軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蒸気船試作

第62話 蒸気船試作

ヤマタニの胸の内には、以前からひとつの構想があった。

――水上航行用、外輪蒸気船。

この村の外堀に、近くの川から水を引き込み、水堀とする。 そして、その水堀と川を自在に行き来できる船を走らせるのだ。

大量の荷物や人を運ぶ輸送手段として。あるいは、外堀をぐるりと巡る水上バスとして。

観光にも使える――そんな未来を、ヤマタニは思い描いていた。

スクリュー式では水位が足りない。

だが外輪船ならば、浅い川でも問題なく動かせる。

なにより――あの独特の味わいが、ヤマタニは好きだった。

そして今。

全長およそ五百ミリの試作蒸気船模型が、ついに完成した。

何度も何度も試行錯誤して、何度も作り直し、徹夜してやっと完成させた。

思えば、外輪船など作ったことはなかった。

水車に水が入り込み沈没したり、外輪がうまく回らなかったこともある。

――それでも、ようやくここまで辿り着いた。 少し眠い。だが期待と興奮で、眠気は吹き飛んでいた。

「手が空いている者は集まれ。これから動かしてみる。」

その一声で、工場脇の池の周囲には人だかりができた。

助手のトミーが、煙突を覗き込みながら言う。

「もう釜のお湯、十分に温まってますよ。社長さん。」

煙突からは、白い蒸気がゆらゆらと立ちのぼっていた。

「よし……じゃあ、やってくれ。」

「了解。」

トミーが操作に取りかかる。

汽笛が鳴り響いた。

「ピィーーー!」

模型はゆっくりと水面に押し出される。

――だが。

外輪は、なかなか動きださない。

誰も、声を出さなかった。

ヤマタニは額に汗をにじませ、拳をぐっと握りしめる。

蒸気の外輪は、わずかに回り始めたものの、その動きはどこか頼りない。

(……頼む、動け。)

ここで失敗すれば、この構想は振り出しに戻る。 周囲の空気が張り詰めた。

水面には、かすかな波紋だけが広がる。

誰かが、喉を鳴らした。

その瞬間――

外輪が、水を強くかいた。

ぐっ、と船体が前へ進む。

「――動いた!!」

誰かの叫びを皮切りに、歓声が爆発した。

「おおおおお!!」

「すごい! 本当に走ってる!」

「スチームウォータービークルだ!」

「外輪船だ! やったぞ!」

「社長さん、これ、早く作って! 乗ってみたい!!」

トミーが目を輝かせて言う。

「そうだな……俺もだ!」

外輪船は、ゆっくりと円を描きながら池の水面を進んでいく。

白い蒸気を吐き、規則正しく回る水車。

その姿は、まるで命を宿したかのように生き生きとしていた。

(……やったな。)

ヤマタニは静かに息を吐いた。

胸の奥に溜まっていた重圧が、すっとほどけていく。

外輪船模型は水をかき分け、悠々と進む。

くるくると回る外輪は、どこか愛嬌すらあった。

気づけば、孤児院の子どもたちや販売員まで集まってきている。 池の周りは、歓声と興奮に包まれていた。

ヤマタニは苦笑する。

「……こりゃあ、今日は仕事にならんな。」

一瞬の静寂のあと――

「仕事は終いだ。外輪船完成を祝うぞ。」

「おおおおっ!!」

待っていたかのように、再び大きな歓声が上がる。 その夜、熱気は冷めないままだった。

酒や果実水が振る舞われ、肉や魚料理が並べられた。

外輪船模型の完成を祝い、皆が笑い、語り合う。 深夜に至るまで――

ソンブレロモネダ商会は、かつてないほどの熱気に包まれていた。

――これで、村は変わる。