軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

煙対策

第47話 煙対策

確か石炭には、有毒な成分が含まれている。

ヤマタニは煙突から立ちのぼる黒煙を見上げながら、ゆっくりと目を細めた。

――このままでは、いずれ必ず問題になる。

いや、すでに“なっている”。

火災の原因。 健康被害。 そして――住民の不満。

(放置すれば、信頼を失う。)

それは商売において、致命的だった。

「煙を……制御できないか。」

頭の中で、構造を組み立てていく。

煙を冷却し、 水で熱を奪い、 煤や有害物質を落とす。

その後、濾過する。

(最後に……水蒸気だけを逃がす。)

理屈の上では可能だ。

だが――

(問題は、フィルターの素材か。)

布ではすぐに詰まる。 だが、砂や炭を使えば――層として機能するかもしれない。

「……やってみるしかないな。」

ヤマタニは踵を返した。

迷いは、なかった。

その日のうちに、緊急対策会議が開かれた。

「煙突にフィルターを設置する。」

簡易図面を机に広げ、ヤマタニは言い切る。

「火災対策と、公害対策。その両方を狙う。」

室内に、わずかなざわめきが走る。

やがて、発電所の所長が口を開いた。

「……理屈は分かりますが、相当なコストになります。」

当然の懸念だった。

設備改修。 材料費。 人件費。

どれも無視できる額ではない。

だが――

ヤマタニは一切迷わなかった。

「これは金の問題ではない。モラルの問題だ。」

静まり返る室内。

ヤマタニは、さらに言葉を重ねる。

「たとえ利益が減ろうと――住民に被害を出す商売は続けない。」

その声は強くはない。

だが、揺るぎなかった。

「信頼を失えば、すべて終わる。それだけは絶対に避ける。」

誰も、反論しなかった。

いや――できなかった。

その場にいた全員が理解したのだ。

この男は、本気だと。

「……分かりました。すぐに準備に入ります。」

所長が深く頷く。

こうして、煙対策は正式に動き出した。

フィルターはヤマタニ自ら設計し、鍛冶屋で製作。

煙突への設置は、数日以内に行われることとなった。

一方――

別の場所にある溶鉱炉では、

昼夜を問わず、鉄の生産が続けられていた。

石炭がくべられ、 黒煙が空へと吐き出される。

濃く、重く、そして――刺すような臭い。

「所長、また近隣住民から苦情が……。」

部下が恐る恐る報告する。

だが。

「放っておけ。」

所長は吐き捨てた。

「領主様のご命令だ。庶民は黙って従えばいい。」

一切、取り合わない。

夜通し鳴り響く機械音。

空気は濁り、 家々の壁は煤で黒ずんでいく。

干していた洗濯物は、一晩で灰色に変わる。

「……またかよ。」

男が舌打ちする。

その隣で――

幼い子供が、苦しそうに咳き込んだ。

「大丈夫……?ほら、水を飲みなさい。」

母親が背中をさする。

だが、咳は止まらない。

窓を閉めても、 布で口を覆っても、

煙は、容赦なく入り込んでくる。

「こんなの……いつまで続くんだ……。」

誰かが、ぽつりと呟いた。

その声に、誰も答えない。

いや――

答えは、もう分かっていた。

限界だ。

住民たちの不満は、すでに臨界点に達していた。

同じ“煙”を扱いながら――

片や、守る者。

片や、踏みにじる者。

その差は、あまりにも大きかった。

そしてそれは、やがて――

決定的な違いとなって現れる。