作品タイトル不明
商人協会パーティー――狙われたヤマタニ
第31話 商人協会パーティー――狙われたヤマタニ
商人協会の大広間は、まばゆい光に包まれていた。
天井から吊るされたシャンデリアが煌めき、磨き上げられた床に反射する。
各商会の代表、事業者、そして貴族たち。
笑顔の裏に打算を隠した者たちが集う、華やかで――油断ならない宴。
その中に、ヤマタニの姿もあった。
隣にはケイト、そしてヒラリー。
「やぁミツテル。ずいぶん大きくなったじゃないか、ソンブレロモネダ商会は。」
「これは協会長。ご無沙汰しております。」
ヤマタニは穏やかに頭を下げる。
だが視線は鋭く、周囲の空気を探っていた。
(――今日は“品定め”の場だな。)
雑談の最中、ふいに会場がざわめいた。
空気が変わる。
この街の支配者――
ヤナール伯爵の入場だった。
重厚な衣装をまとい、堂々と歩く姿。
その一歩ごとに、周囲の人間が道を開ける。
そして。
まっすぐに、ヤマタニの前で止まった。
「君がヤマタニか。」
「はじめまして。伯爵様。」
視線がぶつかる。
試すような、値踏みするような眼。
「蒸気バスを作ったのは君だな?」
「はい。」
短く答える。
伯爵の口元が、わずかに歪んだ。
「面白い。あれを街で使いたい。巡回させるのだ。」
――来たな。
ヤマタニは確信した。
「とりあえず三台、購入したい。」
会場の空気が揺れる。
三台。
それは単なる注文ではない。
“領主が認めた”という証になる。
(だが――。)
ヤマタニの頭の中では、別の計算が走っていた。
現在、注文は山積み。
納期はすでに限界だ。
ここで優先すれば、他の顧客に不満が出る。
だが断れば、領主との関係にヒビが入る。
一瞬の沈黙。
「……隣国の貴族同士です。」
ヤマタニは静かに口を開いた。
「納車を少し早める工夫をいたしましょう。」
伯爵の目が細くなる。
「ほう?」
「正式な契約は、後日改めて。」
あえて、この場では確定させない。
主導権は渡さない。
数秒の静寂の後――
「いいだろう。」
伯爵は短く言った。
その一言で、場の空気が緩む。
だが。
それは“嵐の前の静けさ”だった。
――会場の隅。
そこには、別の空気があった。
「成り上がり者め。」
低く吐き捨てる声。
馬車商会の社長が、グラスを強く握る。
「蒸気バスだと? 馬車が売れなくなるではないか。」
「まったくですな。」
玩具商会の男が鼻で笑う。
「うちも影響が出ておりますよ。」
ロウソク、石鹸、玩具――
ヤマタニの事業は、確実に既存の市場を侵食していた。
「おたくも大変でしょう? ガメッツ殿。」
視線が集まる。
しかし。
ガメッツは肩をすくめ、静かに笑った。
「いやはや。わしはヤマタニ殿を尊敬しておりますのでな。」
その言葉に、一瞬だけ空気が止まる。
「……失礼する。」
グラスを置き、彼はその場を離れた。
(敵か、味方か――。)
誰にも読めない。
やがてパーティーは終わる。
笑顔で別れる者。
冷たい視線を向ける者。
握手の裏で、次の一手を考える者。
そして――
夜の帳が下りた頃。
ヤマタニの馬車が、静かに屋敷へと向かっていた。
その後方。
闇の中を、ひとつの影が追っていることに――
まだ誰も、気づいていなかった。