軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蒸気バス妨害工作

第53話 蒸気バス妨害工作

蒸気バスは速く、便利で、時代の流れそのものだった。

だからこそ——

「手段は選んでいられん。」

ハモンドの目が、冷たく光る。

「連中を——引きずり下ろす。」

数日後。

ごろつきたちは前金を受け取ると、夜の街へと消えた。

狙いは蒸気バスの車庫。

深夜。

人の気配はない。

忍び込んだ男たちは、車体の下へ潜り込む。

工具を取り出し——

カチ、カチ。

小さな音が、闇に溶けた。

ボルトを、一つずつ緩めていく。

「これで走りゃあ——勝手に壊れる。」

男たちは、暗闇の中で歪んだ笑みを浮かべた。

やがて作業を終えると、そのまま闇へと消えた。

翌日。

蒸気バスは、いつも通り走り出した。

乗客を乗せ、街道を進む。

そのとき——

ガンッ!!

「な、なんだ!?」

車体が激しく揺れる。

ゴゴゴ……と嫌な音が響き、車輪が外れかける。

「止めろ!止めろぉ!!」

運転手は必死にステアリングを握りしめる。

汗が滝のように流れる。

後方では——

「いやああああ!!」

子供の悲鳴。

母親が抱き寄せる。

「大丈夫、大丈夫だから……!」

だが、その声は震えていた。

もう少しで——横転していた。

もう少しで——誰かが死んでいた。

ギリギリのところで、バスは停止した。

静寂。

そして——

その場にいた全員が、ようやく理解する。

「……助かった……のか?」

膝から崩れ落ちる運転手。

泣き出す子供。

震えが止まらない乗客たち。

“偶然助かっただけ”だった。

そして——悪夢は終わらなかった。

同様の事故や故障が、各地で次々と発生する。

「またか!?」

「今度は別の路線だぞ!」

不安は一気に広がり、やがて恐怖へと変わった。

「蒸気バスは危険だ。」

そんな噂が、街中を駆け巡る。

「一体どうなっているのですか?」

商人協会の会議室。

空気は、凍りついていた。

ヤマタニは、無数の視線を浴びていた。

「事故と故障が頻発しています。説明を。」

信頼は——崩れ始めている。

ヤマタニは即座に現場へ戻り、調査を命じた。

工場長、班長、整備士。

全員が総出で車両を点検する。

そして——

「これは……。」

工場長の声が、低く沈む。

「ボルトが……外されています。」

「しかも——自然に緩んだ形じゃない。」

別の班からも報告が上がる。

「こちらも同じです。」

「全車両、同様の痕跡があります。」

ざわめきが広がる。

ヤマタニは、静かに言った。

「これは故障ではありません。」

全員の視線が集まる。

「意図的に緩められている。——人為的なものです。」

空気が変わる。

つまり——

“誰かが、殺しに来ている”

報告を受けた商人協会は——

「言い訳では?」

冷たい一言を返した。

「証拠はあるのですか?」

「責任逃れにしか聞こえませんな。」

信じない。

いや——信じたくないのだ。

責任を押し付ける方が、楽だから。

受注は止まる。

納品済みの車両は、次々と返品される。

工場の広場には——

行き場を失った蒸気バスが、無言で並び続けていた。

まるで、墓標のように。

沈黙。

ヤマタニは、目を閉じた。

——そして、開く。

「……なるほど。」

その口元が、わずかに歪む。

だが——

その目は、まったく笑っていなかった。

(事故に見せかけた破壊工作。)

(証拠は残さないやり方。)

完全に理解した。

「いいでしょう。」

小さく、呟く。

「そこまでやるなら——。」

ゆっくりと立ち上がる。

「こちらも、やり方を変えます。」

静かな声。

だがそこには、確かな“殺意”があった。

(泳がせる。)

(証拠を掴む。)

(そして——まとめて潰す。)

「次は——こちらの番だ。」

ヤマタニの中で、すでに作戦は完成していた。