軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

吟遊詩人、ヤマタニを歌う

第12話 吟遊詩人、ヤマタニを歌う

最近、どこかで聞いたような話を、吟遊詩人が歌っているのを耳にした。

――鉄の馬に乗り、難攻不落の要塞を落とし

誰もやらぬ魔物の群れを一掃した男がいる♫

――何度も爆発した炭鉱を復活させ

あらゆる発明で人々の生活を豊かにした男がいる♫

――浮浪者を助け、孤児院を建てた

聖人君主ヤマタニは偉大なる勇者なり♫

「……え? 俺のことか?」

思わず間の抜けた声が出た。

なんだ、世の中には妙な歌を歌う吟遊詩人がいるものだ。

聞いているだけで体のあちこちがむず痒くなる。

酒場やヤマタニランドでも、その吟遊詩人が歌って稼いでいるらしい。

だが、せめて本人の近くで歌うのだけはやめてほしい。恥ずかしいにもほどがある。

そんなある日、一人の男がやって来た。

密着取材をさせてほしい――そう言ってきた。

新聞記者か何かだろうと思い、軽い気持ちで承諾すると、なんと泊まり込みで取材したいという。

さすがに根掘り葉掘り聞かれるのは、たまったものではない。

その男は、マークスバーグルという青年で、各地を回って取材をしているフリーの記者らしい。

「いろんな場所を回るのも大変だろう、マークスバーグル君。」

「はい。でも英雄の話を直接聞けるので、毎回わくわくしながら仕事ができますよ。」

「へぇ……英雄か。一度会ってみたいもんだな。」

ヤマタニは、取材というものが、有名人に会って話を聞ける仕事なのだと知り、少し楽しそうだなと思った。

「それで、どんな人たちを取材してきたんだい?」

「そうですね……一人で何十人も敵を倒した英雄とか、多くの人を導いた聖人様とか、いろいろです。」

「こんな中年の商会代表でも、記事になるのか?」

「記事ですか? ええ、まあ……受けをよくするために、多少は“盛ります”けどね。」

「お手柔らかに頼むよ。」

そうしてヤマタニは苦笑した。

記者と共に馬車で移動しながら、さまざまな話をする。

「蒸気自動車を作っているのに、どうして馬車なんです?」

マークスバーグルは不思議そうに尋ねた。

「ああ。蒸気自動車はまだまだ高価だしな。それに始動まで時間がかかる。実用にはもう少し時間が必要だ。」

マークスバーグルは頷きながら、手早くメモを取っている。

その時だった。

「あなた、あそこに誰か倒れてますよ!」

ヒラリーが指差した先に、少女が倒れていた。

ヤマタニはすぐに馬車を止めさせ、駆け出す。

しばらくして、少女を抱えたまま戻ってきた。

「行き先変更だ。ドクターの診療所へ急いでくれ。」

座席の下から毛布を取り出し、少女を優しく包む。

「衰弱しているが……これくらいなら、まだ助かりそうだな。」

ヤマタニは少女の顔を覗き込み、静かに声をかけた。

「おい、話ができるか? 名前と住所は?」

「……わたし、ミカ……弟たちが……。」

そこまで言うと、ミカは力尽きたように意識を失った。

記者のことなどすっかり忘れ、ヤマタニはそのまま診療所へと運び込む。

ベッドに寝かされたミカは、静かに眠りについていた。

「この娘は大丈夫だろう。疲労と過労といったところだな。」

医者がそう言う。

「ドクター、また後で来ます。よろしくお願いします。」

「はいはい、任されましたよ。」

「助手のメイリーはいるか? この子をお湯で綺麗にして、着替えさせてやってくれ。」

必要な指示を終えると、ヤマタニはようやく一息ついた。

そうして、その日一日の様子を、マークスバーグルは黙って取材していた。

――しばらくして。

ヤマタニが広場を通りかかると、人だかりができていた。

何事かと覗き込む。

吟遊詩人が、誰かの詩を歌っていた。

荒野に煙る 潰えし夢

金も名誉も 風に散り

ただ一人立つ 男あり

名をばヤマタニ 再起の徒

錆びた荷車 軋ませて

孤児らと共に 道を行く

笑われながら 石を積み

やがて築きし 希望の街

火なき夜にも 灯を掲げ

飢えた子らには パンを裂き

剣なき戦も 知恵で制す

それが彼の 戦いなり

貴族は嘲り 魔は牙剥く

されど退かぬ その背中

仲間の声が 盾となり

涙はいつか 力となる

見よや今では 人の波

笑顔あふれる 楽園に

誰が呼んだか その地の名

ヤマタニランド 奇跡の地

されど忘るな その始まり

泥に塗れた あの日々を

一つの意志が 世界を変える

それを証すは この男

嗚呼、旅人よ 耳を貸せ

この歌はまだ 終わらない

次の頁を 刻むのは

今を生きる お前かもしれぬ――

「……なんだ? また俺を勝手に歌にして……。」

帽子のつばで顔はよく見えなかった。

だが、その仕草に見覚えがある。

よく目を凝らすと――

「……マークスバーグル?」

男はわずかに口元を緩めた。

「いい歌でしょう? 少し盛ってますけどね。」

「少しじゃないだろ……。」

ヤマタニは思わず頭を抱えた。

そして、ようやく気づく。

「……取材、許可したのは俺だったな……。」

広場には拍手が響き、吟遊詩人は次の歌へと移っていった。

ヤマタニは深くため息をついた。

「……頼むから、本人の前ではやめてくれ……。」

しかしその願いが叶うことは、当分なさそうだった。