作品タイトル不明
ショベルカー異世界を塗り変えた。
第63話 ショベルカー異世界を塗り変えた。
移民の流入により、土木工事の人員は飛躍的に増加した。
工数は大幅に短縮された――
だが。
「……遅い。」
ヤマタニの声は、静かだった。
現場では大の大人が何人も、つるはしとスコップで地面に挑んでいる。
汗を流し、息を切らし、それでも進みは鈍い。
その中に――
小さな影が混じっていた。
痩せた少年が、必死にスコップを握っている。
腕は震え、土を掘るたびに息が詰まる。
それでも、やめない。
生きるために。
ヤマタニは、その姿を一瞥した。
そして、視線を外す。
「……やめだ。」
誰にも聞こえないほど小さく、そう呟いた。
「人にやらせる仕事じゃない。」
その一言で、空気が変わる。
ヤマタニが手を上げた。
「持ってこい。」
運び込まれたのは――鉄の巨体。
蒸気を吐き、低く唸るそれは、まるで呼吸しているようだった。
ざわめきが広がる。
「なんだ……あれは。」
「魔道具か……?」
「いや……生きてるぞ……。」
現場監督ですら後ずさる。
「男爵様……それは……。」
ヤマタニは淡々と言った。
「重機だ。ショベルカー。」
理解はされない。
だが構わない。
「トミー、動かせ。」
「はい!」
蒸気が噴き上がる。
――プシューッ!!
機体が軋み、ゆっくりと動き出した。
遅い。
あまりにも遅い。
疑念が広がる。
「……あれで掘れるのか?」
その瞬間。
――バンッ!!
蒸気が暴発し、白煙が弾けた。
「危ない!!」
「離れろ!!」
現場が混乱する。
だが。
ヤマタニは、一歩も動かない。
ただ一言。
「続けろ。」
白煙の中、アームが振り下ろされる。
ズンッ!!
地面が、砕けた。
煙が晴れる。
そこには――
人が何分もかけて掘る量を、一撃で抉り取った跡。
そして、土砂を満載したバケット。
沈黙。
完全な沈黙。
やがて。
「……なんだよ、これ。」
誰かが呟く。
別の男が、スコップを落とした。
カラン、と乾いた音が響く。
「……バカらしい。」
その声は、笑っていた。
力が抜けたように。
「俺たち、何やってたんだ……。」
その言葉に、何人もが手を止める。
ヤマタニは、何も言わない。
ただ、機械が土を運ぶ光景を見せる。
ドサァッ!!
一瞬で、仕事が終わる。
繰り返し。
何度も。
何度も。
そして。
現場監督が、震える声で言った。
「……男爵様。」
振り返る。
その目は、理解していた。
「これは……道具じゃない。」
一歩、踏み出す。
「これは……時代だ。」
ヤマタニは、静かに問う。
「使うか?」
間髪入れず、答えが返る。
「使います!!」
叫びだった。
「使わせてください!!」
その瞬間。
現場の空気が、完全に変わった。
もう誰も、スコップには戻らない。
戻れない。
ヤマタニは、わずかに笑う。
「なら量産だ。」
その一言に、全員が息を呑む。
この“異常”が増える。
世界が変わる。
誰もが、それを理解した。
ショベルカーは、ヤマタニが図面を引き、
発明家と鍛冶屋が命を削って完成させたものだった。
未完成。
だが、十分すぎる。
二号機、三号機が動き出す。
掘る。
運ぶ。
均す。
すべてが、圧倒的だった。
サンブレロ街の外周に、堀が生まれていく。
土は整えられ、形になっていく。
そして――
あの少年が、立ち尽くしていた。
手には、もうスコップはない。
ただ、機械を見ている。
ヤマタニは、ちらりと視線を向けた。
何も言わない。
だが、その視線だけで十分だった。
少年は、ゆっくりと息を吐く。
そして――
初めて、空を見上げた。
ヤマタニは前を向く。
「次は水路だ。」
その声は、静かで。
絶対だった。
人が土を掘る時代は、終わる。
ここから先は――
人が、世界を変える。