軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

工場直営店舗と開発の両立

第12話 工場直営店舗と開発の両立

銀貨と銅貨を机の上に並べる。

カチャ、カチャ、と乾いた音が部屋に響く。

一枚ずつ丁寧に数え直す。

だが、何度やっても結果は変わらない。

「……ギリギリ、か。」

生活費、材料費、子供たちの食事。

差し引けば、ほとんど残らない。

売上が問題だ。

金を稼がなければ、いずれ詰む。

その現実が、喉を締め付ける。

脳裏に、あの日の光景がよみがえる。

「進学は……無理だ。」

そう告げた時の、息子の顔。

期待が消え、静かに沈んでいくあの目。

何か言おうとして、声が裏返った。

喉が焼けるように痛かった。

守れるのか。

いや、守るしかない。

ヤマタニはゆっくりと息を吐き、思考を切り替えた。

今は過去ではなく、目の前だ。

どうすれば、この子供たちはもっと早く、正確に仕事を覚えられるか。

その一点に集中する。

結果から言えば、少年二人――ケンとロミオは当たりだった。

飲み込みが早い。

一度見せれば、二度目にはほぼ再現できる。

「そこはもう少し固めに。」

「はい!」

素直さもある。

石鹸の型入れ、ロウソクの芯の固定、油の扱い。

危険もある作業だが、注意すべき点をきちんと守る。

生産ラインは、目に見えて整っていった。

無駄な動きが減り、作業の流れが滑らかになる。

人が増えただけではない。

“仕組み”として回り始めていた。

そこでヤマタニは、新たな一手を打つ。

「ここに店を出す。」

工場の前。通りに面した場所。

簡素だが、木材で組んだ小さな店舗を作る。

露天とは違う。

“常にそこにある店”だ。

陳列棚を並べる。

高さを変え、視線が自然に流れるように配置する。

石鹸は手前に。

ロウソクは奥にまとめる。

香りがほんのり漂うように、少しだけ袋を開けておく。

「……いい匂い。」

通りすがりの女が、足を止めた。

それだけで価値がある。

少女――ウテナには売り子を任せた。

「いらっしゃいませ!」

最初は声が小さかったが、数日もすれば変わる。

客の顔を見て話す。

商品を手渡す。

金を受け取り、笑顔で送り出す。

ぎこちなかった動きが、少しずつ“仕事”になっていく。

「これ、いい香りね。」

「はい!お茶を使ってるんです!」

ウテナの声に、少しだけ自信が混じる。

その変化を、ヤマタニは見逃さない。

(いい傾向だ。)

現場が回る。

それだけで、世界が変わる。

ヤマタニ自身は、ようやく時間を得た。

木を削り、小さな型を作る。

形を変え、厚みを変え、使い心地を試す。

泡立ち。

硬さ。

香りの残り方。

すべてが商品価値になる。

さらにヤマタニは、街の雑貨屋にも足を運んだ。

「うちの商品、置いてもらえませんか。」

最初は断られる。

当然だ。実績がない。

だが、一つ、また一つと置いてくれる店が現れる。

代わりに簡単なポスターも作った。

“香りの良い石鹸”

“長持ちするロウソク”

派手ではない。

だが、確実に目に入る。

露天、直営店、そして卸。

点だった販売が、線になり始める。

街のあちこちで、少しずつ“名前”が広がる。

その日の夕方。

「ヤマタニさん!」

ウテナが小走りで駆けてくる。

「今日、昨日より売れました!」

手渡された袋の中。

昨日より明らかに重い。

ヤマタニは中身を確認し――

わずかに、口元を緩めた。

「……いいな。」

ほんの少し。

だが確実な前進だ。

これなら、回せる。

子供たちを食わせていける。

その確信が、胸に灯る。

だが――

ふと、違和感がよぎる。

(……そういえば。)

工場脇の小屋に寝泊まりしていた孤児。

最近、姿を見ていない。

一人だけではない。

気づけば、二人、三人と減っている。

(まあいい。)

もっとマシな寝ぐらを見つけたのだろう。

ここは、毎日薄いスープしか出ない。

居心地がいい場所ではない。

ヤマタニは深く考えなかった。

考える余裕もない。

今は、とにかく回すことが先だ。

金が厳しい。

もっと売らなければならない。

子供たちを守るために。

今度こそ、失わないために。

だが――

ヤマタニはまだ知らない。

街の裏で動く、もう一つの流れを。

マルペン商会と関わった孤児が、

静かに、確実に――

消えていっていることを。