作品タイトル不明
煙突トラブル
第48話 煙突トラブル
ゴホン、ゴホン――。
また咳が出る。
領主ヤマタニ様が、村を豊かにすると言って建てた工場。
最初は皆で喜んだ。
だが、煙がひどすぎた。
昼でも空は黒く、洗濯物は煤だらけ。
子供も、かかあも、咳が止まらない。
本来なら農民が領主様に意見などできない。
機嫌を損ねれば、家族もろとも処刑されかねない。
だから、皆ずっと我慢していた。
――あの日までは。
畑が燃えていた。
慌てて水をかけ、なんとか消し止めたが、
あと少し遅れていたら、家も家族も焼けていた。
震えが止まらなかった。
「……もう無理だ。」
意を決して、領主様へ直談判した。
◆
数日後。
信じられないことに、ヤマタニ領主様ご本人が村に来られた。
「すまなかった。」
深く頭を下げ、謝罪金まで渡してくださった。
さらに煙の改善も約束してくれた。
――なんてお方だ。
村の誰もが、そう思った。
◆
一方――同じ頃。
とある溶鉱炉の街。
ゴホン、ゴホン――。
ここでも咳は止まらない。
夜も眠れず、子供も女房も弱っていく。
昼間でも黒い煙で空は暗く、
洗濯物は外に干すことすらできない。
「……もう限界だ。」
周囲の者たちと話し合い、工場へ向かった。
せめて夜だけでも止めてほしい。
そう頼むためだった。
だが――
「帰れ。」
門前で追い返された。
それでも引き下がらず中へ入ろうとすると、
警備員に棒で殴られ、叩き出された。
地面に転がりながら、歯を食いしばる。
それを見ていた若者たちが立ち上がった。
「俺たちが行く。」
今度は領主へ直接訴えるために。
――これで、変わるはずだ。
誰もがそう思った。
だが。
数日後。
帰ってきたのは――
希望ではなかった。
布に包まれた、いくつもの影。
静まり返る人々。
誰かが、震える手で布をめくる。
そこにあったのは――
冷たくなった、顔。
見慣れたはずの顔が、もう動かない。
「……なんでだよ。」
声にならない声が漏れる。
答える者は、誰もいない。
ただ一つ、分かることがあった。
――ここでは、声を上げた者は死ぬ。
黒い煙が、空を覆う。
まるで、この街の未来のように。
重く、暗く、どこまでも――。