作品タイトル不明
蒸気バス妨害工作
第53話 蒸気バス妨害工作
蒸気バスは速く、便利で、時代の流れそのものだった。
だからこそ——
「手段は選んでいられん。」
ハモンドの目が、冷たく光る。
「連中を——引きずり下ろす。」
◆
数日後。
ごろつきたちは前金を受け取ると、夜の街へと消えた。
狙いは蒸気バスの車庫。
深夜。
人の気配はない。
忍び込んだ男たちは、車体の下へ潜り込む。
工具を取り出し——
カチ、カチ。
小さな音が、闇に溶けた。
ボルトを、一つずつ緩めていく。
「これで走りゃあ——勝手に壊れる。」
男たちは、暗闇の中で歪んだ笑みを浮かべた。
やがて作業を終えると、そのまま闇へと消えた。
◆
翌日。
蒸気バスは、いつも通り走り出した。
乗客を乗せ、街道を進む。
そのとき——
ガンッ!!
「な、なんだ!?」
車体が激しく揺れる。
ゴゴゴ……と嫌な音が響き、車輪が外れかける。
「止めろ!止めろぉ!!」
運転手は必死にステアリングを握りしめる。
汗が滝のように流れる。
後方では——
「いやああああ!!」
子供の悲鳴。
母親が抱き寄せる。
「大丈夫、大丈夫だから……!」
だが、その声は震えていた。
もう少しで——横転していた。
もう少しで——誰かが死んでいた。
ギリギリのところで、バスは停止した。
静寂。
そして——
その場にいた全員が、ようやく理解する。
「……助かった……のか?」
膝から崩れ落ちる運転手。
泣き出す子供。
震えが止まらない乗客たち。
“偶然助かっただけ”だった。
◆
そして——悪夢は終わらなかった。
同様の事故や故障が、各地で次々と発生する。
「またか!?」
「今度は別の路線だぞ!」
不安は一気に広がり、やがて恐怖へと変わった。
「蒸気バスは危険だ。」
そんな噂が、街中を駆け巡る。
◆
「一体どうなっているのですか?」
商人協会の会議室。
空気は、凍りついていた。
ヤマタニは、無数の視線を浴びていた。
「事故と故障が頻発しています。説明を。」
信頼は——崩れ始めている。
ヤマタニは即座に現場へ戻り、調査を命じた。
工場長、班長、整備士。
全員が総出で車両を点検する。
そして——
「これは……。」
工場長の声が、低く沈む。
「ボルトが……外されています。」
「しかも——自然に緩んだ形じゃない。」
別の班からも報告が上がる。
「こちらも同じです。」
「全車両、同様の痕跡があります。」
ざわめきが広がる。
ヤマタニは、静かに言った。
「これは故障ではありません。」
全員の視線が集まる。
「意図的に緩められている。——人為的なものです。」
空気が変わる。
つまり——
“誰かが、殺しに来ている”
◆
報告を受けた商人協会は——
「言い訳では?」
冷たい一言を返した。
「証拠はあるのですか?」
「責任逃れにしか聞こえませんな。」
信じない。
いや——信じたくないのだ。
責任を押し付ける方が、楽だから。
受注は止まる。
納品済みの車両は、次々と返品される。
工場の広場には——
行き場を失った蒸気バスが、無言で並び続けていた。
まるで、墓標のように。
◆
沈黙。
ヤマタニは、目を閉じた。
——そして、開く。
「……なるほど。」
その口元が、わずかに歪む。
だが——
その目は、まったく笑っていなかった。
(事故に見せかけた破壊工作。)
(証拠は残さないやり方。)
完全に理解した。
「いいでしょう。」
小さく、呟く。
「そこまでやるなら——。」
ゆっくりと立ち上がる。
「こちらも、やり方を変えます。」
静かな声。
だがそこには、確かな“殺意”があった。
(泳がせる。)
(証拠を掴む。)
(そして——まとめて潰す。)
「次は——こちらの番だ。」
ヤマタニの中で、すでに作戦は完成していた。