作品タイトル不明
バロー社長のやり方
第56話 バロー社長のやり方
バロー牛馬運輸商会の社長もまた、アロー社長と同じ悩みを抱えていた。
ヤマタニの登場により、仕事は確実に奪われつつある。このままでは、いずれ商会を畳み、田舎へ帰るしかないだろう。
しかし——。
アロー社長のように、裏で手を回すような真似だけはしたくない。あの末路を思えば、同じ轍を踏むことだけは避けたかった。
(では、どうする……。)
頭を抱えながら日々を過ごしていたある日、思いがけず客人が訪れた。
商業協会の協会長である。
「これは協会長さん。こんにちは。」
「やあ、バローさん。」
応接間に通し、二人は向かい合った。
しばしの雑談の後、協会長は本題に入った。
「なぁ、アローのハモンドさんのようなことはしないでくれよ?」
その一言で、バローはすぐに察した。
「ああ……。その話でしたか。」
協会長が何を伝えに来たのか、はっきりと理解できた。
「新しい技術や商売というのは、日進月歩だ。」
協会長は静かに続ける。
「ヤマタニが現れてから、この国の産業や技術の流れは大きく変わった。」
「確かに……。」
バローは小さく頷いた。
「妬みややっかみが出るのは当然だ。だが、それ自体は仕方のないことだろう。」
協会長は穏やかな口調のまま、言葉を重ねる。
「ただ一つ言えるのは、ヤマタニにはヤマタニのやり方があり、バローさんにはバローさんのやり方があるということだ。」
その言葉に、バローは思わず息をついた。
「……つまり、バスにはバスの良さがあり、馬車や牛車にはそれぞれの良さがある、ということですね?」
「そうだ。まさにその通りだ。」
協会長はにっこりと笑った。
「アローさんは、すべてをヤマタニのせいにしてしまった。そして本来すべき経営努力を怠ってしまった。」
その言葉には、明確な警鐘が込められていた。
「商売でやられたなら、商売でやり返す。それが商人というものだろう?」
「……その通りでしょう」
バローの声には、迷いがわずかに消えていた。
二人はしっかりと握手を交わす。
同じ業界に身を置く者として、その言葉は確かに胸に届いていた。
そして、それぞれの立場で進むべき道を見据えながら、静かに別れたのだった。
◆
バローは、ヤマタニがバスで観光事業を行っているという話を耳にしていた。
しかし、バスのように速く移動する乗り物で景色を眺めるのは、どこか味気ないのではないか——そんな思いもあった。
そこでバローは、新たな試みとして馬車や牛車による観光を始めた。
これまでの馬車とは異なり、ゆったりとした速度で進むその移動は、流れる景色をじっくりと味わうことができると評判を呼んだ。
(これが協会長の言っていたことか……。)
バローは、静かに納得していた。
同じ土俵で同じことを競い合っても意味はない。自分の持つ強みを活かすことこそが商売なのだ。
従来の馬車や牛車の形は、特に年配の客層に受け入れやすかった。
「バスのような速さも便利だが、やはり馬車の方が落ち着くな。」
そんな声も少なくなかった。
(なるほど……受け止め方は人それぞれか。)
バローは、改めて市場の多様さを実感していた。
◆
ある日、ヤマタニのバスが故障した。
偶然、同じ道を通りかかったバローは、その様子を目にする。
ヤマタニは状況を確認した後、バローに声をかけた。
「このままだとお客様にご迷惑がかかる。よければ、馬車で街までお送りしてもらえないだろうか。」
その言葉に、バローは迷うことなく頷いた。
「ああ、いいよ。お互いお客様あっての商売だ。さあ、乗った乗った!」
手際よく客を馬車へ案内し、バローは意気揚々と街へ向けて出発した。
馬車はゆっくりと、しかし確かな足取りで道を進んでいく。
その光景は、競争という枠を越えた「共存」の一つの形であった。