軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:心ゆくまでチョコレート

キーナの魔法の【トリック・オア・トリート】は、条件が合致すればアイテム集めには最高なんだよな。

キーナの個人インベントリから溢れかえったイベントチョコレートの粒を見ながらしみじみと思う。敵の数が多いから量が半端ない。

こんな仕様の魔法が普段使い出来ているのは、デバフになるかアイテム獲得になるかが相手次第だという事と、獲得アイテムの物によっては戦闘が不利になる可能性があるっていう運試し要素の強さがあるからだろう。現に、今回のキーナはアイテム目的じゃなく、デバフ目的で使っていたしな。

溢れた粒チョコを夫婦共有インベントリへと収納する。

バレンタインダンジョンの敵から手に入るチョコレート素材は2種類。

『チョコット印の粒チョコ』と『チョコット印の板チョコ』だ。

粒チョコが通常ドロップ。板チョコの方がドロップ率は低い。

そして粒チョコは20個で板チョコ1枚になる。

バレンタインイベントのチョコレートレシピは、この板チョコが無いと作成できない。

一応、粒チョコや板チョコのままでも食べられるが、このままだと素材扱いだからプレイヤー同士でプレゼントしてもバフアイテムには化けないし、投票やクエストへの提出には使えない。

つまりは、多ければ多いほど良い素材って事だ。

「インベントリ整頓してから来るんだった!」

「それな」

こうなると【トリック・オア・トリート】を使わない理由は無いが、キーナの個人インベントリは色んな物で埋まっているから、魔法を撃つ度に粒チョコが散らばってかなり面倒な事になっていた。

「普段からもう少し開けておこうな」

「ひぃん」

「ア、マスター! 鹿と狐も来たヨー!」

「うわぁい!」

ブラック・C・常闇キツネ Lv35

ミルク・C・夢喰い大角鹿 Lv30

レベルが低めだと数が多くなる。

ちょうどツーパンベアが片付いた所で追加投入されたから対処は問題ない。

加えて、チョコットファクトリーには特殊なギミックがある。

「【フレイムクリエイト】!」

固形のチョコレートエネミーには【火属性】を、液状のチョコレートエネミーには【氷属性】を当てると、それぞれ溶けたり固まったりする。

今、キーナの【火魔法】が当たって、鹿が溶けかけて動きが鈍くなった。

広範囲のエネミーに満遍なく当たるようにするとかなり有利な上に、全体の半分近くのエネミーがその状態になると……

──『チョコレートの品質維持に致命的な温度変化を確認!』

──『テンパリングモードに入ります!』

ダンジョン内にこのアナウンスがかかって気温に多少の変化が生じ、全エネミーの動きが鈍くなる。

こうなればチャンスタイムだ。

ガンガン強攻撃を叩き込んでチョコレートエネミーを倒していく。

逆に、使用に注意しないといけないのは【水魔法】だ。

【水魔法】を使ったが最後、ダンジョン内のキッチン用品を模した物体のいくつかがショートしたような火花を散らし、ダンジョン全体に【雷属性】の無差別全体攻撃が入る。

【雷属性】を耐えきる自信があるならあえて発生させるのも手だが、かなり高威力らしいから俺達はやめておくことにした。

「相棒ー! なんかすごいの出てきたぁー!!」

「あ、それがボスだ」

モンスターをある程度片付けると、ダンジョンの奥の壁が開いて、中から巨大なチョコレートファウンテンが現れる。

ダプンダプンとチョコレートを揺らしながら前進してくるチョコレートファウンテンは、頂上にチョコットットの像が乗っていて、暴走している表現なのか目が赤く光っていた。

──『フォンデュフィイイイイバァアアアアア!!』

アナウンスの派手な絶叫。

それと同時に、チョコレートファウンテンから火山の噴火のように溶けたチョコレートが噴出する。

生き物のようにうねる甘い匂いのチョコレートの波。

派手で雑だな、このボス。

「ウワー! マリーおいで! フッシー飛んでー!」

「ウワットットットォー!」

「ヌォオオオ!」

攻撃はシンプルに物理だ。チョコレートの鉄砲水で広範囲をぶん殴ってくる。

床に排水口があるのか、チョコレートで水没するような事は無い。

「弱点は一番上の像!」

「はーい!」

「ハーイ!」

「承知!」

「頑張ってください」

ボスはどんなプレイヤー相手でもこの仕様らしいから、それほど難しい事は無い。

特に俺達は遠距離攻撃の手段が豊富だ。

チョコレートの波も、高い台に上がれば避けるのは難しくない。

途切れず叩き込み続けた矢が、頂上の像を撃ち抜くと……

──『チョコレートフルコースの完食を確認!』

──『ありがとうございました! またのお越しをお待ちしております!』

キッチンの惨状を何も気にしていない朗らかな明るい声のアナウンスが流れて、ワンクールが終了する。

「お疲れ」

「ぷは~、お疲れ〜」

「今ので一周。入り口に戻ってスイッチ押すと、何度でも繰り返せる」

「なるほど……外に出ないで休憩とか挟んでもいいんだ?」

「大丈夫」

どうせなら軽く休憩を挟んでから、ハードモードも体験していく事にした。

「とりあえず、今の内にインベントリ整頓しときなー」

「そうだった!」