軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キ:ピリオ東のパン屋坂道

相棒のボウガン購入もひと段落したし、ゲーム内時間はちょうどお昼時。

せっかくだから、昼食はピリオのパン屋さんで買う事にした。

「パン屋は東門の近くの店が美味しいらしいよ」

「へ~」

ならばそこへ行くしかないでしょう!

石畳の道を、のんびり手を繋いで歩く。

相棒が言うには、有志wikiには『ピリオノートNPCグルメマップ』とかいう専用まとめページがあるんだって。

何人かのプレイヤーがせっせとレビューを書いてるらしい。

それによると面白い事に、全部が全部美味しい店ばっかりじゃないらしいんだよね。定食屋みたいな店だろうと、B級グルメみたいな店だろうと、美味しい所と微妙な所がある。

安酒と微妙な味のツマミを出す裏路地の酒場とかもあるんだって。

でもそういうところについつい通っちゃうプレイヤーもいるっていうから、好みって人それぞれ。

「……でもそんなに違いがあるほど食べ物屋さんがあるんだから、ピリオって大きな街だよね」

「それな」

さて、目的のパン屋さんは東門の近くにある、坂を上る階段を少し登った所。

窓の前の小さなスペースにテーブルと椅子が置いてある、三角屋根から煙突が伸びた可愛いお店。

少し小高い所にあるから眺めが良い。

「ん~、既にパンの良い匂い。では突撃~」

カランカランとドアベルの音。

「いらっしゃいませー」

香ばしい小麦の香りでいっぱいの店内には、店の主人らしき奥さんと、その娘さんかな? 素朴な赤毛の女の子。

お店の棚は美味しそうなパンでいっぱい!

ゲームだからね、どんなに中世ファンタジーっぽくても、日本でお馴染みな惣菜パンだってあるのが素晴らしい。

早速トレーとトングを手に取って、ついついトングでパンを威嚇しそうになるのをグッとこらえた。

「どうしよう、全部美味しそうだよ。相棒はどれがいい?」

「俺はまずそのウインナー乗ったやつ」

「はやーい」

ウインナーとチーズの乗ったパンを取って……あーどれにしよう。こっちは卵、こっちはベーコン。

「どうせなら拠点で食べる用のも買っちゃおうか」

「いいんじゃない」

ふかふかの食パンと、バゲットも買っちゃお。

……お、こっちの棚のパンは?

「え、すごい。相棒見て見て、ジャムパンめっちゃ種類ある」

「……おおー」

イチゴジャムに始まってブルーベリーにラズベリーにクランベリー。それからリンゴジャムにブドウジャムにオレンジマーマレード。さくらんぼにコケモモなんてのもある。名前を知らないジャムのパンもあるよ。

種類の量に感心半分呆れ半分していたら、店の奥さんがクスクスと笑った。

「それはですねぇ、うちの娘がジャム屋の倅と婚約したんで。その記念のパンなんですよっ」

「お母さん! お客さんに余計な事言わないで!」

なんだってー!?

そんな可愛い理由のパンシリーズなの!?

自前の赤毛に負けず劣らず真っ赤になって怒ってる娘さんプライスレス。微笑ましい〜。

「そういう事なら御祝儀代わりに買わせていただきます」

「お客さん!?」

「まいどどーも!」

イチゴジャムのパンにしよう。結局これが一番好き。

隣の棚にジャムの瓶もあったから、それも買っちゃった。

* * *

結局拠点にお土産も含めてたくさん買っちゃって、お店の窓の前のテーブルで食べることにした。

近所の住人っぽい人達とか兵士っぽい人達とか冒険者っぽい人達とかが買い物に来るのを眺めながらお昼ごはん。

……うん、美味しい。

景色も良いし、天気も良いし、パンは美味しいし、最高だね。

「イチゴジャムがあるってことはイチゴあるよね」

「あるだろうね」

苗か種か欲しいなぁと思いながら探してなかったなぁ。

こんな普通にジャムが売られてるなら、僕が見落としてただけでお店に普通にありそう。

……よし、ごちそうさま。

のんびり食べ終えて、パン屋さんを後にする。

「せっかくだから、坂の上まで行ってみようよ」

「いいよ」

石の階段を上って、民家の間の小道を進み、また階段を上る。

気分は完全に探検のそれ。

坂の上にはちょっとした広場があった。

石畳が丸く綺麗に敷かれた広場は、中心に木が一本生えててベンチがいくつか置いてある。

でもお昼時だからかな誰もいない。

こんな風が気持ちいい広場が貸切状態なんてツイてるね。

「……そうだ」

「うん?」

「カラスちゃん。ピリオも一応聞いておこうと思って」

ここは坂の上だから見晴らしもいいしね。

誰もいないのを確認して、服の下に隠してた籠の首飾りを引っ張り出した。

目立たないように、でも中から外は見えるように手で包みながら声をかける。

「……何よ?」

「カラスちゃん、ここの景色は見たことある?」

まぁ、ダメもとなんだけどね。

だって僕らのいる森は、明らかにこことは……なんていうか、ズレた場所みたいだから。

あの森を知ってるって事は、こっちの事は知らないと思う。

カラスちゃんは、小さな籠の中から広いピリオノートの街を見下ろした。

「……随分様変わりしてるけど、見たことあるわよ」

えっ?

「壁と大きな建物しかなかったけど、間違いないわ。一番高い所の旗は、よく覚えてる」

ピリオノートで一番高い位置の旗は、お城の一番大きな尖塔の屋根の上。

風にひらめく、王国の紋章。

「……なんで?」

「…………」

相棒は口元に手を当てて考え込んで、僕はポカンと瞬きを繰り返すばかり。

カラスちゃん、キミは一体どこから来たの?