作品タイトル不明
コピー品と泥棒対策
第15話 コピー品と泥棒対策
案の定だった。
お茶入り石鹸やロウソクには、早くもコピー品が出回り始めていた。
露店を歩けば、似たような香り。
似たような形。
だが、どこか雑で、質も落ちる。
ヤマタニはそれを手に取り、軽く鼻を鳴らした。
「コピーされるのも、まあ誇らしいことだな。」
皮肉ではない。
それだけ、自分の商品が市場に影響を与え始めた証だ。
(だが、放ってはおけない。)
質の悪い模倣品は、いずれ“本物の評判”をも落とす。
ヤマタニは対策に動いた。
工場のマークを、商品に刻印する。
丸の中に、一本のペン。
それは――この世界に来て最初に金を生んだ、ボールペンへの象徴だった。
原点であり、誇りでもある。
石鹸には焼き印のように押し、ロウソクにも同様の刻印を施す。
さらに、ロットナンバーを付与した。
年月日と番号。
それだけで、生産時期の特定、不良品の追跡、そして――偽物の識別が可能になる。
(管理とブランド、この二つだな。)
次に、内部の整理にも手を入れる。
ゼンマイおもちゃの製造は、思ったよりも人手を食わない。
精度が重要なため、数より質が必要だ。
選抜された五人のうち、二人だけをおもちゃ班に残す。
残りはロウソク、石鹸、販売へと再配置した。
人員の最適化。
そして――
「週に一日、休みにする。」
突然の方針に、従業員たちはざわついた。
休みという概念が薄いこの世界では、異例だったからだ。
「休むことで効率は上がる。無理を続ければ、いずれ崩れる。」
ヤマタニはそう言い切った。
誰も反論はしなかった。
むしろ、戸惑いながらもどこか嬉しそうな表情を浮かべている。
(これで回るはずだ。)
そう思った――その日だった。
事件は、あっさりと起きた。
翌朝、店に入った瞬間、違和感があった。
棚が、軽い。
嫌な予感が走る。
急いで奥へ回る。
そして――
「……なんてこった……!」
高級な仕掛け玩具が、すべて消えていた。
人形も、猫とネズミの追いかけ合いも、ひとつ残らず。
床には、わずかな擦れ跡。
扉には、こじ開けられた痕跡。
明らかに、狙われていた。
(休みの日……か。)
警備が手薄になるタイミングを狙った犯行。
偶然ではない。
「……やられたな。」
怒りはあった。
だが、それ以上に冷静だった。
これは“起こるべくして起きた”問題だ。
商品が高価になれば、狙われる。
組織が大きくなれば、隙も増える。
つまり――
(防衛が足りてない。)
すぐに動いた。
腕の立ちそうな浮浪者の青年を二人、雇い入れる。
「警備を任せる。」
簡潔な指示。
彼らには装備を与えた。
警棒。
ロープ。
簡易的なプロテクター。
そしてヘルメット。
剣は持たせない。
「危なくなったら戦うな。逃げろ。命の方が大事だ。」
ヤマタニの方針は一貫していた。
失った物は作り直せる。
だが、人はそうはいかない。
二人の青年は強く頷いた。
次に、衛兵の詰め所へ向かう。
被害を報告し、盗難の事実を伝える。
だが――
反応は鈍かった。
記録は取る。
だが、動きは期待できない。
(まあ、そうだろうな。)
この程度の被害では、優先度は低い。
犯人が捕まる可能性も、高くはない。
それでも、やるべきことはやる。
外に出ると、空は妙に明るかった。
深く息を吐く。
失った金額は大きい。
時間も労力も詰まっていた。
だが――
(終わりじゃない。)
誰も怪我はしていない。
従業員も無事だ。
そして、作る技術は自分の中にある。
「……また作ればいい。」
自分に言い聞かせるように、呟く。
悔しさは消えない。
だが、それを引きずっても意味はない。
むしろ――
(いい機会だ。)
防犯体制の強化。
商品管理の徹底。
流通の見直し。
この一件で、足りなかった部分がはっきりした。
ヤマタニは顔を上げる。
(次は、奪われない仕組みを作る。)
ただ作るだけでは足りない。
守る力も必要だ。
商売は、次の段階へ進もうとしていた。