作品タイトル不明
アレが欲しい!
第66話 アレが欲しい!
今日は休日だ。 ヤマタニは妻たちと屋敷で、束の間の休息を楽しんでいた。
――だが。
屋敷の前に、王宮の紋章がついた馬車が止まった。
「ヤマタニ男爵に至急、王宮へ出頭せよとの仰せです。」
使者の言葉に、場の空気が一瞬で張り詰める。 ヤマタニは妻たちと顔を見合わせた。
――嫌な予感しかしない。
「……すぐに向かう。」
急ぎ身支度を整え、ヤマタニは王宮へと向かった。
◇ 通されたのは、謁見の間。
「お呼びとあって、至急罷り越しました。」
「おお、ヤマタニ男爵! よく来た!」
王は上機嫌そうに玉座から身を乗り出した。
「して、何か御用でしょうか?」
ヤマタニは慎重に言葉を選ぶ。
また厄介事ではないか――
そんな予感が拭えない。
「うむ。ここに呼んだのはな――アレが欲しいのじゃ。」
「……アレ、とは?」
「アレじゃ。装甲をつけた車じゃ!」
ヤマタニは一瞬だけ目を細めた。
――やはりそれか。
「装甲車のことでしょうか?」
「そう、それじゃ!」
王は満足げに頷いた。
「どこでその話を……。」
「情報の出どころはどうでもよい!」
ぴしゃりと言い切られる。
「とにかく、あの車を作ってくれぬか?」
やはり軍事利用か――。
ヤマタニは内心でため息をついた。
「あれはまだ試作品で、未完成です。」
「未完成とな? しかし聞いたぞ。」
王はにやりと笑う。
「盗賊団を散々に蹴散らしたとな!」
謁見の間にざわめきが広がる。
「……三十人規模の盗賊団でしたが、まあ、問題なく。」
あえて淡々と答えるヤマタニ。
だが実際には――
一両で敵陣に突っ込み、矢も刃も弾き返しながら蹂躙した。
あれはもはや“車”ではなく、小さな要塞だった。
「ほれ見よ! 十分すぎるではないか!」
「いえ、問題があります。」
ヤマタニは静かに首を振る。
「最大の欠点は、航続距離です。」
「ほう?」
「長く走れません。街の周辺が限界です。」
王は一瞬、考え込むように顎に手を当てた。
だが、すぐに顔を上げる。
「それでもよい!」
そして――
「それと命ずる。航続距離をなんとかせよ。」
重い一言が、謁見の間に響いた。
――やはり来たか。
ヤマタニは内心で頭を抱える。
「……承知いたしました。」
逆らう選択肢など、最初からない。
◇ 屋敷へ戻ったヤマタニは、机に向かい腕を組んだ。
「問題はバッテリーだな……。」
今の装甲車は強い。
だが、すぐに止まる。
それでは――戦場では役に立たない。
しかし――まったく当てがないわけではない。 ヤマタニの脳裏に、一人の男の顔が浮かぶ。
――異様な執念で“鉱石”に取り憑かれていた、あの男。
「あの男に働いてもらおうか……。」
そう呟いた瞬間だった。
かつて彼が語っていた理論が、ふと蘇る。
――特定の鉱石に電気を蓄え、繰り返し放出する技術。
「……いや、待てよ。」
それは荒唐無稽な話だと思っていた。
だが――もし使えるとしたら? ヤマタニの目が、ゆっくりと見開かれる。
「複数のセルに分けて蓄えれば……。」
「多重セルの蓄電池――いけるかもしれない」
頭の中で、新たな構想が一気に組み上がっていく。
――走り続ける装甲車。
――戦場を支配する、鋼鉄の怪物。
「……面白くなってきたな。」
口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
こうしてヤマタニは、再び無茶振りに巻き込まれながらも――
新たな発明へと踏み出した。
――戦場を変えるために。