軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

少年は冒険者になる

閑話 少年は冒険者になる

孤児院を出た日、アルは空を見上げて言った。

「俺は――冒険者になる」

それが、唯一の希望だった。

そして数日後。

アルは本当に冒険者ギルドの扉を叩いた。

登録はあっさり終わった。

夢の第一歩――のはずだった。

だが。

「……仕事が、ねぇ」

現実は甘くなかった。

薬草採取は、すでに周辺の草原が狩り尽くされている。

弱い魔物も同じだ。腹を空かせた貧民や他の冒険者に狩り尽くされていた。

ダンジョンに至っては論外。

近場は人で溢れ、宝は根こそぎ持っていかれている。

残るのは――遠征か、強敵か。

「……どっちも無理だろ」

アルは川の土手に腰を下ろし、もらった剣を地面に突き立てた。

ヤマタニ社長にもらった、大事な剣だ。

「これじゃ……泣くぞ、これ」

ぽつりと呟いた、その時だった。

「ほぅ。お前さん、多少はやれるのか?」

気づけば、すぐ後ろに老人が立っていた。

音もなく。

「……仕事、あるのか?」

アルは食い気味に立ち上がる。

老人はゆっくりと頷いた。

「あるとも。小麦袋を狙う、ネズミ型魔物の討伐じゃ」

「報酬は?」

「銀貨五枚。それに――一匹につき銅貨十枚」

一瞬の沈黙。

「やる!」

即答だった。

ヤナークの街から南へ。

カルネラ村は、小麦畑がどこまでも広がる農村だった。

問題の場所は、水車小屋の横にある倉庫。

「ここか……」

夕暮れ。アルは剣を肩に担ぎ、倉庫の前に腰を下ろした。

焚き火を起こし、待つ。

だが――来ない。

夜になっても、来ない。

「……今日はいないのか?」

黒パンをかじりながら呟く。

干し肉は固い。腹も減る。

「まぁ、初日だしな……」

そのまま、アルは眠ってしまった。

――深夜。

火は消え、辺りは闇に沈んでいた。

カリカリ……カリカリ……

「っ!?」

アルは飛び起きた。

剣を掴む。

音の方を見る。

そこにいたのは――

「でけぇな……!」

人の腕ほどもある巨大なネズミが、倉庫の扉をかじっていた。

しかも一匹じゃない。

複数。

「……上等だ!」

アルは地面を蹴った。

一閃。

最初の一匹を叩き斬る。

だが。

――次の瞬間。

残りのネズミが、一斉に跳びかかってきた。

「くっ!」

肩に衝撃。

鋭い牙がかすめる。

血が滲む。

だが――止まらない。

「舐めんなよ……!」

振るう。

避ける。

斬る。

噛みつこうとする影を、叩き落とす。

顔を狙う一匹を、真っ二つにする。

息が荒くなる。

腕が重い。

それでも――

剣は止めない。

五匹。

六匹。

そして。

「……逃げたか」

残りは闇の中へ消えていった。

静寂が戻る。

アルはその場に座り込んだ。

「……やれるじゃねぇか、俺」

肩の傷がじんじんと痛む。

だが、口元は笑っていた。

翌日。

ネズミの死骸を担ぎ、アルはギルドへ戻った。

報酬を受け取る。

重みのある銀貨。

初めて、自分で稼いだ金だった。

「……悪くねぇな」

まだ未熟だ。

強くもない。

名もない。

だが――

こうやって一つずつ積み重ねていけばいい。

小さな依頼をこなし。

少しずつ強くなり。

いつか。

「待ってろよ、ヤマタニ社長」

あの人に胸を張って会えるように。

「必ず――恩返しする」

少年は歩き出す。

まだ誰にも知られていない、未来の冒険者として。