軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ステータス、おかしくない?

資格試験が始まるよ。

手続き自体はわりと簡素で、空きがあればすぐに審査してくれるらしい。

五十メートル四方のコンクリ製建造物の中は、外から見たより広々としていた。マジでなんもない。天井や側面に光源があるだけだ。

で、地面は外とは打って変わって荒涼としていた。

ごつごつした岩肌。ぽっかり空いた大穴は一方が緩やかに下っていて、先が見通せない。

話には聞いていたが、マジでここだけ 別の場所と(・・・・・) 入れ替わった(・・・・・・) みたいだ。

つっけんどんな受付のお姉さんに案内されて待つこと数分。

男女の二人組がやってきた。

一人は大剣を背負った屈強なお 鬚(ひげ) のおじさん。もう一人は弓と矢筒を左右の腰にそれぞれぶら下げた二十代っぽい女の人だ。試験をチェックする〝探究者〟らしいな。

「? 君たちが今回の受験生か……?」

「子どもじゃないの……」

怪訝そうな視線が向けられているのはウラニスとマリアンヌお姉ちゃん。お姉ちゃんはわりと大人びているけど実年齢は十代だからなあ。いちおう二十歳ってことにしてるけど。

受付時間の終了間際の滑りこみ。当然、試験官の心証は悪い。

さらに彼らのこめかみをひくつかせたのは、

「今のステップ、完璧だったわね♪」

「ユリヤ見てください、さっきよりいい感じで撮れてますよ」

きゃっきゃと楽しげな美少女二人。

巷で流行のダンスを踊って撮影し、短い動画を投稿するSNSにアップしていたのだ。

だって試験監督が来るまで暇だったんだもん!

「す、すすすみません。あ、あの、シャルロッテさん、ユリヤさん、こっちに来てください」

俺たちが所属する『ヒイラギ探究者事務所』の所長、柊牡丹さんが長身を折り曲げてぺこぺこしている。

レベルが30を超える熟練クラスの探究者ながら戦闘力は皆無に近いそうな。試験時に付き添い役として同行していた。

ちなみに残るフレイたちはお留守番。試験は明日を予定している。一度に大人数は受けられないらしくてね。

さらにちなみに、俺は姿を消している。

そもそも探究者資格を得ようと思ってないし。裏方が俺には合っているのさ。べつに事務所に所属したら仕事を振られるからとかそんな理由では断じてない。

さて。

シャルちゃんたちが横並びになり、試験官二人がその正面に立つ。

ひげのおじさんが不審を色濃く視線に乗せ、正面と手元の紙面を交互に見やった。

「書類上はみな成人で日本国籍を有しているのは間違いないんだが……」

まあ見た目お子さまな子が三人いるもんな。実際お子さまなわけだし。

それでもすでに書類審査を通っているので、いくら疑念が拭えなかろうが指摘できないのがこの国の国民性なのだ。知らんけど。

「……まあいい。すでに知っているとは思うが、資格試験の進め方と注意点を読み上げる」

型にはまった説明を始めるひげのおじさん。

すでにご存じでは当然ない。もちろん今もまともに聞いていない。『柊さんがわかってるからいいっしょ』の心構えだ。

「――では、試験を開始する」

長ったらしい説明が終わり、ようやく魔物退治かと思ったものの。

「まずは君たちのステータスと固有スキルを確認させてもらおう」

あー、ね。ステータス。うんうん、それに固有スキルね。さすがに知ってる。ダンジョンや探究者のことを調べてたら嫌でも出てくる単語だ。

けど実際に確認するのは初めてか。

意識を集中すると、俺の目の前に半透明ウィンドウが現れた。

いわゆる RPG(ロールプレイングゲーム) とかでプレイアブルキャラクターのその時点での能力値や状態が記されているものだ。

体力とか力とか、レベルとか経験値とか、状態異常があればそれが表れる。ん? なんか違和感が……なんだ?

「基本的に自分しか視認できないものだが、このアイテムに手をかざすと他者にも見える状態で表示させる」

おじさんは手に水晶みたいなのを持って差し出してきた。ミージャの水晶に似てるな。

ステータスやスキルは基本、自分だけが知り得るもので他の人には内緒だ。ここで確認した情報は秘匿され、個人情報として外には出さないとおじさんは念を押した。

ただまあ、イキった探究者はSNSとかで自慢するので、本人次第で情報はガバガバだったりする。

「でで、では、私が見本ということで……」

柊さんが進み出て、水晶っぽいアイテムに手をかざした。

俺の前に出てるのと同じ半透明ウィンドウが現れる。ふむふむ、ステータスはさすがレベル30オーバー。俺の各数値より2倍から3倍くらい高い。

「相変わらず低いな、お前は」

あれ? おじさんってばすごい呆れた顔してますね。柊さんも「うへへ……」って半笑いだし。

次に呼ばれたのはなぜかシャルちゃんだ。

にっこにこで元気よく「はい!」とお返事して駆け寄っていく可愛い。

「なっ!?」

「は?」

「ふえぇっ!?」

驚き慄くお三方(試験官の二人と柊さん)。

「な、なんだこの値は? レベル1……で、間違いないが」

「牡丹さんよりずっと高いじゃない」

「ァ、ハイ……」

うん、俺と比べても5倍くらい高い。さすが 潜在能力(ポテンシャル) の天使。

そして驚くのはそれだけじゃなかったっぽい。

「固有スキルが『 聖域展開(サンクチュアリ・フィールド) 』だと? とんでもないものを引き当てたな」

「しかも 第二(セカンダリー) スキルまであるじゃないの! って、こっちはDランクの『 魔力弾(マジック・バレット) 』か。ま、 第一(プライマリー) がSランクで第二まで持ってるんだし、贅沢は言えないわよね」

女の試験官さんは驚いたり呆れたり忙しい。

柊さんは口をパクパクさせてるだけだった。

「次はわたしでいいかしら」

言いつつシャルと入れ替わって水晶っぽいのに手をかざしたのはユリヤだ。

「――」「……」「ぁ、ぁ、ぁ……」

絶句するお三方。

「ふーん、ステータスはまあ、こんなものかしら? 固有スキルは……『 空間跳梁(ワープ・トリックスター) 』? わたしの魔法とだだ被りじゃない。第二も『 威圧(スケア) 』だって。なんだかパッとしないわね」

今初めて見たと言わんばかり(きっとそうなんだろうな)で不満を漏らす。

いやステータス! 俺の10倍近いんだが?

続けてマリアンヌお姉ちゃんとウラニスもステータスをチェック。

それぞれ同じくらいの能力値で、どちらも防御寄りだけどだいたい柊さんと同程度だった。俺っていったい……。

固有スキルはそれぞれひとつずつ(これが正常らしい)

マリアンヌお姉ちゃんが『 女王の激励(ロイヤル・インスパイア) 』。全体バフ効果のあるA+ランク(Sランクの下)相当らしい。

ウラニスは『 弱点看破(クリティカル・リーディング) 』。Aランク相当で、魔物の弱点のみならず罠や物の構造なんかも見抜けるとかなんとか。

ちなみになんだが、俺の固有スキルはこうだ。

『 影薄(シャドウ・ノット) 』

自分の存在感を薄くする。

完全透明や完全隠密ではなく、「なんとなく見落とす」「近くにいても印象に残らない」程度。

いやいらんし! すでに誰にも見つからないようにしてますし!

てかスキル名も内容もしょっぱすぎる。マジで探究者試験受けなくてよかったー。兄としての威厳を失うところだったよ。まあ偽装すればいいって話ではあるが。

ともあれ、ステータスチェックは終わったのでいよいよダンジョンの中に入って試験が始まるぞ、と思っていたのだが。

「……試験内容を変更する」

ひげのおじさんが重々しく告げる。

「今の君たちでは低層の魔物など相手にはならないだろう。だから――」

女の探究者さんも顔を険しくした。

――我らと戦ってもらおう。

不意に。いや唐突に。

違和感の正体に気づいた。

ステータスチェックのときに浮かんだ違和感。

なるほど、シャルのスキルに『魔力弾』なんてのがあるのだから、そこで気づくべきだったのだ。

俺はもう一度、自身のステータスを眺めてみた。

うん、やっぱりだ。思い返せば俺だけじゃなく、シャルたちのステータスもそうだった。

一般的なRPGやなんかではあって当然のモノ。

魔力。

MP。

魔法に関するものだけが、存在していないのだ――。