軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

貧民街のミカ

第73話 貧民街のミカ

孤児がいる貧民街。廃材で建てた小屋に、ある親子が住んでいた。

ゴホッ、ゴホッ――

「ほら、お父さん。寝てなきゃ駄目でしょ。」

「すまない……こんな身体でなければ……お前たちを、もっと楽に……。」

「そんな事言わないで。絶対、元気になるよ。」

ミカは笑ってみせた。

――そうでも言わなければ、崩れてしまいそうだった。

父は流行病で寝たきり。

母はすでに他界し、残されたのは幼い弟と妹。

妹は父の手をぎゅっと握りしめ、弟は空腹に耐えるように黙っていた。

ミカは毎日、ゴミ拾いと市場の掃除で家計を支えていた。

鉄クズ、石鹸の欠片、短いロウソク――

わずかな金になるものを拾い集める。

市場では、牛馬の糞や野菜くずを片付ける。

誰もやりたがらない仕事だったが、子供でも出来る仕事だった。

そんなある日――

「聞いたか? あの寂れた村、急に景気良くなったらしいぞ。」

「また嘘くせぇ話だな。」

「いや、それが本当らしい。工場が建ってよ、孤児でも働けるって話だ。」

「しかもよ、子供でも女の子も働いているんだってよ。」

「女の子に工場の仕事が出来るわけねぇだろ?」

「それが、あるらしい。売店や簡単な物作り、工場ガイドとかよ。」

「へぇ〜。」

ミカの手が止まった。

(孤児でも……働ける……?)

「飯も出るとか何とか。」

その一言が、胸に突き刺さった。

――食べられる。

それだけでいい。

それだけで、この子たちは生きられる。

「おいミカ! 手が止まってるぞ!」

「は、はい!」

――ただの噂。

そう思いながらも、ミカの胸には確かな火が灯っていた。

それから間もなく――父は息を引き取った。

最期まで、ミカの手を握ったまま。

「……ミカ……弟たちを……頼む……。」

かすれた声だった。

「……うん。」

ミカは、強く頷いた。

その手の温もりが、ゆっくりと消えていく。

――もう、戻らない。

「お姉ちゃん……お父さん、起きないの?」

妹の声が、小さく震える。

「……大丈夫。」

ミカは笑った。

「私がいるから。」

涙は出なかった。

泣けば、この子たちが壊れてしまうから。

そして追い打ちのように――

市場は貴族に買い取られ、仕事も失われた。

もう、後がない。

食べ物も、金も、居場所も――何もかもが消えた。

それでも。

ミカは、立ち上がった。

「……行こう。」

弟と妹の手を握る。

小さな手。軽すぎる体。

守らなければならない命。

頼れる人はいない。

帰る場所もない。

それでも――

「絶対に、生きる。」

その言葉は、誓いだった。

噂だけを頼りに、――“孤児でも働ける場所”へ。

三人は、歩き出した。

後戻りは、もう出来ない。