軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不審な皇帝、不穏な学院長

さて。

あらためて拾ってきたモノを見てみよう。

メルちゃんがデザインしたそのままの形を保ってはいる。傷もなければ色褪せてもいない。

でもたしかに、中に収めたはずの超々高密度魔力体とやらはなくなっているし、儀式中枢へのつながりも断たれていた。

「知らん間に解決してたってことか」

俺がつぶやくと、

「そんなわけないでしょう? やっぱりこれ、思ったより深刻ね」

まったく深刻そうにない笑みでユリヤがこぼす。

「ユリヤ、どういうことですか?」

純朴な質問をシャルちゃんが投げると、

「別の〝器〟を見繕ったのよ。元の容れ物でもなく、 〝神〟(じぶん)(じぶん) の肉体でさえもないモノをね。でも妙だわ。いくら ヴィーイの肉体(こっちのガワ) の 容量(キャパ) が足りないからって、より強度の劣る『人』に移し替える理由って……あ、そういうこと」

なんか一人でぶつくさ言って納得してしまったぞ。

「ねえ、ハ――じゃなかった、シヴァ」

俺に顔を向けようとして、途中でぐるりと方向転換。偽シヴァに声をかけるゴールドさん。こいつもしかしてシヴァの正体に感づいてない?

「人を捜したいわ。手伝ってくれる?」

唐突だな、とはさすがに察しの悪い俺でも思わない。誰だかは知らんけど、たぶんそいつにヴィーイとかいう魔神の精神が憑依しちゃったか、これからするんだろう。

でも誰やねん? って顔を俺がしていたからか、ユリヤはその名を告げた。

「帝国皇帝、ヴァジム・ズメイ。きっともう手遅れだけど、場所は把握してすぐにでも対処すべきね」

一同に戦慄が走る。

ピンクちゃんの愛らしいお顔も不安に曇っていた。これはいけません!

パパパパパーっと半透明ウィンドウを展開しまくる。王都やその周辺、さらには国内の主要都市の各所にまで置いていた監視用結界からそれぞれの景色を映し出した。

呆気に取られるみなさま。けれどただ一人、いつもの笑みを消して視線を高速で走らせたのはユリヤだ。

「いたわ」

俺が容姿を訪ねる前に、ひとつのウィンドウを指差した。

厳つい顔つきながら虚ろな目をした男。

「この方は先ほどの……」

ユリヤとフレイが暴れてた現場でマリアンヌお姉ちゃんのお手伝いをしてたって人か。

若く見えるとか言ってたけど、画面に映る男は肌も髪も艶がなく、むしろ老人に近いように思える。

にしても、この場所は……。

マリアンヌお姉ちゃんも気づいたのか、口を手で覆ってわなわなする。

男――皇帝さんは空中に浮いた状態で、ゆっくりと移動していた。

奴がいるのは王宮の敷地内――進む先は、離宮だ。

と、さすがに警備兵がぞろぞろ集まってきた。誰何したり止まれと怒鳴ったりしながら魔法陣を展開する。

けれど皇帝さんはまるで反応しない。声が聞こえているかも怪しい。

当然、警備兵たちは警告を無視した侵入者に容赦なんてしない。殺傷能力MAXの魔法を躊躇なく撃ち放った。

「なっ!?」

マリアンヌお姉ちゃんを初め、他の面々も画面の向こうの警備兵たちも一様に驚いている。

攻撃が、すべて消え去った。正確には皇帝さんの体に当たる直前、謎時空へと吸いこまれてしまったのだ。

『そこまでだ! 不審者は僕が、正義の味方が相手をする!』

今度は全身メタリックなロボ刑事風のマッチョがやってきた。俺が与えた変身セットがさっそく役に立っているようだな。

空を駈けて殴りかかる中身ライアスな正義の味方。

ところが重そうなパンチはまったく効いている様子がない。その衝撃は皇帝さんに当たると同時に謎時空へ消えていくからだ。

「あれって、儀式の防御効果よね?」

ユリヤの言葉に、視線が黒づくめの男に集まった。一部は 俺(ハルト) に向けられていますやめてくださいよ。

「あ! 見てください、皇帝さんの手首のところにブレスレットが!」

ピンクちゃんの愛らしい叫び。

なるほど角度的に見えにくかったけど、よくよく確認してみれば見覚えのあるブレスレットが嵌められている。そこには色褪せた灰色っぽい宝石もついていた。

「また儀式の参加者が増えたってこと?」

ユリヤさん、ジト目は黒い男にお願いします。てか俺のせいじゃないよね? ひとまず厳ついおっさんがふりふり衣装じゃないだけマシだと思いたい。

などと言ってる間に、浮遊するおっさんが片手を払った。

飛び出る黒い魔弾の数々。

驚き慄く警備兵の皆さん。しかし彼らにはひとつたりとも届かず、いきなり現れた魔法陣によって魔弾はすべて弾けて消えた。

「ライアス……がやったのでは、ありませんよね?」

マリアンヌお姉ちゃんが俺をちらりと見る。

まあね、なんかやりそうだなーとは思ってたので、俺はこっそり片手を謎時空に沈めてあっちの監視用結界からにゅっと出しまして、ね。

シャルが見ている以上、凄惨な場面は見せられないのだ。

『警備兵は退かせてくれ。そして君がその男を抑えてくれたまえ』

俺はシヴァボイスでライアスにだけ聞こえるように指示する。

ロボ刑事風の男すなわちライアスはこくりとうなずき、指示を飛ばした。警備兵たちは躊躇いつつもそれぞれ散っていった。

単身残ったライアスは果敢に攻撃を加えていく。

けれどやはり、皇帝さんにはまったく通じてない。

歪な笑みが自信で満たされ、くつくつと笑い始めた。

「どうするの? 攻撃が通らない以上、押しとどめようがないわ」

ユリヤの言葉に、あわあわ観戦していたシャルちゃんもといピンクちゃんがきりりと表情を引き締めた。

「ともかく! です。あのお方を止めるには魔法少女でなければならないようですね。というわけで魔法少女イモータ……じゃなかった、ピンク、出撃します!」

ピンクちゃんはステッキをくるくる回したかと思うと、ぴゅーっと窓から飛び出した。窓を通過する瞬間、その肩にネコちゃんが跳び乗る。

相変わらず決断と行動が早い。

んじゃまあ、俺もこっそりついていこうかな、と首をこきこき鳴らしていたら。

「シヴァ、すこしよろしいですか」

声をかけられ振り向いたら、「え?」となぜか驚いた様子の学院長。

まずい 俺(ハルト) じゃなくてシヴァだったわ。

『私になにか用かな?』

すかさず間に黒い男を滑りこませる。

目をぱちくりさせたのち、背後にいる俺にジト目を寄越す学院長こっち見ないで。でも小さく息をつくと偽シヴァへと顔を向けた。ほっ。

「折り入ってお話があります。時間は取らせませんので、二人で話せませんか?」

今度は小さき人がジト目を飛ばしてきた。ちなみに二人だ。一人はティア教授、もう一人は魔法少女ゴールドさんことユリヤ。なんでや?

ともあれ二人で話すのはなんとなく嫌だ。でも断れない雰囲気を醸しているのも事実。

仕方ないな、と思うも、ご指名の男は今、中身空っぽの操り人形状態なので学院長と二人きりになるには俺と入れ替わらなければならない。

ところがどっこい、他の皆さまも注目してきた。

『むっ!? なんだアレは!』

偽シヴァが大仰なポーズで窓の外を指差す。皆さんの視線がそちらに向いた瞬間を狙い、俺は瞬時に偽シヴァを消して自身を黒い全身スーツ姿に変え、謎時空からハルトCを引っ張り出して俺がいたところに立たせた。

早着替えならぬ早入れ替わり。まさしくイリュージョン!

「今、一瞬貴方の姿が消えたような……」

学院長って鋭いね。

「どうやら気のせいだったようだ。よしテレジア学院長すぐ移動して話をしようそうしよう」

俺はシヴァモードでまくしたてつつ部屋を出る。

釈然としてなさそうな学院長はしかし、話を優先するのか無言でついてきてくれた。

『ワタシも聞いてていいよね?』

耳元でした小さな声。俺は無言でうなずいた――。