十分だな。」
「だが、うちは待遇はよくないぞ?」
「構いません。」
即答だった。
迷いは一切ない。
「私はベルナードと申します、ら」
「……いいだろう。」
ヤマタニは頷いた。
「好きに仕えろ。」
その軽い一言で、すべてが決まった。
こうして、剣士ベルナードが新たにヤマタニの配下となった。
――しかし。
あまりにも出来すぎた展開に、違和感を覚える者もいた。
(……本当に信用してよいのか。)
ゴドールは、膝をつくベルナードの背を見つめながら思う。
あの強さ。
あの執着。
そして「あの方」という言葉。
胸の奥に、小さな警戒が残り続けていた。
夜風が橋を吹き抜ける。
その冷たさが、どこか不吉な予感を運んでくるかのようだった――。