軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

炭鉱列車登れす!

第65話 炭鉱列車登れず!

炭鉱から、ひとつの依頼が舞い込んだ。

石炭を満載した汽車が、ある難所で立ち往生しているという。

「……登れない、か。」

報告を聞いたヤマタニは、現地へ向かう前からおおよその原因を推測していた。

――おそらく、勾配だ。

現地に到着し、問題の坂を目にした瞬間、その推測は確信へと変わる。

そこには、思わず足を止めるほどの急勾配があった。

「これは……厳しいな。」

これまで人力でトロッコを押し上げていたという話も頷ける。

しかし、それでも限界があるからこそ、機関車が導入されたはずだった。

それでもなお、登れない。

ヤマタニは線路と車輪の状態を注意深く観察する。

「原因は明白ですね。」

傍らにいた責任者が顔を上げる。

「原因……ですか?」

「ええ。摩擦です。」

鉄の車輪はゴムのように路面を掴むことができない。

摩擦が不足すれば、どれだけ力をかけても空転するだけだ。

「この勾配では、機関車の駆動力が地面に伝わりきらないのです。」

ヤマタニは、あらかじめ用意していた装置を取り出した。

「対策として、自動砂投下装置を取り付けます」

「砂……を?」

「はい。坂に差し掛かった際、線路上に砂を落とす仕組みです。」

簡素な構造だったが、理にかなっていた。

砂を噛ませることで、車輪とレールの摩擦を強制的に増加させる。

「これで空転は抑えられます。」

さらにヤマタニは線路全体へ視線を向けた。

「それと、根本的には線路の設計にも問題があります」

責任者が息を呑む。

「このままでは、いずれ同じ問題が再発するでしょう。」

ヤマタニは静かに続けた。

「対策は三つです。ひとつは勾配を緩く作り直すこと。」

指を一本立てる。

「ふたつ目は、スイッチバック方式。」

「スイッチバック……?」

「坂を一気に登るのではなく、ジグザグに進みながら段階的に高度を稼ぐ方法です。」

視線で山の斜面をなぞりながら、ヤマタニは説明する。

「一度登ったら進行方向を変え、別の角度からさらに登る。これを繰り返すことで、急勾配を分割できます。」

責任者はゆっくりと頷いた。

「なるほど……。つまり、少しずつ登っては方向を変えるわけですね。」

「その通りです。」

ヤマタニは最後の選択肢を口にした。

「そして三つ目。どうしても急勾配を避けられない場合は、アプト式という方法もあります。」

「ただしこちらは、車両自体を専用の仕様に改造する必要があります。」

しばしの沈黙の後、関係者たちは協議を重ねた。

現実的な工期、費用、運用のしやすさ――。

やがて結論が出る。

「スイッチバック方式でいきましょう。」

その言葉に、場の空気がひとつにまとまった。

ヤマタニは小さく頷く。

「では、ソンブレロモネダ商会から技術アドバイザーを派遣します。工事は炭鉱側で進めてください。」

こうして、改修計画は動き始めた。

本来であれば、山を貫くトンネルを通すのが最も効率的だろう。

だが――この地には、それが叶わない理由があるのかもしれない。

ヤマタニは山を見上げた。

白く立ち上る煙が、ゆっくりと空へと溶けていく。

「……まだ、やりようはいくらでもあるな。」

その言葉は、誰に向けたものでもなく、静かに風へと消えていった。