軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

食料高騰

閑話 食料高騰

移民者が増え、サンブレロの街では食料不足が深刻化していた。

その隙を突いたのが商人たちである。

「これはチャンスだ! 食料を買い占め、高値で売れば大儲けだ!」

「今は売るな、もっと上がる! あるだけ抱え込め!」

商人たちは密かに手を組み、小麦や食料を倉庫に溜め込んでいく。

市場から物が消えた。

結果――

野菜、肉、魚、果物に至るまで、あらゆる食料の価格が跳ね上がった。

サンブレロの街では、わずか数日のうちに物価が倍へと膨れ上がる。

「この店も値段が上がってるわ……。」

「すいませんねぇ、奥さん。仕入れが倍でして……。」

店主は申し訳なさそうに頭を下げる。

「パンが……買えない……。」

母親が、小さな子供の手を握りながら、空に近い棚を見つめていた。

「今日は黒パンと、具なしスープね……。」

日々の食卓が、確実に貧しくなっていく。

街には、不安と焦りが広がっていた。

「ヤマタニ様、食料の値段が高騰しております! このままでは混乱が――!」

執事長が駆け込んできた。

「ああ、分かっている。」

ヤマタニは落ち着いた様子でティーカップを置いた。

「すでにトラックと汽車貨物で、外から食料を買い付けている。順次到着するはずだ。」

「流石は旦那様……!」

執事長は安堵の息を漏らす。

だが、ヤマタニは首を横に振った。

「これは応急処置に過ぎない。」

「サンブレロは人口が急増している。工場、移民、観光……需要が供給を上回っている状態だ。」

静かに、しかし確信を持って言う。

「――ならば、歪みを正す。」

執事長の表情が引き締まった。

「商会を通じて食料を配給する。同時に――価格の不当な吊り上げを禁止する。」

「違反者は?」

「例外なく、資産没収だ。」

その一言は、あまりにも重かった。

ヤマタニはかつての世界で、何度も見てきた。

オイルショック、災害、戦争――

人は不安に駆られれば、必ず買い占めに走る。

だからこそ必要なのは、力だ。

市場を落ち着かせる“絶対的な力”。

「食料は足りていると示せば、人は冷静さを取り戻す。」

「と言う事で、今月の請求書です。」

「なっ!?」

ヤマタニは思わずお茶を吹きかけた。

自邸ですら、請求額が倍以上に跳ね上がっていた。

「これはまずいな……。」

一瞬の沈黙。

そして次の瞬間には、決断していた。

「臨時列車を増発しろ。トラックもバスも全車両投入だ。」

「街に流通する食料量を、一気に引き上げる。」

「はっ!」

「――市場は、“量”で叩く。」

その頃――

「おい!聞いたか!? 買占めは重罪、資産没収だってよ!」

「な、なんだと……!? 急げ、値札を戻せ――。」

「遅い。」

低い声が、倉庫に響いた。

振り返った商人の顔が凍りつく。

そこには、役人と兵士たちが立っていた。

「在庫の開示命令だ。倉庫を開けろ。」

「ま、待て! これは正当な――。」

扉が強引に開かれる。

中には、積み上げられた大量の小麦袋。

隠し続けていた証拠だった。

「確認した。全量没収。」

「やめろ! それは俺の財産だ!」

「違反者に財産は認められない。」

冷酷な宣告だった。

兵士たちが一斉に動き、袋が次々と運び出されていく。

商人は崩れ落ちた。

その光景は瞬く間に街中へ広がった。

結果――

「値段を元に戻せ! 今すぐだ!」

「もう儲けなんていい! 捕まるぞ!」

商人たちは一斉に態度を翻した。

高騰していた食料価格は、急速に落ち着いていく。

混乱は、終息へと向かい始めた。

だが――

この動きは、サンブレロだけの問題ではなかった。

ヤナーク伯爵領

「何? ヤマタニの街で移民が急増しているだと?」

「はい。その影響で、こちらも食料価格が高騰しております。」

ヤナークは静かに目を細めた。

「……仕方あるまい。」

「備蓄を開ける。」

「しかし、それは非常時のための――。」

「今が、その非常時だ。」

短く言い切る。

「今年の収穫もある。持ちこたえられるだろう。」

「はっ!」

だが――

この食料高騰は、単なる需給の崩れではなかった。

誰かが、この流れを“作っている”。

サンブレロに流れ込む移民。

連鎖する価格高騰。

不自然なほどに揃いすぎた状況。

その裏にあるものに、まだ誰も気づいていない。

――嵐は、まだ始まったばかりだった。