作品タイトル不明
偽物コピー品出回る
第67話 偽物コピー品出回る
以前、ローソクでもコピー品が出回ったことがあった。
その時は、マルペン刻印とシリアルナンバーを導入して対処した。
だが――
まさか、蒸気自動車までコピーされるとは思わなかった。
ヤマタニは、噂のコピー車を一台買い取ってきた。
見た目は、ほぼ同じ。
細部に多少のアレンジはあるが、ぱっと見では見分けがつかない。
「……なるほどな。」
トミーに火入れを指示する。
蒸気が上がり、機関が唸る。
動き出したそれは――確かに“動いた”。
「社長さん、準備できましたよ。」
「よし、走らせてみろ。」
コピー車はゆっくりと工場内を一周し、問題なく戻ってくる。
「どうだ?」
トミーは首を傾げた。
「走ることは走るんですけど……なんというか、頼りない感じがします。」
「……だろうな。」
「社長も乗ってみますか?」
「ああ。」
ヤマタニは乗り込み、実際に走らせる。
――違う。
同じように見えて、明確に違う。
(セッティングが甘いな……いや、それだけじゃない。)
「トミー、お前も乗れ。」
二人で街を一周する。
帰ってきた頃には、答えははっきりしていた。
「どうだった?」
「やっぱり……ぎこちないです。あと、乗り心地も悪い。」
「他は?」
「うちの車に比べると、なんか不安になりますね。」
他の者にも試させると、ほぼ同じ意見だった。
見た目は似ている。
だが中身は違う。
コストを削った結果、どこかに無理が出ている。
(……長くは持たないな。)
「社長、対応はどうしますか?」
トミーたちが詰め寄る。
ヤマタニは一言だけ言った。
「放っておけ。この出来なら、すぐ消える。」
――だが。
コピー車は予想以上に売れた。
安さを武器に、次々と市場へ流れ込んでいく。
「社長さん、売れ行きがすごいです! このままだと……!」
「ああ。好きにさせておけ。」
「ですが――!」
「いい。」
ヤマタニは動かなかった。
やがて、コピー車の工場は拡張され、生産はさらに加速する。
「価格を下げて対抗しましょう!」
「その必要はない。」
社長は、ただ静かに言った。
「好きにやらせておけ。」
――そして。
しばらくして、噂が変わった。
事故。
故障。
停止。
それらが一気に広がり始める。
「社長……コピー車の事故と故障が頻発しています。」
トミーが青ざめた顔で報告する。
ヤマタニは、ふっと笑った。
「……やっと来たか。」
「え……?」
「前に調べただろう。あれは材料も部品も、かなり削ってある。」
「はい……。」
「見た目は真似できてもな、中身までは真似できん。」
案の定、コピー車は次々と壊れた。
評判は一気に落ち、やがて市場から姿を消していく。
もっとも、厄介な問題もあった。
コピー品を本物と勘違いした客が、怒鳴り込んでくるのだ。
だが、それも問題はなかった。
刻印も、シリアルも、証明書もない。
すべて偽物だと証明できる。
「社長さん……最初から分かってたんですね。」
「ああ。」
ヤマタニは肩をすくめる。
「トミー。なんで人は“本物”を買うと思う?」
「えっと……いい物だから、ですか?」
「そうだ。品質がいい。長く使える。だから信頼される。」
トミーは深く頷いた。
数ヶ月後。
市場からコピー車は完全に消えた。
代わりに――
「やっぱり本物は違うな。」
そんな声とともに、注文が戻ってきていた。
安さは真似できる。
だが――
信頼だけは、真似できない。