軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユ:バレンタインダンジョン入り口前

NPCの告白用にチョコレートを取ってくるクエストを受けて、キーナがゴキゲンになった。

イベントを楽しんでいるようで何よりだ。

そのまま俺達は防壁の外までやって来た。

冬の決戦ではデコイまみれだったピリオノート外の南側。

バレンタインイベントが始まったそこは……出店だらけの祭り会場になっていた。

食べ物の露店と、ポーションや消耗品の露店と、魔道具の露店なんかが軒を連ねている。秋祭りとは少し違って、実用性の高い物が多いのは、ダンジョンアタックしているパーティーを相手にした商売だからだろう。

露店と露店の間にはそれなりに隙間があるが……これ、リアル夜のゴールデンタイムになったら店がギッチリ並ぶのか?

人の数は、まぁそれなりだ。

ダンジョンでひと仕事終えた後なのか、それとも単にヒトがいるから来ているだけなのか、そこらに座って話し込んでいる一団がちらほらいる。

注目は……まぁチラチラ見られてはいるが、突撃してくるような奴はいなかったのは幸いだ。

大街道から外れた方へ少し入ると、そこにバレンタインダンジョンの入り口がある。

バレンタインダンジョンは、世界を渡り歩く移動ショコラ工場が墜落した、という設定だ。

そんな移動ショコラ工場である『チョコットファクトリー』とやらは、銀色のUFOの下半分に、巨大なチョコレートファウンテンを乗せたような見た目をしていた。

(なぁにこれぇ〜)

(またエキセントリックな工場だな……)

ジャックは大喜びで、墜落した設定の傾いたチョコUFOを観察している。

デューはポカーンとしているような雰囲気で。

マリーは小首を傾げていた。

同じ主を持つオバケ達でも、感想や反応は違うもんだな。

なお、ネビュラは「ヒトの子よくわからぬ……」と呟いていた。残念だったな、このUFOはチンチラの所有物だ。

(……あれ? 相棒ー、投票の方にフランゴ君いるよ)

(ええ?)

キーナが俺の袖をくいくいと引きながら示した先。

人気投票のチョコレート投入BOXが置かれた一角の近くに……UFOの持ち主のチンチラ『チョコットット』と……その隣に天使の翼と輪を持つ人型のフランゴがいた。

(え、何でしれっといるんだろ?)

(さぁ……?)

フランゴ仲間化イベントは全体でクリアしているわけだから、冬の時のように近付いていきなり襲われたりはしないだろう。

俺達はフランゴの方へ向かって進んでみた。

何故か椅子に座っているフランゴの横には、木製の大きな荷車が置かれていて……その中には料理やチョコレートが山積みになっている。そして正面にはアウトドアで使うような折りたたみ式の木製簡易テーブル。さらには日除けなのかパラソルまで置かれていた。

暇を持て余しているように見えるフランゴは、時々荷車からひとつを選んで取り出し、ちょっと満足気な顔でもぐもぐと食べていた。……あいつ、使徒時代が嘘みたいな食いしん坊キャラになったなぁ。

それなりに近付くと、フランゴが俺達に気が付いた。

「なんだ、お前達か」

「……どうも」

「こんにちはー、フランゴ君何してるの?」

「仕事だ。コイツが万が一にも使徒に襲われぬよう見張っている」

コイツと言いながらフランゴが指したのは、隣のチョコットット。

なるほど、イベントキャラに絡めた天使の仕事っていう名目でマスコットキャラを配置したのか。

チョコレートの人気投票なんてやるなら、人気のある大食いキャラなんか『チョコレートを渡させろ』って声は出るだろうからな。

「この料理はお弁当?」

「いいや、ヒトの子達がオレ様にと置いていった」

「……この荷車も?」

「そうだ」

「もしかしてテーブルも?」

「そうだ」

過保護か。

テーブルに真っ白なテーブルクロスまでかかってるぞ。

フランゴはそれに疑問を覚える様子もなく、料理やチョコレートを気の向くままに食べていた。

「お前達も美味いものがあれば入れろ。オレ様が食ってやる」

「あ、ハイ」

「このチョコレートとやらは初めて食ったが実に良いな。単純に甘いだけでなく、奥深い風味がある。それでいて口当たりが滑らかだ……生き物を直接喰らうとこうはいかん」

「……だってさチョコットットちゃん」

「チョコォ〜!」

しょんぼりと凹んでいたチョコットットは、チョコレートを褒められると少し嬉しそうな様子を見せた。チョコットットの工場のチョコレートだろうからな、自社製品を褒められて喜んでいるらしい。

……そんなチョコットットの方にも、小さなテーブルと荷車が置かれて食事が提供されていた。当然のように小さなパラソルもある。全体的に、フランゴの物よりもデザインがファンシーだ。暇を持て余したプレイヤーのこだわりが窺えるな……

なお、キーナは嬉々として、お気に入りのピリオのパン屋のジャムパンを、それぞれの荷車にひとつずつ入れていた。