作品タイトル不明
ここにやって来て本当に良かった
第50話 ここにやって来て本当に良かった
「サンブレロの街に、移民が殺到しています」
報告を受け、ヤマタニは眉をひそめた。
「……この街に?」
かつては寂れた地方都市。
急に人が押し寄せる理由がわからない。
「原因を調べろ。受け入れ体制も強化する。」
ただ受け入れるだけでは、街は崩壊する。
ヤマタニは即座に指示を出した。
幸い、備えはあった。
規格を統一した建材による低コスト住宅。
それを折りたたみ式にした仮設住宅を量産可能にしていたのだ。
さらに仕事はいくらでもある。
鉄道の複線化。
屋敷の建設。
街を守る外周の掘りと畝の整備。
「……人手はいくらあっても足りん。」
だが、それにしても多すぎる。
「他の街で、何が起きている?」
ヤマタニは静かに呟いた。
◆
「ここがサンブレロの街か……。」
男は空を見上げた。
青い。
あの街とは違う。
黒い煙に覆われ、咳が止まらず、
仲間が死んでいったあの場所とは。
「空気が……きれい。」
隣の女が、信じられないものを見るように呟いた。
工場は多い。
だが煙は高く流れ、街にはこもっていない。
人々の顔にも、生気があった。
「あそこに比べたら……天国みたいね。」
家族は町役場へ向かった。
移住しなければ、生きていけなかったのだ。
◆
役場の住民課は人であふれていた。
列に並び、ようやく順番が回ってくる。
「登録書に記入をお願いします。」
「……すみません。読み書きができません。」
受付の職員は頷いた。
「大丈夫です。こちらで代筆します。」
名前、年齢、家族構成。
一つ一つ丁寧に聞き取っていく。
その対応に、男は少し驚いた。
――追い返されない。
――殴られない。
ただ、それだけのことが、こんなにもありがたいとは。
「これで登録は完了です。今日からサンブレロの住民です。」
その言葉に、女は目を潤ませた。
「……よろしく、お願いします。」
こうしてまた一つの家族が、
サンブレロの街に居場所を得た