軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

気にしてた事

第16話 気にしていた事

仕事にばかり気を取られて、この世界のことを深く考える余裕がなかった。

だが、ふとした瞬間に思い至る。

「自分がここに来たのだから、もしかしたら――。」

あの発明をした人間も、同じようにこの世界へ来ているのではないか。

現代の知識を持つ者が、自分以外にも存在する可能性。

もしそうなら、現代の商品を作り続ければ、いずれ向こうから気づいてくるかもしれない。

ヤマタニは工場の外に出て、ゆっくりと周囲を見回した。

この世界は中世そのものだ。

道は整備されておらず、行き交う人々の服も粗末なものが多い。

治安も決して良いとは言えない。

「なんですか、橋を渡るたびに金を取るなんて!」

思わず愚痴がこぼれる。

街の外と内を行き来するだけで、いちいち金を取られる。

城門でも税を課される。

物流は滞り、商売は広がらない。

こんな仕組みで、経済が発展するはずがなかった。

視線を少しずらすと、通りの端に座り込む子供たちが目に入る。

ぼろぼろの服を着た浮浪者たちだ。

大人もいるが、多くは子供だった。

働く場所もなく、ただ日々をやり過ごすだけの存在。

「……もったいないな。」

思考が、自然と経営の方向へ傾いていく。

スローライフを目指していたはずなのに、気がつけば考えているのは効率と利益のことばかりだ。

「いっそ、浮浪者を全員雇って会社にしてしまうか。」

半ば冗談のように呟いたが、完全な思いつきでもなかった。

人は資源だ。

使い方次第で、価値になる。

教育し、役割を与え、組織として動かせば――

今よりはるかに大きなことができる。

「……いや、やるなら本気でやるべきか。」

ヤマタニは腕を組み、しばらく考え込んだ。

ただ稼ぐだけでは足りない。

この世界で生きる以上、仕組みそのものに関わらなければ、いずれ頭打ちになる。

研究も続ける。

組織も作る。

そして――

この世界に、新しい未来を作る。

その決意を固めたときだった。

「社長、来客です。」

警備に立っていた青年が、やや緊張した様子で声をかけてきた。

「来客?」

「はい。ハンフリー商会の者だと名乗っています。」

聞き覚えのない名だ。

だが、“商会”と名乗る以上、ただの訪問者ではないだろう。

「通してくれ。応接で会う。」

「承知しました。」

ヤマタニはそのまま社長室へと戻り、軽く身なりを整えた。

やがて、扉がノックされる。

「失礼いたします。」

入ってきたのは、落ち着いた雰囲気の男だった。

年の頃は三十代後半といったところか。

服装は質素だが、無駄がない。

目つきには商人特有の計算高さがにじんでいる。

「私はハンフリー商会の者で、あなたに商人協会への加入を勧めに来ました。」

男はそう言うと、懐から紹介状と身分証を取り出した。

ヤマタニはそれを受け取り、目を通す。

形式はしっかりしている。

偽物ではなさそうだ。

「商人協会……ですか?」

聞き慣れない言葉に、ヤマタニは首を傾げた。

「ご存知ないのですか?」

男の眉がわずかに動く。

「ええ。よそから来たばかりで、まだこの街の仕組みには詳しくなくて。」

嘘ではない。

「なるほど……。」

男は一つ頷き、淡々と説明を始めた。

商人協会とは、国家が管理する組織。

商人を統制し、危険な品物の流通を防ぎ、経済を管理するための機関。

登録されていない商人は、基本的に大きな商売を認められない。

「露天商などは黙認されていますが――。」

男はそこで言葉を区切り、ヤマタニをまっすぐ見た。

「あなたのように、工場を持ち、生産と流通を行っている者は別です。」

完全に把握されている。

「協会に加入しなければ、この規模の商売は続けられません。」

言い方は丁寧だが、内容ははっきりしていた。

――従え。

そう言っているのと変わらない。

「メリットはあるのですか?」

ヤマタニはあえて聞いた。

「ありますとも。取引の保護、情報の共有、そして何より――。」

男はわずかに口角を上げる。

「国家に守られるという安心です。」

裏を返せば。

従わなければ、守られないどころか排除される。

「後日、協会に出頭していただきます。正式な手続きはその際に。」

男は用件を告げると、静かに立ち上がった。

「……拒否した場合は?」

ヤマタニの問いに、男は一瞬だけ沈黙した。

そして、感情を消した声で答える。

「その場合は、強制的な措置が取られます。」

遠回しな表現だが、意味は明確だ。

営業停止。

資産の没収。

場合によっては――それ以上。

「ご理解いただけると助かります。」

そう言い残し、男は部屋を後にした。

扉が閉まる。

静寂が戻る。

ヤマタニは椅子に深く腰掛け、ゆっくりと息を吐いた。

(ついに来たか……。)

個人の工夫だけでやっていける段階は、終わりつつある。

相手は商人でも盗賊でもない。

国家そのものだ。

「……面白くなってきたな。」

小さく笑みが漏れる。

縛られるか、利用するか。

どちらに転んでも、このままでは終わらない。

「なら、こっちもやり方を変えるか。」

組織を作る。

人を集める。

仕組みを整える。

そして――

この世界のルールの中で、勝つ。

ヤマタニはゆっくりと立ち上がった。

視線の先には、工場と、働く子供たちの姿がある。

守るべきものができた以上、引く理由はない。

国家だろうが協会だろうが関係ない。

「……相手になってやる。」

静かに呟く。

その目には、すでに次の一手が浮かんでいた。

――国家権力が、牙を剥く。

ならばこちらは、その牙を折るだけだ。