軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

真の黒幕

第55話 真の黒幕

実行犯は捕らえたものの、依頼主はフードを被った男であり、正体は掴めなかった。

次にどのような手を打ってくるのか、ヤマタニにも予測がつかない。

ひとまず、各バス商会に対して運行前点検を徹底するよう依頼した。

しばらくして、ヤマタニの蒸気バスに関する悪い噂が広まり始めた。

「ヤマタニバスはよく故障する。」

「事故を隠蔽しているらしい。」

「品質に問題がある。」

といった根も葉もないデマである。

「なるほど……今度はこう来ましたか。」

ヤマタニの中で、真犯人の輪郭が見え始めていた。

犯行によって利益を得る者こそが黒幕である——物語の定石でもある。

商人協会長へ状況を報告すると、協会側も犯人捜しに協力するとの確約を得た。

調査を進めると、バス業界で損害を受けている商会がいくつか浮かび上がる。

その中から、日頃よりソンブレロ・モネダ商会に批判的な商会が見つかった。

アロー馬車運輸商会とバロー牛馬運輸商会である。

いずれもヤマタニの発明した蒸気バスや蒸気機関車、蒸気トラックの普及により、客を奪われていた。

あまりに都合よく候補が浮かび上がったが、黒幕としては十分に筋が通っている。

「……やはり、このどちらかか。」

ヤマタニは静かに呟いた。

「泳がせて——炙り出します。」

ある日、酒場でフードを被った男がごろつきに金を渡しているところを、騎士団のミランドが目撃した。

即座に現行犯として拘束する。

やはり噂を流していたのは、アロー馬車運輸商会の社長だった。

そのまま衛兵に引き渡され、取り調べが行われた。

参考人として詰め所を訪れたミランドとヤマタニは、経緯と状況を説明する。

やがてアロー馬車運輸商会の社長は、堰を切ったように犯行を自白した。

「わははは。俺はやつに一泡吹かせてやった。」

「あいつの商会は大打撃をうけたにちがいない!」

「いい気味だ。ざまーみろ!!」

ミランドは静かに言葉を投げかける。

「売上が落ちたのは、あんたの経営が原因だ。ヤマタニ社長のせいではない。」

「人を安全に運ぶという点では、蒸気バスも馬車も同じだろう。」

「それなのに、客と同業者を欺き、危険に巻き込んだ。」

ヤマタニは一歩、前に出た。

「……やはり、貴方でしたか。」

静かな声だった。

「ミランドの言うとおりです。私達の仕事は——お客様を安全に運ぶことだ。」

視線をまっすぐ向ける。

「貴方は、それを踏みにじった。」

そして、言い切る。

「貴方は負けたのではない。」

一拍置いて——

「時代に、置いていかれただけだ。」

その言葉に、男はうなだれ、言葉を失った。

ヤマタニ男爵の商会に牙を剥いたアロー商会は、すべてを失った。

資産は没収され、商会は強制解散。

その名は、業界から完全に消え去った。

賠償金はソンブレロモネダ商会へ支払われる事になる。

アロー商会の資産は、すべてソンブレロモネダ商会のものとなった。

「アロー商会社長が、バスに細工してたらしいぞ。」

「やはり、ヤマタニ社長は正しかったんだ

。」

街の空気は一変する。

疑いは消え、信頼は——以前よりも強くなっていた。

やがて、返品されていた蒸気バスは元の場所へ戻された。

一台、また一台と——再び動き出す。

子供が笑いながら乗り込み、行商人が荷物を抱えて席に着く。

運転手が蒸気圧のレバーを引く。

シリンダーが動き——

シュー……と音を立てて、バスは走り出した。

それはもう——止まらない流れだった。

かつて馬車が支えていた道を、今は蒸気が走る。

時代は、確実に動いている。

その光景を見つめながら——

ヤマタニは、静かに呟いた。

「……これが、流れか。」

わずかに口元が緩む。

「なら——乗るしかないな。」

その目はすでに、次の未来を見据えていた。