軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:混線させた誰かと

四葉亭の夢から戻り、拠点自室のベッドで起き上がる。

商品の補充もしたし、今日で夢の作業はこんなもんだろう。

「……さて、この後はどうする?」

そう言いながらキーナを見る……が、俺と同時に戻ったはずのキーナは目覚めていない。まだ眠ったままだった。

「あれ?」

なんだ?

この数日、一緒に行き来してこんなにタイミングがズレたことは無かったはずだ。

「……キーナ?」

声をかけて揺すっても起きない。穏やかにスヤっている可愛い寝姿のままだ。

体が残っているって事は、ログアウトはしていない、睡眠状態。

って事はイベントか? 同じ夢にいたんだし、それなら俺もイベントに入りそうなもんだけど……

「そっちの奥さんはしばらく起きないよ。他の夢に混ぜたからね」

「っ!?」

息を呑んだ。

背筋が凍るような感覚に引っ張られるように振り返る。

聞き覚えのある声。

あろうことか俺達の寝室の片隅に、なんでもないような顔で立っているのは全身を覆う黒いマント。

フードの下から覗く、嗤った口元。

暫定使徒のニヤニヤ野郎──!

ちょっとした行き来だからと面倒がって普段の戦闘装備のままだったのは幸いか。

咄嗟に短剣を構えると、ニヤニヤ野郎は「まぁまぁ」とヒラヒラ手を振る。

「話をしに来ただけだからさ。外の子達を不安にさせないためにも、暴れない方がいいんじゃない?」

……嫌な釘の刺し方をしやがって。

どうやってここに……と思ったが、そもそも前に闇の聖域まで覗きに来てたな。紛れ込むのが得意なんだろう。ゲームの悪役の幹部なんて、神出鬼没なもんだしな。

「……話とは?」

構えた短剣はそのままに問えば、ニヤニヤ野郎は口元の笑みをさらに深くした。

「ねぇ、万能な力が欲しくはないかい?」

「……必要ない」

「まぁまぁ」

何を言うかと思えば。

即答を返すと、ニヤニヤ野郎は「結論を急がないで」と笑みを崩さずに話を続ける。

「君は何かと混ざって能力を得ることに抵抗が無いだろう?」

指をひとつずつ立てながら、ニヤニヤ野郎は要素をひとつずつ上げていく。

「精霊と合体して、獣と通じ合うための実を口にして、闇の根源を受け入れ、左目に魔眼を入れたと思えば、右目は告死獣の力が入り、そこの奥さんが霊体化して全てを委ねるのさえ受け入れるときた!」

……うん、そうやって並べると確かに俺は色んな要素が混ざってるか……

何も反論出来ない俺に、ニヤニヤ野郎はケタケタと嗤いながら続ける。

「そんな君は、ここからさらに別の要素だって、有用と思えば受け入れるだろう? そんな君にはお勧めだよ? ……我が【混沌】の力は」

そう言うと、ニヤニヤ野郎は右手を、手の平を上にして前に出す。すると、その上に、ドロリとした虹色の粘液のような球体が出現した。

「光と闇は対極? 火と水は対極? 馬鹿を言っちゃあいけないよ。万物は表裏一体。全ては同じ世界に存在するのだから、すなわち全ては同じなのさ」

虹色の粘液から、火や水、風と土、雷や氷や石、草花や木の枝、そして光と闇が……不気味な生き物のようにチラチラと顔を覗かせる。

「分かりやすいメリットはね、【闇】を選んだ君でも、【光】が使えるようになるよ。【草】や【木】だって。もっと言うなら……あらゆる属性に区別がいらなくなる。全ては【混沌】に収束し、【混沌】で全てを扱えるようになる」

なんなら【星】も【死霊】も【呪】や【幻】や【夢】といった特殊なモノさえ、全て【混沌】に含まれる。と、ニヤニヤ野郎は言う。

「……それで、デメリットは?」

「ちょーっっっと奔放で自由だから、意に反して好き放題暴れるかもしれないかな?」

ほら見ろデメリット付きじゃねぇか。しかも魔法に自我があるのかよ。

「……必要ない」

俺は繰り返し拒絶の言葉を返す。

ニヤニヤ野郎は嗤ったまま、さらに何かを言い募ろうとして……「おや?」と面白そうな顔で床を見た。

直後、突然床をすり抜けて来たかのように、室内に巨大な竜の頭部のようなモノが出現。ニヤニヤ野郎に喰らいつく。

竜の頭部には後光。

部屋の空間に数枚飛び散る濃い灰色の羽毛。

ニヤニヤ野郎は噛み付かれながら……ケタケタと嗤った。

「久しぶり、元気そうで何よりだねぇ! じゃあ、今日はこの辺にしておこうかな……またね」

そう言い残して、ニヤニヤ野郎は現れたのと同じくらい唐突に消えた。

……後に残ったのは、デカい竜の頭部。

「チッ、逃がしたか……」

あ、なんだその声は。

「……フランゴか」

「貴様、よもやアレの甘言を受けておらんだろうな?」

「……断ったよ」

「ならば良い……アレは敵だ。受け入れれば多くを敵に回す事になると思っておけ」

なるほど、受けるつもりはなかったけど、もしも受けたらNPCの好感度はダダ下がりしそうだな。

「……あいつはなんなんだ?」

「知らん。使徒の味 も(・) するが……味が混ざりすぎていて何もわからん」

天使フランゴはヒトの形態に戻ると、俺にビシィッと指を突きつけた。

「いいか、貴様はオレ様が強くなるのに一役買ったから来てやっただけだ。次があると思うなよ」

「……分かった、ありがとう。美味いモノか粘液かをまた用意しておく」

ツンデレの常套句みたいな台詞を吐くフランゴにそう返すと、フランゴはフンとまんざらでもなさそうに鼻を鳴らして消えていった。

「……はーっ……」

疲れた。

とりあえず、窓を開けて拠点を確認。

……外では小粒達を含めた面々が、何も知らずに楽しそうに過ごしているのが見える。よし、とりあえずひと安心だ。

俺はベッドに戻って、まだ寝ているキーナを抱きしめた。

起きて来るまでは、このまま癒されていよう……