作品タイトル不明
鉄道複線化工事完了
第64話 鉄道複線化工事完了
前々から進めていた鉄道工事――
単線から複線への拡張が、ついに完了した。
距離にしてみれば、街を一周し、隣町へと伸びる短い路線。
だがその意味は、決して小さくはない。
かつてこの地には、何もなかった。
人も、物流も、未来さえも。
――だが今は違う。
「出発します!」
汽笛が鳴り、臨時列車がゆっくりと動き出した。
「よく完成させてくれた。ありがとう。」
ヤマタニは鉄道責任者に声をかける。
「いえ……ここまでの道筋を作られたのは、社長様です。」
謙遜するその言葉に、ヤマタニは小さく笑った。
カタンコトン、カタンコトン――
規則正しい振動とともに、列車は進む。
やはり蒸気機関車は速い。
路面に左右されるバスとは違い、安定した速度で景色を切り裂いていく。
やがて、サンブレロの街が見えてきた。
発電所の煙突から立ち上る白い煙。
忙しなく働く工場の人々。
外周を囲うように掘られた巨大な堀。
すべてが、動いている。
――生きている街だ。
「社長さん、すごい……!」
レイナが目を輝かせる。
「ああ……そうだな。」
短く答えながら、ヤマタニはその光景から目を離さなかった。
何もなかった場所に、人が集まり、働き、暮らしている。
それは奇跡ではない。
選び続けた結果だ。
ふと、助手のトミーが窓から身を乗り出しているのが目に入る。
「おい、トミー。危ないぞ。頭がなくなる。」
「ご、ごめんなさい!でも……あそこに外輪船が走ると思うと……!」
無邪気な声に、ヤマタニは苦笑する。
――まだ、途中だ。
鉄道も、船も、この街も。
すべては、ここから広がっていく。
北側の森を抜け、東側へと差し掛かる。
仮設住宅の周囲には、小さな人影が増えていた。
子供が走り、大人が働き、煙が上がる。
暮らしが、確かに根付いている。
この鉄道は、人を運ぶだけではない。
――未来を運んでいる。
やがて列車は街を一周し、隣町へと戻っていく。
遠ざかるサンブレロの街。
だが、不思議と寂しさはなかった。
代わりに、胸の奥から湧き上がるものがある。
「……まだ足りないな。」
ヤマタニは小さく呟いた。
この程度で満足するつもりはない。
もっと人を呼び、
もっと物を動かし、
もっと、この世界を変える。
――この鉄道は、その始まりに過ぎない。
プラットホームに到着すると、孤児院出身の少女が弁当を売っていた。
「いらっしゃいませー!」
明るい声が響く。
その姿を見て、ヤマタニは確信する。
この街は、もう止まらない。
人が集まり、働き、笑う限り――
発展は続いていく。
こうして鉄道複線化は完了し、開通式を経て、正式に運用が開始された。
そしてその日――
サンブレロは、ただの街から
“拠点”へと変わったのだった。